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図面もなく増改築で壁や天井に隠れていた昔の痕跡は、「工事の記録であると共に、かつて営まれていた温かい暮らしの記録」。
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設計、監理を担当
奈良市菖蒲池。若いご夫婦とお子様たちのための古民家改修です。昭和初期の建物は今まで何度か増改築されているらしいという話でしたが、内装の大部分は新建材で覆われ、昔の記憶は曖昧で図面資料等もありません。ただ一部がスキップフロアやオーバーハングになったつくりには単純なリフォームではない雰囲気があり、床の間や欄間、軒裏の細やかな意匠、玄関や階段を建物中央に配置して廊下を巡らせた間取りに何となく旅館のような風情も感じられました。
ご主人は幼少期をここで過ごした後、東京で暮らしておられましたが、仕事や子育ての環境を見直して奈良に戻り、空き家となっていた家を改修して住むことになりました。
立派な設えの玄関は来客用にそのまま残して家族用の玄関を新設、居間はアイランドキッチンを巡る現代的な間取りに再編しながら階段をスケルトン化して和室を取り込みました。応接間はレトロな内装のまま造作家具でスモールオフィスに転用し、庭に増築された水周りは基礎だけ残して解体しウッドデッキを貼りました。古い柱梁は傷んだ部分を継ぎながら出来る限り再利用し、新たに加えた部材は古色に擬態せず素地色のまま用いています。新建材はできるだけ剥がして、木材、土壁、スチール等、暮らしの痕が残る素材を用いました。
本格的に設計に着手し、既存建物の実測調査や部分解体を進めると、壁や天井の中に隠れていた痕跡が次々と現れました。土間の炊事場と板間の小上がりをダイニングキッチンに改造した跡、濡れ縁をアルミサッシで室内化した跡、応接間を増築した跡、平屋の屋根を取り外して2階に子供部屋・納戸を建て増しした跡・・・。これらは工事の記録であると共に、かつて営まれていた温かい暮らしの記録でもあります。様々な過去の記録を明らかにして、それらと共に暮らし、これから始まる生活の記録が更に書き加えられていくような住まいの在り方が良いのではないかと思われました。
菖蒲池は、関西の中高年層には遊園地でお馴染みですが、戦前には駅の南側に大きな温浴施設があり、旅館と民家が混在した華やかな街並みが形成されていたとのこと。そう言われれば確かに旅館の面影を残す民家がいくつか現存しており、この住宅もその名残の1つなのかもしれません。100年の街と家族の記憶を纏った建築が新たな時を刻み、これからも長く愛されることを願っています。
architecturephoto/2022
Designboom(IT)/2022
Architizer(US)/2022(featured)
ぴかぴかではない住まいは、子どもが少々いたずらしても大らかに構えられる。(撮影:笹倉洋平)
二間続きの和室は建築当初の姿がそのまま残る。畳の張り替えや土壁の補修を行い、床座リビングとして利用。(撮影:笹倉洋平)
レトロな応接間は戦後増築されたもの。縁側だった形跡が欄間に残る。応接間の姿を残しつつ、デスクと本棚を作り付け、ホームオフィスと趣味室を兼ねたご主人の部屋に転用。白蟻被害を受けていたコーナー部は柱梁を入れ替え、耐震壁を追加している。(撮影:笹倉洋平)
丸窓・引き分け建具はサイズを調整して再利用。和室は床の間を塗りこめて納戸に変更。下部はAV収納として和室側から使用出来る。(撮影:笹倉洋平)
土壁で囲われていた階段をスケルトン化して再利用。水平力は建物外周部に新たに設けた耐震壁で負担させている。(撮影:笹倉洋平)
キッチンからは庭・和室・応接間が見渡せる。(撮影:笹倉洋平)
バックセットの裏面は勝手口・トイレ・洗面・脱衣室。回遊性のある間取り。(撮影:笹倉洋平)
正面の2段梁は過去の増改築工事の名残。(撮影:笹倉洋平)
南庭に増築されていた風呂・トイレを除却して明るいダイニングキッチンに変更。黒光りする既存の廊下床板は軋みを抑えて再利用。(撮影:笹倉洋平)
シンプルにアイアンフラットバーでつくった階段手摺。(撮影:笹倉洋平)
右手の既存玄関は建具をリペアした上で来客用として再利用。左手に新たに家族用玄関を新設。焼杉貼りの壁面は新たに耐震補強した部分。(撮影:笹倉洋平)
外観。傷みが激しかった門構えは撤去し、基壇のみ残してオープン外構に変更。(撮影:笹倉洋平)
度重なる増改築によりパッチワークのような様相。2階は比較的、初期の姿を留めている。(撮影:笹倉洋平)