マンションリフォーム・リノベーション

808

費用:

1200万円

エリア:

神奈川県

実施時期:

2014

内容:

スカッシュというスポーツを始めたことで出会い、長年お付き合いをさせて頂いているご夫婦。スカッシュと共に、美味しいものを食べるという食いしん坊な部分でも、よくご一緒させて頂いています。

そういうわけで、この808にも何度も呼んで頂いて仲間と共に楽しい時間を過ごしていました。いつお邪魔しても、まるで本屋さんのようにきちっと文庫別、作家別に整理された書棚。余計なものがまったく外に出ていない状態で、綺麗に住みこなされていたのが印象に残りました。

さて、そんなお付き合いをさせて頂いているご夫婦が「お施主さん」になるにはきっかけがありました。以前からスカッシュ仲間と共に時折内覧会には遊びに来てくれていたのですが、お互いにあまり具体的に仕事をする、という意味では意識していなかった関係でした。それが4月末にあった『L→i』の内覧会に来ていただいて「ひょっとして可能性ある?」とひらめいたそうです。

 それからすぐ、あらためて「現調」に訪れた808はスケルトンリフォームを前提とするのが勿体ないほど綺麗な状態でした。同時に、これからの夫婦2人の時間を豊かなものにするために決断されたことの重さを感じました。リフォーム自体は少し前から検討を始められていて、そのときすでに2~3社の提案がすでにされていました。提示された条件は、それらの提案と同額程度のコストでできること。そして(当然ながら)それらよりも魅力的な提案ができることでした。

 細かな図面が残っていなかったため、実測をしながら調査をしてみると現況プランの気になるところがいくつか浮かび上がってきました。まず大きな梁型がいくつかでているけれども、それは梁だけではなくダクトを通すためのスペース等となっていて、内部の気積を圧迫していること。そして、収納スペースまわりも含めて、デッドになっている部分が実はある事。
水廻りPS、既存開口部などの関係からプラン的に大きな変更はできないけれども、まずはスケルトン状態を想定して、いかに気積を大きく取れるようにするのかを考えました。そして、一つ一つの居場所がぶつ切りになっている状態から、全体をゆるやかに繋ぎ、連続したテリトリーとして感じられるための検討をしていきました。

天井は撤去した状態から配線スペースなどのための余白のみを取って、グラスウールマットを貼り込むことで、吸音性を担保しつつ最大限のボリュームとなるように設定。そして、特に中心部に来る水廻りのボリュームを「置いてある」ようにつくることで、1つの大きな囲いの中に「しつらえ」られたものとしてつくろうとしています。これらの基本的な操作によって、変わらぬ面積であっても身体を取り巻く空間の大きさは少し違って感じられるはずです。

 それを前提に、ご夫婦の大切にされていること、収納するものたちと丁寧に寄り添い、家具的な密度で全体を作り込んでいきました。建築(スケルトン)から造作家具までを1つのグラデーションの中でつくって行くということに、変わらぬ興味があります。その意味でこの住戸が持つ密度感がどのように「建築」という行為のスケール感を揺さぶってくれるのか。そんなことを考えながら手掛けたマンションリフォームでした。

廣部剛司

廣部剛司

建築は「音楽」のように 昔から趣味で音楽をやっていることもあって、曲をつくるように建築を設計しています。そういうと不思議なことに感じるかも知れませんが、私にとっては「建築」は音楽に似ている、と感じたところがこの道に進んだきっかけだったので自然なことなのです。 建築は建つ場所(地球)にしっかりと腰を据えていますが、地球そのものが動いてくれることで、1日の中でも様々な光が刻々と差し込み、季節によってもそれは変化していきます。建築の中に佇み、地球の動きを感じていられるということは、そこで過ごす人に「自分自身は地球の一部なのだ」と語りかけてくれます。尊厳を持って人がその空間に身を置くために、そういった感覚が持てるということが、とても大切なことなのではないかと感じています。 時間の推移と共に動くという意味では、人がその空間の中を「動く」時にも、音楽が生まれていきます。流れゆく時間の中で推移して、その瞬間に消えていくことが音楽の儚く美しいところで す。スケッチを重ねながら、建築を体験する流れ(シークエンス)に音楽的な構成を持ち込んでいます。それは空間体験を曲の記憶のように刻んでいくことでもあります。 また、音色を紡ぐということと、どんな素材を使うのかということも深く結びついています。それは寸法やプロポーションなどだけではコントロールできない空気感を支えています。 美しい音楽を聴いていて「心が動く」瞬間があります。そのとき、あまり言葉で説明できないような感情の動きが生まれる。できることならそんな建築をつくりたいといつも思っています。