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浦安 - 引き算の家 -

手掛けた建築家

設計、監理を担当

浦安 - 引き算の家 - (外観)

外観

階段状のファサード。 これ自体は住居系用途地域によくみられる建築基準法上の斜線制限に適合させるための形状です。 そこに、異素材によるエンボス加工を施し、視覚的な強弱をつけることで建物としての個性を際立たせています。 機能的にこの素材の切り替えが必要かと言うと、全く必要ありません。 むしろ同一素材で作った方が、コスト的にも納まり(材料と材料の取り合い)的にも効率的です。 でも、それだったら平均的な価値観で作られたマンション、建売住宅に住むのと大差ありません。 この住まいはここに住む建主のための住まいです。 建主は、「せっかく家を作るのだから、いろいろ試したい」と言っていました。 なので、私も「挑戦する家」というコンセプトで建主に挑みました。 この家は、法規的にも、プラン的にも、仕上げ的にも、ディテール的にも挑戦しています。 いわゆる優等生のような住まいではないですし、建ててみてわかった色々な課題もあります。 でも、そのような課題も挑戦したからこそ出てくるものであって、そもそもそんな課題が出てもそれをまた改善していく、そんなことも含めた家づくりというコンセプトを建主と共有したからこそできた住まいです。 この住まいは、表札は一応ついています。 しかし、このファサードを見れば、それ自体がアイコンとなり、誰も表札を見ることなく、「あの変わったおうち」という呼び名が地域の共通言語となりました。 それだけで、このファサードにした甲斐は十分にあったなと思います。 ちなみに、4階建てに見えますが、3階建てです。 最上階はペントハウス(塔屋)。屋上に出るための出入り口です。

浦安 - 引き算の家 - (階段)

階段

「木の塊みたいな階段がいい」という建主の一言からこの階段が生まれました。 柱に使う120角の杉材を二つ並べてボルトで締めたものがそのまま段板となっており、力桁2本で階段を支えています。 塗装はしていませんが、家族が毎日使うことで、自然と表面が磨かれなんとも言えない風合いが生まれています。 手摺はモクタンカン。トドマツという針葉樹でできた材料です。 これは建主さんが見つけてきて、「これを使ってみたい」ということだったので、試しに使ってみることにしました。 仮設足場でよく使われるスチール製の単管と同じ規格の木製単管だから「モクタンカン」というシンプルなネーミング。 そして、同じ規格ですから、単管用の接続金物がそのまま流用できます。 工事現場で初めて単管パイプが使われたのが1954年。そこから70年の間、そのニーズに合わせて実に多種多様な接続金物が作られてきました。 単管パイプだとインダストリアルすぎる様相を呈してしまいますが、材料がトドマツに変わるだけで、剥き出しの材料の無骨さと、木という素材の暖かさのちょうどよいバランスが感じられます。

浦安 - 引き算の家 - (キッチン)

キッチン

このキッチンも建主さんのこだわりと興味を体現した「挑戦するキッチン」です。BOSCHの食洗機にTEKAのIHコンロは建主さんが選びに選び抜いた器具。そして、魚を捌きたいという要望から、業務用厨房メーカーであるタニコーの舟形シンクを採用しています。 これらの製品をすべて取り入れるにはシステムキッチンでは到底不可能ですからオーダーメイドのキッチンとなります。 収納は使ってみてからカスタムしていきたいと言うことでフレームのみ。これから徐々に引き出しなどが増えていく予定です。 また、中央にあるテーブル状のスペースは焼肉ができるダイニングテーブルとなっています。 建主さんが広島のお好み焼き屋さんで見つけた鉄板に一目惚れして、そこから特注で仕入れてもらったものをダイニングテーブルに組み込んでいます。 カウンタートップはベルギーのBEAL社の製品であるMOROTEXを採用しています。 木とモルタルが織りなすシンプルでやや無骨な素材感に一筋のタイルがアクセントとなったキッチンです。

浦安 - 引き算の家 - (パブリックスペース)

