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設計、監理、土地・物件探しを担当
この建築は、東京練馬区にある34坪ほどの路地状敷地に建つ家族4人のための住宅である。
住み手の更新に伴う宅地の細分化が進む東京の住宅密集地では、豊かな住環境を求めることがとても困難な宅地が増えている。その代表例ともいえるのが路地状敷地である。路地状敷地は、人が行き交う街路からは奥まった静かな環境だが、街との関係は断たれる。さらに、四方に余白なく隣家が迫り、採光とプライバシーの両立がとても難しい。
そのような敷地条件でも、安心して明るく伸びやかに暮らすことができる住宅のあり方を、私たちは考えた。
この住宅は、敷地の路地部を除いた整形部いっぱいに外壁を構え、その内側に2つのスリットを設けた建築である。1つは南側の路地部に連なるように東西を貫き、隣家との緩衝帯となる屋根のない外スリット。もう1つは整形部中央を南北に貫き、視覚に天井を感じないスケールで屋根まで吹き抜けた内スリット。路地状敷地という困難な状況を打開するため、街路から敷地内路地を介し、建築内に外スリット、内スリットという形で路地を引き込む構成とした。
外スリットは明度が高く、明るさを届ける白色で内壁のように仕上げ、内スリットは明度を抑え、安らぎを与える灰色で外壁のように仕上げた。そして、その内外のスリットを屋根まで吹き抜けた大きな開口がつなぐことで、視覚作用による外の内部化、内の外部化を図った。外の内部化は安心と広がりを、内の外部化は街路のような空間性をつくる。
隣家に面したスリットに、住宅密集地に対するフィルターとして、半透明の開口を設けた。住宅密集地のすべてを閉ざすのではなく、その景色と気配、そして建築のもつ空間領域に霞をかけ、街へのつながりと広がりを与える。
スリットは外を前庭、内を居間とし、用途を決めない自由な場とした。階段や2階の動線もただの動線ではなく、自由な場として、内スリットに連関する。階段は内スリットにその巾すべてをつかう街路階段のように、2階の動線は内スリットの吹き抜けを横断する歩道橋のように計画した。動線も座る、寝転ぶ、遊ぶ、集まる、学ぶ、飾るなど自由な場となる。
台所や寝室、納戸など用途が決まった諸室は、必要最小限の大きさとし、2層吹き抜けた内スリットの両側に接するように計画した。スリットに設けた開口が、光や風、家族の気配や雰囲気、視線を各所へ伝え、空間に広がりを与える。また、諸室の内装は構造材や合板の現しとし、間取りの更新や造作家具の追加、仕上げの変更など、将来の家族の成長に合わせ、対応できるように余白のあるものとした。
路地状敷地にある建築に、2つのスリットが路地を引き込むことで、街なかで過ごすような多様性に富んだ光や風の流れ、広がりや距離、居場所や気配、シークエンスの変化が生まれた。
東京に住宅を求めるとき、昨今の地価や建材の高騰により、理想的な条件を満たすことが厳しい路地状敷地の需要が、さらに高まることが予想される。路地状敷地だからこそ辿り着くことができる、豊かな住宅があるのではないか。その1つの答えを本建築で示したいと考えた。
旗竿地に建つ住宅 外壁はガルバリウム鋼鈑(中波)。住宅地の奥に埋没せずアイコニックに家族を明るく迎える茜色の外壁とした。 撮影:新建築社写真部
外壁の扉を開けるとプライバシーを確保した前庭につながる。 撮影:新建築社写真部
前庭から道路側を見る。 前庭は光を反射する白色の外壁。隣地に面した部分も屋根までの高さをもつ外壁を設け、プライバシーが守られた外部空間となっている。 撮影:松井進
前庭から土間玄関をみる。 玄関建具は開放的なガラス張りの木製建具となっている。 前庭からの光が内部空間を明るくする。 撮影:松井進
土間玄関は前庭に面した大開口とリビングダイニングの大きな吹き抜けとつながっている。 撮影:新建築社写真部
前庭、土間玄関、リビングダイニングが大開口と大きな吹き抜けでつながる。 撮影:新建築社写真部
