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農業振興地域に指定された棚田が南と西に大きく広がる敷地に建つ、家族3人のための住宅である。
この土地に初めて訪れたのは3年前の初夏。田植えが済んだばかりの水田の緑と水の反射、そしてそこを抜けてくる爽やかな風が、既に植えられていたカラタネオガタマやカキ、レモンなどの樹木を優しく揺らす音、水路を流れる水の音が心地良い環境を作り出していた。
周辺からの制約や視線を遮るものが無い穏やかなこの土地に、閉鎖的なユートピアではなく、また、自らのみで風景を作り出すのでもなく、自然環境の流れの中に自らが参加する住宅をつくることができないだろうか、と考えた。
南から北へ段々と下がる棚田のつくる断面的環境と、西へ望む鎮守の森へと続がる平面的環境を持つこの敷地に対して、1階では南北への抜けを、2階では東西への抜けを作ることとした。壁、床、天井を線として扱い、その線で構成した6本の門型フレームを、北から南へ、東から西へと650mmずつ高くなるように3本ずつ並べて重ね合わせた。壁と天井にあたる表面は内外部とも150mm前後の縦目透し張りで揃えることで、内外の視線が滑らかに抜けることを意図している。
1階部分では、建物の北から、前室、リビング、ウッドデッキ、庭を抜けて棚田の法面へとまっすぐに、そして南からは、フレームのずれを通して2階のダイニングや書斎へも風景を繋げた。2階部分では、天井のフレームのずれは排熱や換気、採光のためのハイサイドライトとなる。
また、シューズクロークやパントリーなどの収納やトイレを左官仕上げで作られたボックスの中に納め、フレームの間に適宜挟み込んだ。
それらによってできたのは、朝の光で目覚めたり心地よい風の中でうたた寝したりしたい、どこにいても相手の気配を感じていたい、けれど収納は沢山ほしい、という建主の要望に応えた、居場所によって光も、風も、音も、空の広さも、流れる風景も異なる、そして、内外が連続する、ひとつながりの、「風景を通す家」である。