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設計、監理、インテリアを担当
里山と住宅地との境に建つ築63 年の住宅を、周辺と繋がる暮らし方も含めて孫が住み継ぐ家としてリノベーションしました。縁側や土間のような内外が繋がるスペースを家の中心に据え、自然や人を積極的に招き入れます。
2層分の「母屋」とその周囲の「下屋」から成る構造を顕在化し、下屋の一部を減築、残った下屋の壁で母屋の水平耐力を負担することで、中央の母屋部分を直接外部に繋がる開放的な場としています。
家の中心にある土間が季節に応じた住まい環境をつくっています。
岡山市郊外の里山の際に建つこの家では、祖父母による、山や畑と繋がるおおらかな暮らしが営まれ、近くに住んでいた孫は、子供の頃、この家で多くの時間を過ごしていました。祖父母が亡くなり、しばらく空き家になっていたため、孫夫婦の新しい住まいとして再生することになりました。
老朽化や耐震性の問題から、最初は建て替えも検討されましたが、里山の麓に建つ佇まいや年月を経た木材、そして祖父母の暮らし方を引き継ぎたいという思いから、リノベーションすることになりました。
リノベーションを計画するにあたり、ハード面だけでなく、子供の頃に体験した祖父母の暮らし方を住み継ぐ家にすることが重要だと考えました。朝は外の流しで顔を洗い、畑で作業する祖父と窓越しに会話をする、庭で薪を割り風呂を焚く、夏には座敷に蚊帳をつり、窓を開け放して山からふきおろす涼しい風を取り入れる、冬には4畳半の居間に炬燵を設え肩を寄せ合って集まる・・・、家と外部の境界があいまいで、季節ごとに居心地のよい場所に人が自然と集まる暮らしでした。また、裏山への道に面する居間の窓辺は祖父の定位置で、近所の人が通りすがりに声をかけ、おしゃべりを楽しむことで、100歳まで元気に一人で生活した祖父を隣近所の人たちが見守ることもできたといいます。
庭や畑などの外部空間を生活スペースの一部としながら、山からの風などこの場所の環境を取り込み、隣近所の人たちとの会話が自然に生まれる家として、家の中心を開放的な土間とし、外部での人の動線や風の流れを引き込むような構成としました。
環境面では、夏は南側の庇、南西の落葉樹(カキノキ)によって日差しを適度にさえぎりながら、山からの涼しい風を取り込み、ガラリや無双窓による通風で留守中にもエアコンなしで犬が留守番できる環境になっています。冬は薪ストーブや土壌蓄熱式床暖房、日射による土間床への蓄熱により暖かい環境をつくります。また、母屋(土間)は吹抜けがあり、既存の土壁を残した大らかな環境であるのに対し、4つの下屋は断熱材やサッシ交換により断熱性のより高い空間とし、メリハリをつけた個別空調も可能にしています。
引越しをして2年経ち、施主は山を散歩したり、庭で薪割りをしたり、人が集まってきたりする暮らしを楽しんでおり、「生活の中でふと祖父の生活をなぞるような時があり、時間を経て対話をするように感じることがある」とリノベーションしたことに満足しているそうです。
2017.11 「第9回JIA中国建築大賞」住宅部門優秀賞
2017.6 「LIMIAリノベコンペティション」準グランプリ
2017.3 「第5回チルチンびと住宅建築賞」特別賞
掲載誌
チルチンびと 2018年春号/風土社
住まいの設計/2016年7・8月号/扶桑社
チルチンびと/2017年春号/風土社
北側の裏山からの外観。 建物と裏山が接し、山や畑と繋がる暮らしが営まれていました。下屋の一部を減築することで、中央の母屋が外部と繋がる開放的な場所となりました。 (写真:西川公朗)
ダイニングから土間を見る。 土間は玄関でもあり、リビングでもある。 ダイニングは土間から1段上がったこあがりになっていて、障子を開けると土間と繋がり、こあがりに腰かけて過ごすことができます。 (写真:西川公朗)
土間の上部は梁を現しにした吹抜け。 2階の予備室から土間を見下ろすことができます。 (写真:西川公朗)
井戸の庭を土間から見る。 井戸の上につくられていた部屋を減築し、井戸の庭としました。 井戸の庭は下屋の壁と石垣に囲まれた中庭のような場所で、夏の居間としても使われています。減築によって、家の中心から石垣、山を望めるようになりました。 (写真:西川公朗)
減築したことで、家の中心にある土間が「井戸の庭」、前庭を介して外部に繋がる場所となりました。 夏は山から涼しい風が入ってきます。 右側に見える部分(下屋)には洗面脱衣、浴室を配置しています。 (写真:西川公朗)
土間(納戸前)からダイニングキッチンを見る。 東西に網戸付の無双窓を設け、留守中でも自然の風が土間からキッチンへ流れるようにしています。 (撮影:西川公朗)
土間から1段上がった、小上がりのダイニングの向こうにキッチン、ラウンジ(オーディオルーム)が見える。 (写真:西川公朗)
土間から1段上がった畳敷きのこあがりがダイニング。 山や庭にオープンな土間に対して、ダイニングは障子や木製建具で閉じることができます。 障子と板戸は既存の建具を再利用、ダイニングテーブルには撤去した古い木材を使っています。 (写真:西川公朗)
土間から1段上がった畳敷きのこあがりがダイニング。 山や庭にオープンな土間に対して、ダイニングは障子や木製建具で閉じることができます。 障子と板戸は既存の建具を再利用、ダイニングテーブルには撤去した古い木材を使っています。 (写真:西川公朗)
土間と繋がる2階の予備室は書斎や趣味部屋、客間として使われます。既存の迫力ある梁、薪ストーブの音、窓から見える景色を楽しめる空間です。 床には既存の床板を磨いて再利用しています。 (写真:西川公朗)
土間の上部は梁を現しにした吹抜け。 2階の予備室から土間を見下ろすことができます。 (写真:西川公朗)
開放的な土間に対して、寝室はプライバシーを確保した空間。大きな窓の外には古い納屋の土壁が見えます。 鍵のかかる網戸によって夜でも風が通ります。 (撮影:西川公朗)
石垣や里山を眺める浴室。 ガラリ付網戸で視線や風をコントロールします。 (撮影:西川公朗)
柿の木が出迎える、山につながる小道からのアプローチ。 (写真:西川公朗)
西側の畑から見る。 母屋、下屋からなる既存の構成を活かし、2層の母屋部分は焼杉仕上(黒い部分)は、下屋部分は杉板オイル塗装(茶色い部分)で仕上げています。 (写真:西川公朗)
夜景 (撮影:西川公朗)