土間玄関からリビングダイニングをみる。 2階に見えるのブリッジは開放的な家族のスタディスペースとなっている。 撮影:新建築社写真部
土間玄関からリビングダイニングをみる。 奥に見えるのは収納、ベンチ機能を兼ね備えた大きな階段。 撮影:新建築社写真部
ダイニングから壁奥のキッチンをみる。 ダイニングテーブルの置かれる場所は天井高さを抑えた落ち着きを持たせている。奥のキッチンはリビングダイニングと小窓でつながる。 撮影:新建築社写真部
リビングダイニングから階段をみる。 階段下は収納となっている。階段はテーブルのベンチとなり、各段で勉強したり、本を読んだり、寝そべったりできる家族の居場所となっている。 撮影:新建築社写真部
階段の仕上げ材はリビングダイニングと床材と同じフローリングでつくり、リビングダイニングとひとつながりの居場所となっている。 撮影:新建築社写真部
リビングダイニングと連なった大階段は観葉植物や絵画なども置ける棚や壁の役割ももつ。 撮影:新建築社写真部
吹き抜け2階に見える小窓は子ども室とつながっている。 撮影:新建築社写真部
写真の右手は建物北側に設けた大きなFIX窓。 ガラスはすりガラスとして、プライバシーを守りながら北側からのやさしい光が吹き抜け空間を明るくする。 撮影:新建築社写真部
階段の踊り場からブリッジ(スタディスペース)をみる。 2階の壁面にある小窓は子ども部屋とつながっている。 撮影:新建築社写真部
階段の踊り場からリビングダイニングとその奥の前庭をみる。 大きな吹き抜けと大開口を介し、前庭、土間玄関、リビングダイニング、階段が一つの大きな空間となっている。 撮影:新建築社写真部
階段の踊り場からリビングダイニングとその奥の前庭をみる。 大きな吹き抜けと大開口を介し、前庭、土間玄関、リビングダイニング、階段が一つの大きな空間となっている。 撮影:新建築社写真部
大きな吹き抜けの両側をつなぐブリッジは家族のスタディスペースとなっている。 撮影:新建築社写真部
ブリッジ(スタディスペース)から吹き抜けを介し、前庭をみる。 前庭の隣地に面した外壁に、くもりガラスの開口を設けることにより、光と抜けを取り入れながらプライバシーを確保している。 撮影:新建築社写真部
2階の寝室から吹き抜けを介し、リビングダイニングをみる。 写真奥に見える小窓は子ども室とつながっている。 撮影:新建築社写真部
2階の子ども室からリビングダイニングを見下ろす。 家族の居場所が吹き抜けを介し、適度な距離でつながる。 撮影:新建築社写真部
キッチンの小窓からリビングダイニングをみる。 リビングダイニングの大きな吹き抜け空間につながっていることにより、閉じながらも開放的なキッチンとなっている。 撮影:新建築社写真部
キッチンの小窓から前庭をみる。 リビングダイニングの大きな吹き抜け空間につながっていることにより、閉じながらも開放的なキッチンとなっている。 撮影:新建築社写真部
キッチンから階段側をみる。 リビングダイニングの大きな吹き抜け空間につながっていることにより、閉じながらも開放的なキッチンとなっている。 撮影:松井進
子ども部屋。将来の模様替えや家具の追加、仕上の変更などを考慮し、内壁仕上はラワン合板仕上となっている。 撮影:新建築社写真部
子ども部屋の小窓から吹き抜けをみる。 家族の動きや雰囲気が吹き抜けを介し、適度な距離を保ちながらつながる。 撮影:新建築社写真部
子ども部屋の小窓から吹き抜けみる。 奥に見える小窓は主寝室の小窓。家族の動きや雰囲気が吹き抜けを介し、適度な距離を保ちながらつながる。 撮影:新建築社写真部
子ども部屋の小窓から吹き抜けをみる。 家族の動きや雰囲気が吹き抜けを介し、適度な距離を保ちながらつながる。 撮影:新建築社写真部
外観の夕景。道路に面した扉を開けると前庭、土間玄関、リビングと一体となった空間が広がる。 撮影:新建築社写真部
夕景。前庭からリビングダイニングをみる。 前庭がプライバシーが守られた空間となっていることにより、大開口にはカーテンをつけず、夜も前庭とつながった開放的な空間となっている。 撮影:新建築社写真部