2022/02/03更新0like5118view

著者:熊井博子

エコロジーなだけじゃない。家族の「命」と「お財布」も守る省エネ住宅基礎知識

この記事を書いた人

熊井博子さん

ビルダー・建築設計事務所に営業/広報として勤務した後、住宅専門誌の編集を経て、住宅関連の執筆と一般の方の家づくりサポート等に従事。インテリアコーディネーター、照明コンサルタント。

省エネ住宅・高気密高断熱というと、ピンとこないし興味もないという人も少なくないかもしれません。でも、そのまま放っておいたら損するばかりか家族を危険にさらすかも⁉︎
「そもそも省エネ住宅って?断熱気密って?」という方向けに、今日から自分事に見えてくる省エネ住宅のキホンを紹介します。

▽ 目次 (クリックでスクロールします)

省エネ住宅って、なんのため?

省エネ住宅とは、家で使う冷暖房や給湯、電気機器などのエネルギーが少なくてすむ家のこと。電気でもガスでも灯油でも、使うエネルギーが小さければそれだけCO2の排出が減り、地球環境にやさしいということになります。

それなら家に備えるすべての設備を高効率・高性能なものにすれば済むかというとそうではなくて、冷暖房に関していえば、使うエネルギーが小さくて済むかどうかは家次第。いくら高効率な設備を備えても、温熱環境が保てない家ではせっかくのエネルギーもダダ漏れです。小さなエネルギーで夏も冬も快適に過ごすには、温熱環境を保てる性能、つまり高い断熱・気密性能が不可欠です。

しかもこの断熱・気密性能、CO2削減につながるだけではなくて、住む人の健康(もっといえば命)とお財布にもダイレクトに影響します。家が地球にやさしいことも大切ですが、家族の命と我が家のお財布に関わるとなれば、興味がないなんて言っている場合ではありません。

命とお財布に関わるってどういうこと?

家は時として家族を危険にさらします。転倒や転落などはその代表格で、小さなお子さんやお年寄りのいる家庭ではしっかり対策されることが多いですが、見過ごしやすいのが “ヒートショック”。室内の温度差で血圧が乱高下し、心筋梗塞や脳卒中を引き起こす家庭内事故です。

ヒートショックは実は身近なところで頻発していて、日本では交通事故で亡くなる方より多いほど。平成25年度の調査によれば、交通事故で亡くなられた方が年間4,595人だったのに対してヒートショックで亡くなられた方は推計17,000人。3倍以上も多いのです。誰もが危険を認識してさまざまな注意喚起がなされる交通事故に比べたら、明らかに認識不足で注意不足。対策が必要です。

ヒートショックが起こるのは、主に冬場の浴室や脱衣室。ちょうど今の季節です。家族のいる部屋だけ暖かくて他は寒いというのは日本の家にありがちですが、局所暖房ゆえの「暖かい部屋を出て震えながら服を脱ぎ、慌てて熱いお湯に浸かる」という一連の動作は血圧を激しく乱高下させるのです。つまり家の中に温度差があるのは命を脅かすほど危険なわけで、室温を一定に保つことは命を守ることにつながると言えます。

それには室内のどこも同じく暖かくする必要がありますが、現実問題、灯油代やガス代がばかにならないのも事実。ヒートショックの起こりやすい寒い季節・寒い地域ほど、重く、切実に家計にのしかかってきます。そこで必要なのが、暖房した熱が逃げにくい建物のつくり。高い断熱・気密性能です。

断熱・気密性能って何?

断熱・気密性能は、外気温に影響されることなく室温を保とうとする性能のこと。言うなれば、冷たいお茶でも熱いお茶でも長時間保温できるポットのような性能です。断熱・気密はそれぞれ役割が異なりますが、ふたつセットで「熱が逃げにくい」環境を叶えます。

断熱って?

断熱は、文字通り「熱」の伝導を「断つ」こと。
熱はモノを伝う性質がありますが、伝わり方は物質によって異なります。例えば鉄の熱伝導率は83.5W/(m•K)、コンクリートなら1.6W/(m•K)、ガラスなら1.0 W/(m•K)。結構な開きがあります。木なら0.14〜0.25 W/(m•K)とかなり小さく、風のない静止状態にある空気はなんと0.023 W/(m•K)。極端に小さくなります。熱伝導率の小さい木も、実はたくさん空気を含んでいることからもわかるように、“静止状態にある空気”は熱を伝えにくい(=断熱性能が高い)のです。

これは案外身近なところでも体感していて、たとえばセーターがひとつの例。
一枚着るだけで温かいのは毛糸が空気を蓄えているから。編み込むことで厚い断熱層となり体の熱が衣服の外に奪われるのを防いでいます。風があるところではセーターを着ていても寒いですが、それはセーターに蓄えられた空気が静止状態ではないから。上着を羽織って風を遮れば、“空気の静止状態”は維持されセーターの温かさが保たれます。

家の断熱も同じ原理です。空気をたっぷり含む断熱材で家の外周を丸ごと覆って内・外の熱の伝導を断つことで、室内温度が維持できるようにしています。素材や施工方法はさまざまですが、どんな方法を採用するかということよりも、もっと大事なのは「どれだけ多くの静止空気が蓄えられ、熱が伝わりにくくなっているか」ということ。それを測る指標が、UA値です。

気密って?

気密とは、隙間を無くして空気の移動を防ぐこと。シートやテープを使って「外部に接する屋根・壁・床面(=躯体の外皮)」と「室内」との境界を明確に線引きし、空気が室内と躯体内の間を行ったり来たりするのを防ぎます。

目的は主にふたつあり、ひとつは空気の流れを止めるため。
セーターの例からわかるように、いくら断熱材たっぷりでもその中の空気が静止状態を保てなければ断熱効果はありません。空気を閉じ込めている発泡素材の断熱材なら別ですが、グラスウールやロックウールなど繊維素材の断熱材はシートやテープで覆って気密を施すことで安定した静止空気状態をつくっています。また、壁の中や床下など躯体内部の空洞では温度差による気流が発生していますから、室内との間にわずかでも隙間があれば「部屋じゅう締め切っているのにどこからかスースー風を感じる」ことも。気密はこうした気流が室内に流入するのを防ぐ役割も担っています。

もうひとつの目的は、壁体内結露を防ぐため。
空気中に含むことのできる水分量は気温が高いほど多くて低いほど少ないものですが、水分を含む空気がそのまま冷やされ露点に達すれば、オーバー分は結露となって現れます。それは壁の中でも同じこと。室内で温められた空気がその水分量を保ったまま隙間を抜けて壁内に移動して冷やされれば、当然結露は起こるし躯体を傷めることにつながります。壁の中は自由に換気できないからこそ、空気の移動は確実に止めておかなければなりません。
省エネで快適に暮らすには、住まいの断熱・気密性能と合わせて「窓の性能を高めること」と「日射をコントロールすること」も不可欠です。躯体の断熱・気密が優れていても窓の性能が低いのでは壁に穴が空いているも同然ですし、日射は季節によって敵にも味方にもなり得ます。

断熱・気密を理解した上で太陽とうまく付き合うつもりで計画すれば、家族の健康にもお財布にもやさしい、居心地のいい家が叶うはずです。

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