別荘

Villa SSK

種別:

別荘

エリア:

千葉県

内容:

海と山をつなぐ

 南房総の穏やかな海に寄り添うような距離感で接するロケーションである。かなり大きな敷地だったが、廻りに建つ建物を観察するとみなある程度の「引き」を確保している。地域協定があるわけではないが「お互いここから先は建築を建てないようにしよう」という、いわば紳士協定のようなものが感じられた。逆に言うとこのラインに海側の前線を設定しないと海と同時に隣家を眺めながら過ごすことになる。
 初めてこの敷地に降り立った時はずいぶん長い間(おそらく数時間)、ほとんど言葉を発せずにその場所を読み込もうとしていた。最初は圧倒的な海の存在感にかき消されんばかりだった細かな情報が徐々に染みこんでいくのを感じた。太陽の動き、風の流れ、潮の香り、植物の息吹、岩盤の存在… なかでも印象に残ったのは海と高い空、反対側にある岩山とそこを足がかりに育つ植物だった。だから、この岩山と目前の海景を高さ方向で「繋げる」ような建築にしようと思ったのだ。
 クライアントが主に要望されたのは、ゆったりと過ごせるLDKと海を眺められる浴室。ゲストが宿泊できるスペースと大切なクルマを飾ることもできる予備室(ガレージ)だった。そしてもう一つ、愛犬を放して遊ばせられるように海側の前庭に柵を巡らせることがあった。検討の初期に、この前庭の柵がかなり頭を悩ませることになった。それというのも、海と山をつなぐ建築にしようと思ったと同時に、視覚的にも海面とリビングを連続した空間に見せる方法を模索していたからだ。その条件をそのまま入れ込むと、いくら検討を重ねても間に柵が立ち上がってしまって連続性を確保することができない。そこで、家の中に「遊び場」をつくることにした。メインの棟とゲストルーム、予備室で囲われる部分を広めにとって中庭とし、タイルで仕上げた。犬が遊ぶ、または(愛犬の次というわけではないけれど…)ゲストが大勢遊びに来られたときはLDKから延長して使える「外のリビング」として使用することもでき、水を張れば光や風の動きを敏感に伝える水盤として楽しむことができるスペースとなった。また、平屋の予備室との間にある程度の距離を作ることが可能となり、道路側からの視線は遮りつつ、その向こうの岩山を強く意識させることとなった。また海側にはRCの片持ち構造で水盤を張り出させている。これは綿密な断面検討を経て、座った目線で水盤と海面が繋がるように計算されたものである。
 海側と山側を繋げる構造を実現するために、ここで採用したのはWTP+木造立体トラスアーチ構造。3ピン木造立体トラスアーチとLVLの壁構造を組み合わせることで、大きなスパンにもかかわらず直行方向の壁をほとんど設けずにトンネル状の空間を構成している。この方法を検討しているときに念頭にあったのは、構造体の「中に」空間を意識することができれば、その構造体がかなり大きなものであっても受け入れることができるのではないかということだった。つまり、トラス状に組まれた架構の内側にも空間が滲みだしていって、そこも自分のいる領域の大切な一部だと感じていけるようにしたいと思ったのだ。
 結果として、かなり大きな架構がLVLの硬い壁構造に向けてアーチ状に組まれることになった。母屋部分のボリュームが大きいことによって、見上げた視線の中でいつも海と大きな空、そして反対側の岩山が繋がった状態を作ることが可能となった。大きなアーチの中でくつろぎ、食事を取り、ゆったりと眠る。だから寝室も浴室もそこに置いてあるように設えようと思った(浴室廻りは構造体への影響が懸念されてもう一つのトンネル状のチューブで囲い取ることになったが)。
 建築はその場所に根ざす。この場所の読み込みが、かたちを成して、いつのまにかこの建築形態を生み出していった。この建築を設計していくプロセスでは、必死で選択を重ねていっただけのように感じるけれども、竣工した姿を見ると、まるでなにかに「つくらされた」ような不思議な感覚が残っている。

(廣部剛司)

廣部剛司

建築は「音楽」のように 昔から趣味で音楽をやっていることもあって、曲をつくるように建築を設計しています。そういうと不思議なことに感じるかも知れませんが、私にとっては「建築」は音楽に似ている、と感じたところがこの道に進んだきっかけだったので自然なことなのです。 建築は建つ場所(地球)にしっかりと腰を据えていますが、地球そのものが動いてくれることで、1日の中でも様々な光が刻々と差し込み、季節によってもそれは変化していきます。建築の中に佇み、地球の動きを感じていられるということは、そこで過ごす人に「自分自身は地球の一部なのだ」と語りかけてくれます。尊厳を持って人がその空間に身を置くために、そういった感覚が持てるということが、とても大切なことなのではないかと感じています。 時間の推移と共に動くという意味では、人がその空間の中を「動く」時にも、音楽が生まれていきます。流れゆく時間の中で推移して、その瞬間に消えていくことが音楽の儚く美しいところで す。スケッチを重ねながら、建築を体験する流れ(シークエンス)に音楽的な構成を持ち込んでいます。それは空間体験を曲の記憶のように刻んでいくことでもあります。 また、音色を紡ぐということと、どんな素材を使うのかということも深く結びついています。それは寸法やプロポーションなどだけではコントロールできない空気感を支えています。 美しい音楽を聴いていて「心が動く」瞬間があります。そのとき、あまり言葉で説明できないような感情の動きが生まれる。できることならそんな建築をつくりたいといつも思っています。

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