注文住宅

Tre Vorte

内容:

すでにそこにあったかのような

樹木をできるだけ切らない、4台のクルマを納める、そして親世帯へのアプローチを確保する。

これがこの住宅を設計するにあたって設定されたテーマだった。住空間にクルマを入れるという仕事はいままでいくつも手掛けているが、4台。それもディーノを含めた2台は「内部に」導くということの難しさは実際にプランニングを進めるほどにしみていった。その理由の一つはクルマというものは大小の差こそあれ、生活空間にスパーインポーズすると驚くほど大きいものだからだ。最初に敷地を訪れてからというもの、樹木を避けること、クルマの動線を考えること、敷地奥に現存する親世帯への動線をそのままダイアグラムにしたようなプランをひたすら描き続けた。時にそれは曲線が複雑に交叉したり、多角形の連続で解決しようとしていたりと実現の難易度をあげてしまうエスキースだった。ひたすらスケッチブックにスケッチを繰り返すうち、あっという間に半年以上の月日が過ぎ去った。

「旅」は時に思考を強烈にリセットする。それを否応なしに実感することになったのは、インドから戻ってきたときのことだった。日本で常識だと思っていることがガラガラと崩れ去るような強烈な日々、チャンディガールではマシンガンをまわりの兵士達が構える状況に一瞬置かれ、ひどい下痢のなか執念で見に行ったカーンのインド経営大学は、視界の中で陽炎のように揺れていた。そこは、日々生きているということの困難さと必死さに満ち溢れた場のように自分には写った。その旅から戻ってきて、改めてペンを動かしてみたときに驚くべき単純さでこの住宅が「解ける」と感じたのだ。すべての提案図面、パース群、模型をクライアントに提案したのは敷地を訪れてから1年後のことだった。

スパン3.6mの長さが違うボリュームが3つ連続していて、その間に中庭が取られたプラン。それと直交するように車が入る大きなボリュームが貫入していく。2台の大切なクルマが置かれたガレージ間にクルマを楽しみ、書斎機能も兼ねるクルマリビングを配した。部屋の空間的なボリュームを確保するため、庭に沈み込むように床レベルを下げ、天井高2800mmを確保、アイレベルに愛車が置かれるようにしている。クルマ好きの憧れる一台であるディーノの置かれる場所について考えていたときに、イメージしていたのは木立の下に佇む姿だった。既存庭の緑と新植した中庭のアオダモに(実際はガラスで保護されながら)はさまれるように停車するディーノを家の様々なポジションから眺められるようにしている。

メインの生活空間となる2階は、親世帯側の庭と空への視線を強く意識しながら、その場所自体が外部と内部の曖昧な境界線上に浮遊しているようにつくろうと試みている。端的にはリビングの全開口サッシュであったり、大型の外引き製作サッシュによる障子の消去といったディテールに現れている。また2階は全体に外断熱を施し、空間をフレキシブルに切り離しながら利用できることで、空調も含めた建築の維持が生活の負担にならないように配慮している。

さて、3.6mスパンの3つのボリュームをどう構成するか? 建築が建築らしくある、そのための言語はすでに語り尽くされているけれども、あえてあまりにもRC的なヴォールトと一体的に連続させた梁型の存在感で「建築的」なカタチを与えようと考えた。同じスパンのヴォールトが続いていることで、初原的な建築要素がすでにそこにあって、それを感覚的にはリノベーションしながら人のスケールに手を差しのべるような家具で必要な機能を満たしていくような空間のあり方もつくれるのではないかと思ったからだ。

細かいところまで作り込んでいき、肌合いに近い素材感にまで神経を繋げる、という手法は今に始まったことではないが、そこに手を触れてはいけないような強い「建築」の要素がラップしている空間のありかた。そして、それが持つ<建築的な強さ>を改めて感じている。

(廣部剛司)