パブリックスペース

建物の機能という側面から言えば、ここは「玄関」兼「ガレージ」という呼び名になります。 ですが、これらの機能は日常生活の一場面としての役割であって、その動作が行われていない場合は、違う役割を演じることも可能となります。 例えばこの空間は、将来的に「物販店舗」として活用することを想定して設計しています。 ガレージシャッターが店舗入り口となりガレージ部分での店舗運営を行う場合に、玄関周りに施された、ヘリンボーンの床、薪ストーブ、スケルトン階段というデザインが店舗空間のアクセントとして映えつつ生活動線も機能するようにプランニングしました。 仕上げを施していない壁面もディスプレイの棚や内装仕上を施すことで、色々な表情を作り出す可能性を持たせています。 名前をつけてしまうと、その名前がフレームとなってしまい空間の可能性を制限してしまうことがあります。 よって、本計画ではこの場所を「パブリックスペース」と名付けています。

浦安 - 引き算の家 - (リビングスペース)

リビングスペース

リビングエリアの床はスギの無垢フローリング(厚さ30mm)で仕上げています。 スギは柔らかいためとても傷つきやすく、そんなかに無数にある気泡のため膨張収縮による反りや変形も発生するので、このような材料特性をデメリットと捉える見方があります。 一方で、スギの柔らかさは保温効果とクッション性を備えており、その膨張収縮は調湿性を備えていることの証でもあります。裸足で歩き回ってもひんやり底冷えせず、また足腰にもとてもやさしいです。 どんな空間でも使っていけば経年変化はしますし、傷がまったくつかないなんでことはあり得ません。子供たちと暮らしていれば尚更です。 「傷がつかないよう」に恐る恐る暮らすよりも、「傷がつくこと」を暮らしのイベントと捉えて思い出を作りながら暮らす方が自分の家らしいよね、という話を建主としながら、この素材を選定しました。

浦安 - 引き算の家 - (リビングスペース 造作扉)

リビングスペース 造作扉

正面の扉は、木枠にポリカーボネイトパネルを嵌め込んだ造作建具です。階段室との間仕切壁となっており、階段室越しに採光を室内に取り込む役目を果たしています。 腰窓は内側に開く「内倒し窓」となっており、薪ストーブの煙突からの輻射熱をリビングスペースに取り込みます。

浦安 - 引き算の家 - (玄関)

玄関

玄関扉の材料は、リビングの床で使用している杉の無垢フローリングです。この材料には当然ながら裏表があり、写真ではその裏側が見えています。 無垢フローリング材の裏面には反りを軽減するため複数の溝が掘り込まれています。その凹凸を玄関パネルのデザインとして活用することで、裏表両方を仕上を施すことなく、素材そのものが仕上となっています。 また、無垢材ならではのナチュラルな色味や濃淡の違いもまた、インテリアのアクセントとなっています。

浦安 - 引き算の家 - (住みながら育てる収納スペース)

住みながら育てる収納スペース

この収納に使われている材料は全て「端材」です。 端材とは、現場で木材を加工した時に発生する余り材のことで、通常は廃棄処分されるのですが、本計画ではそのゴミを資源として活用することにしました。 理由は二つあります。 一つ目は、とりあえず作ってみて、使いながらアップデートしたいから。 造作収納とは、使い方が固定していればきちんと設計するのが理想的ではあります。しかし汎用性を持たせた収納にすればするほど、中途半端な収納になってしまう点も否めません。 建主は、今ここにどんな収納が相応しいかは想像つかないので、住みながら考えたいと言っていました。 なので、すぐに解体できるようにしつつ、できるだけ「小分け」にした収納をつくりました。この形状をベンチマークとしてもらい、暮らしながら「ちょうどよいサイズ」の収納に将来的に作り替える予定です。 二つ目は、余分な造作コストをかけないこと。 造り付けの収納は一般的には「造作材」と呼ばれる仕上に使うような材料を用います。 上記の通り、ある意味「仮設的な」造作収納ですから、そのためにあまりコストをかけたくはありません。 よって、端材を利用することにしました。 このように、住まいとは暮らし始めの時が「完成」である必要はないのです。

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手掛けた建築家

設計、監理を担当

用途

自宅

居住者

家族(子供2人以上)

所在地

千葉県浦安市

費用

設計・施工:4500万円台(設計監理費含まず)

