注文住宅

南青山M

内容:

都心にどう住まうか

そこには、変わらぬ二つの命題が常に課されている。厳しい立地を「建築」としてどう解決するかという点、そして高い地価の敷地ゆえにそれを最大限利用する必要が生じるという「経済」が作用する点だ。

敷地のポテンシャルを最大限に引き出す、という「経済」の意味ではこの住宅はある意味非常に素直だ。厳しい高度斜線の複雑な規制にそのまま沿った北西側の建物形状。そして、狭い前面道路からの道路斜線をクリアーするために採用した天空率計算により逆算的に導かれた外観のアウトライン。これらは、建築の内部に対して立体的な「敷地条件」のように作用している。

都市に住む、ということを「建築」的な道筋として考えるときに、その環境に正面から対峙するような方法を取ることは難しい。やはり、家にいるときに外からの視線を意識しなくてはいけないというのは安心できないと思うからだ。反面、都市に潜む隠者のような空間がつくる悦楽もまた、本来「人が住む」ということに対して背を向けているように感じる。雨が降ればそれを感じていたいし、夕方になれば変わりゆく陽光を楽しみたい。だから少々難しくても、建築の中に<外>を導くような空間のあり方からスタートしたくなるのだ。

半ば自動書記的に導かれた外皮に南北2カ所の坪庭と階段を「切り取る」ところから始まったプランニングは、同時に力を外壁のコンクリートに伝えにくい切り刻まれた床スラブを生み出すことになった。それを補うためにこの建築のスケールに対しては大きすぎる梁をどう扱うか? それが設計初期の課題だった。しかし、実施設計も進行中のある日、ふと上下を貫通する八角形の階段室を挿入するプランが浮かんだ。寝室それぞれに専用の水廻りを必要とする生活上の要求にもそれは上手く作用しただけでなく、構造的にも有利に働き、スラブを切り取っただけの厚みで床を構成することができた。層間をギリギリまでそぎ落とすことで、2.8mという天井高を持つリビングのボリュームを実現しているのだ。空間の豊かさはその平面だけではなく容積に大きく左右される。限られた面積の空間を、取り込んだ<外>、トップライトへと繋がる吹き抜け、そして八角形の階段がつくり出す<奥行>によって意識の上で拡張していこうとしている。

八角形の階段室は、閉ざされた<奥>とするのではなく、家の中では他と性質の違う<光>で充満させようと考えた。大きなガラス面のペントハウスやトップライトからの光を白い珪藻土、階段部材のスチール・ポリカーボネート、そして内部に張り巡らせた船舶用ロープで柔らかに反射、回折させようとしている。それが各階の出入り口と設計時より綿密に練っていった大小の丸い開口部から各部屋にこぼれ出てくる。リアルな生活空間と対比的に抽象化した白い世界が、厚いコンクリートの内側に表裏一体として存在している。

都市の懐に抱かれながらも、地球がもたらす<言葉>を常に受け取っていられる建築。それを細かいグラデーションのような配慮を重ね合わせながら実現していきたい。そのためにはいくつものチャレンジをしながらも「守られるべきもの」が見えていないといけないのではないか、それは皮膚感覚に近い安心感へと繋がるのではないか。ここが地球の一部である、ということを「繋げた」まま、都市に住む。ということへの一つの希求としてこの建築は生まれた。

(廣部剛司)