家づくりに役立つメールマガジンが届いたり、アイデア集めや依頼先の検討に役立つ機能や情報が満載!
アカウントをお持ちの場合
(OFFのときは写真にマウスオーバーで表示)
家族5人と猫2匹の住まいです。
北から南に緩やかに起伏のある敷地は、東側に隣家がある以外はどちらを見渡しても緑が広がっています。このロケーションを生かして、全方位に眺望を確保できる外壁のないプランを考えました。
15年ほど一緒に仕事をしてきた大工さんの家です。要望は「良いと思うものを考えてほしい」でした。
具体的要望がなかったのは、この15年の共同作業をする中でさまざまな価値観を共有してきた信頼があったからです(設計冥利に尽きます)。
なので、良いと思うものを提案したら、「これがベストな提案ならこれでいこう」という即断即決で方針が決まりました。
構造設計と共同で木造ラーメン工法と木造トラス工法のハイブリッドな仕組みを開発し採用しています。この構造体によって、木造でありながら外壁のない床と屋根だけの家を作ることができました。
本来外壁があるべきところは全て木製サッシを採用しているため、眺望を遮るものはありません。
敷地の中に外部から仕切られた大きな一つの箱の中は、ガラスで囲まれたメインフロアおよび中央吹抜を介してつながる回廊式のプライベートフロアという二層構成になっています。
お風呂やトイレは設置していますが、それ以外は間取りと呼べるような間取りはありません。
あらかじめ空間に名前と役割を与えてそこに人間を入れ込むのではなくて、家族それぞれがお気に入りの空間を見つけて、そこを自分の居場所にしていくという、そんな生活を前提とした家です。
メインフロアは四方ともガラス張りですが、緩やかな傾斜がある敷地に高床式の構造を採用しています。なので、見た目の印象よりも内部空間にいての体感的なプライバシー感は決して低くありません。
寝室のある2階部分は建物構造的には屋根裏部分になるため、外からは見えず落ち着いて籠ることができる空間になっています。
寝る時だけは2階の屋根裏空間に行きますが、それ以外は子供たちも猫も、好き勝手に自分の居場所を見つけてメインフロアでゴロゴロと思うがままに移動しながらくつろいでいるそうです。
もとより仕切りがなく外壁もないので視線が抜けて開放的ですが、場所に名前がないことでさらに「どこにいてもいい」状態になるのが面白いと言っていました。
間取りによって生活が規定されることの窮屈さを大工である建て主も実感していたので、いかに間取りを作らないかということを考えて計画しました。
通常は、プランを詳細に詰めていくなかで、細かい部位の設計意図を具体的に説明するという流れになりますが、今回は何もない間取りが生み出す「生活ののりしろ」を抽象的に説明し、アクティビティの可能性を広げるような進め方になりました。
初めての構法による試みでしたが、この規模の建物を2.5ヶ月という短期間でできたことは誰もが驚きでした。
木造ラーメン工法+木造トラス工法というハイブリッドな構造体の自由度・可能性を実感できる計画となりました。
シンプルな片流れ勾配に見える屋根は、実は対角線上に勾配をとっているため、どの面をみても屋根の稜線は水平ではありません。 水平方向に広がるガラス面に対してボリューム感を持たせた屋根を設えたファサード。とても幾何学的なフォルムは、対角勾配屋根の稜線による均一性からの遊離によって、ただのビルディングタイプにはない住まいらしい愛らしさを生み出しています。
高床式のメインフロアと同一レベルで外部に伸長したテラスは、建主である大工さんの自作です。 単管と杉の足場板によるシンプルな作りは、堅固な作りながらその存在感はとてもスマートで、基礎から浮遊したような軽やかさを感じる建物と調和しています。
リビングはメインフロアにあります。 メインフロア中央に広がる8畳分の吹抜上部には屋根裏の回廊空間が広がっています。 壁による仕切りはありませんが、明暗のコントラストがそのままパブリックからプライバシーへの境界線の意識を生み出しています。 気配は感じつつも籠ることのできる屋根裏です。
造作のバスルームは、木製サッシを全開放することで外部テラスとひとつづきになります。 プライバシーに囚われるよりも開放感を求める建主さんなので、こんなお風呂もとても楽しんでくれています。 床と壁は掃除がしやすいFRP防水仕上、天井は結露による水滴がつきにくいタイル仕上です。
メインフロアの天井は、構造体がそのまま現わしになっています。 天井パネルで隠すよりも、この格子状の構造体をデザインとして採用しています。 さらに天井パネルがないことでその分天井高さも確保できます。 構造体はきちんと設計すればとても美しいです。 仕上材で隠すことだけが、仕上ではないということがよくわかる一例です。
長さ3.5m、奥行き1.3mの大きなキッチンは建主である大工さんの手作りです。この大工さんとはいろんなプロジェクトを共同でやっていますが、いつもキッチンは手作りなので慣れたものです。 カウンタートップはメラミン化粧合板です。 フレーム部分はラワンランバーによる造作で、仕上は亜麻仁油塗装、フレームの小口には真鍮を設えています。
ガラス張りのメインフロアから漏れ出す灯りが行燈のように周囲を照らします。 竣工後に建主がDIYでつくった屋外テラスで寛いでいると、カフェと間違えてやってくる人もいるそうです。