敷地面積

77.67㎡

延床面積

131.11㎡

階数

3階建て

間取り

2LDK

期間

設計:12ヶ月 、施工:6ヶ月

完成時期

2018年11月

施工会社

株式会社 マツイ

間取り

手掛けた建築家のコメント

設計、監理を担当

木質ラーメン構造による地上3階+塔屋の専用住宅。
夫婦と子供2人の4人家族のための住まいです。

敷地は浦安の閑静な住宅地にあり、法的にも住宅密度的にも極めて平均的な郊外の一区画に位置しています。

家づくりのきっかけ・施主の要望

もともと分譲マンションにて暮らしていたご家族でしたが、ご親族の土地を相続することになったため一戸建ての暮らしを検討していました。
マンション暮らしに特に大きな不満はなかったようですが、せっかく一戸建てをつくるのだから、一戸建てならではの暮らしをしたいというご要望がありました。
また、ご夫婦ともにアパレル関係のお仕事をされていたことから、将来的にはただの住まいとしてだけではなく、店舗としても使えるような住まいを考えたいとおっしゃっていました。

この事例の見どころや工夫したところ

この建物は、ひたすら建て主との長期間に及ぶ対話を繰り返して作られた家です。

建て主との対話の前半は「あれもこれも試したい」という「加算」要望の連続。
それらの要望に対し、設計者としてデザインの引出やその手法、ひいてはその手法の選択に至る考え方などを伝えるという対話を続けていった結果、建て主の要望は「デザインする」のではなく、「デザインののりしろをつくる」ことに価値観が転換しました。

これが大きな節目となり、ここからは一気に「いかにしてのりしろをつくるか」という「減算」要望へと一転。
対話の後半は、建て主と設計者が一緒になって、「あれもなくせる、これもなくせる」という感じで打合せを行い、面白いように仕上げがなくなっていきました。

仕上げの減算をしていくことは、同時に空間の用途、つまり住まい方の本質を観察していくことにもなりました。

結果として、建て主の住まい方にとって何が本当に必要なものなのかがどんどん純化していき、最終的には、「耐震性」「断熱性」「防水性」というシェルターとしての最低限の性能および「食べる・出す・洗う」といった暮らしの中で最低限必要な機能以外のあらゆる仕上げや用途を、デザインを損なう事なく「減算」する結果となりました。

そうしてむき出しの素材と仕上げられた素材、寄せ集めの家具や建具が混在することで、ちぐはぐな空間ができる危険性もありましたが、用の美を纏う個性的な空間になりました。

施主の感想

本来「ある」べきものが「ない」だけで、ただ住むことが楽しめる家になりました、という建て主の言葉が印象的でした。

事例の進み方

ハウスメーカーや設計事務所、工務店併せて10社以上に相談されていました。それぞれに細かな項目で通信簿をつけていただき、私は最上位ではありませんでしたが、最終的には設計を進めていく上での自由度と、人としての相性という定量的には数値化されないポイントが決めてとなり、私へ設計を依頼してくれることになりました。
たたき台となる第一案を提示してから打ち合わせを重ねるたびに新たに浮かんでくるクライアントの要望を取り入れつつ、何度も打ち合わせを行いました。そうして第二案、第三案とアップデートしていった結果、およそ半年後に第四案が基本プランのベースとしてまとまりました。そこからはそのプランをベースに詳細設計を進めていき、さらに半年をかけて実施設計プランをまとめていきました。

印象に残っていること

完成当初から仕上がないという設計手法の副産物として、劣化する対象がないという現象が起こります。
それは結果的にメンテナンス・耐久性という課題、それにまつわる修繕費用という現実的な問題点からも脱却することを意味しています。

また、仕上げを極限まで減らしたことで、住みながら育てる事を愉しめる空間に仕上がりました。

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この事例のコンセプト

この住宅の写真

手掛けた建築家

対応業務

注文住宅、リノベーション (戸建、マンション)

所在地

東京都千代田区神田錦町1-14-3ウキガイビル7F

主な対応エリア

茨城県 / 栃木県 / 群馬県 / 埼玉県 / 千葉県 / 東京都 / 神奈川県 / 新潟県 / 富山県 / 石川県 / 福井県 / 山梨県 / 長野県 / 岐阜県 / 静岡県 / 愛知県 / 三重県 / 滋賀県 / 京都府 / 大阪府 / 兵庫県 / 奈良県 / 和歌山県

対応外エリアについても、オンライン打ち合わせ等を活用して対応可

目安の金額

30坪 新築一戸建て

2,400〜6,000万円

60平米 フルリノベ

1,080〜2,400万円

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手掛けた建築家

小林 良

@東京都