2020/09/03更新2like4707view

著者:熊井博子

「その電気代、下げられますよ!」 日射コントロールの達人になろう

この記事を書いた人

熊井博子さん

ビルダー・建築設計事務所に営業/広報として勤務した後、住宅専門誌の編集を経て、住宅関連の執筆と一般の方の家づくりサポート等に従事。インテリアコーディネーター、照明コンサルタント。

この夏も全国あちらこちらで最高気温を更新し、連日体温を上回る気温が続きました。もはや日本の夏はクーラーなしでは命すら危うい季節になってしまいましたが、家に降り注ぐ日射の“コントロール”に意識を向けると、同じ家でも少し体感が変わってくるはずです。この夏の電気料金を見てびっくりした方、ちょっと意識して実践してみませんか。

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太陽は、最強の暖房装置

夏のはなしの前に、冬のはなし。 寒い季節、私たちは室内を暖かくして過ごします。床暖房やパネルヒーター、エアコンなど様々な暖房機器がありますが、もっとも頼りになるのは、実は太陽。窓から室内に差し込む太陽の熱(ダイレクトゲイン)です。
その熱量は凄まじく、うまく利用すれば家じゅうの暖房をまかなえるほど。事実、震災で暖房機器が使えなかったある東北地方の住宅では、夜間に外気温が零下に下がっても昼間に取り込んだ日射の熱だけで室温は13℃を下回ることなく通電までの十日間を暖かく過ごせたという報告があります。もちろん住宅の高い断熱性能あってのことですが、太陽は想像以上にパワーのある暖房装置ということがわかります。

夏にはなしを戻します。この太陽が、暑い夏も変わらず家の中に熱を届けていると考えると、ただただクーラーで対抗するのは効率的とはいえません。エアコンの負荷はかなりのものになるはずです。

では、どうするか。
「夏は、極力日射を家の中に入れない」。家の中を、太陽で「暖房」しない。これに尽きます。
方法は、大きく2つ。ひとつは、建築的に日射を制御すること。そしてもうひとつは、住む人自ら日射を制御すること。

建築的に日射を制御する

まずは、住宅そのもののつくりで夏の日射が室内に流入するのを防ぐことを考えます。とはいえ、冬季はその日射が貴重でむしろ欲しいのですから、夏冬両方の都合に合わせた対策が必要です。そこで着目するのが、太陽の軌道。

太陽は、季節ごとに違う軌道を描きます。南の窓から入る太陽の照射角度は、春分・秋分の正午が55°、夏至は78.5°。春分・秋分に比べ、夏至は高い位置からほぼ直下に差し込むことがわかります。対して冬至は31.5°。かなり低い位置から斜めに差し込むので、室内のずいぶん奥まで陽光が届くことになります。

この日射の差し込み角度の違いを考慮して設けられるのが、日本家屋に古くから見られる庇(ひさし)や深い軒(のき)。雨の吹き込みよけなどの意図もありますが、冬の日射取得を邪魔せず、夏の日射をしっかり遮る絶妙な出幅を持つ庇や軒は、一年を通じて室内に流入する日射量を適正にコントロールしてくれます。

近年コストやデザインの観点から庇や軒を持たない建物も増えていますが、その効能を考えると一考に値するはず。庇や深い軒をデザインとして取り込みながら活用できると理想的です。
また、建物そのものの向きも重要な意味を持っています。季節ごとの太陽の軌道を考えると、南向きに建物を配置するのが常にベストとも言い切れません。敷地条件を加味し、四季を通じた太陽との付き合い方を考慮した設計が必要です。

住む人自ら日射を制御する

建物の備えが叶ったら、住む人自身が工夫して日射を制御することも必要です。
大事なのは、「窓を覆うこと。影をつくること」。

『外から窓を覆うもの』には、簾(すだれ)やよしず、オーニング、外付けブラインドがあります。室内に入る日射の熱量比率(日射侵入率)を見てみると、窓に当たる全日射量100%のうち、遮るものがなければ窓ガラスを通過するのは80%前後。それに対して窓外に日よけを設けた場合はなんと18%前後(外付けブラインドの例)。これだけの効果があるのですから、やらない手はありません。

建築計画の段階から視野に入れておけば、日射を遮るだけでなくデザイン性を高める役割も期待できます。和風や和モダンの住まいなら、すだれ掛けを備えてすだれの下端は揃えるなどラインの統一に配慮すれば、美しく風情ある夏の佇まいに。欧米風の住まいなら、全体のコーディネートに配慮した色味のオーニングを。オーニングが差し色となり、一気に垢抜けた印象になるはずです。
『内側から窓を覆うもの』には、カーテンやブラインド、障子があります。外付けの日よけに比べると日射侵入率は50%前後(内側ブラインドの例)ですが、室内への日射流入を防ぐ最後の砦となる大事なアイテムです。

カーテンは、地の厚いものほど有効。遮光カーテンも効果的です。薄手のシアーカーテンやレースカーテンでは日射を遮ることができないので、ドレープカーテンで窓を覆うことが大切です。
ブラインドは、羽の角度で日射を遮りながら明るさも確保できるところが便利。腰高の窓には羽が横方向に伸びるベネシャンブラインドを、人が出入りする大きな窓には羽が縦に吊られたバーチカルブラインドがオススメです。
一方、障子は日射を遮るだけでなく断熱性能を上げる効果もあるスグレモノ。障子と窓ガラスの間に生じる5〜8cmほどの閉ざされた空間が空気層となり、断熱の役割を果たします。簡易の遮蔽空間なので完全な静止空気ではありませんが、窓面を簡易の断熱層にできるという点では非常に有利です。和紙一枚ながら、威力は抜群。真夏の昼、締めていた障子を開けてみると、その瞬間猛烈な熱波がモワッと顔をなでながら室内に流入するのを体験できるはずです。また、日中締め切っていても部屋が暗くならず、爽やかな光が届くのも大きな魅力。

和室に限らず洋室に馴染む和モダンデザインの障子もあるので、取り入れてみるといいかもしれません。
後にもうひとつ、忘れてならないのが庭の植栽。樹木の影が家を覆うと、夏の室内の過ごしやすさはずいぶん違います。落葉樹であれば、夏に木陰を作ってくれていた葉も秋には落ちるので、冬の日射取得も邪魔しません。窓に映る庭の緑が日射をコントロールしながら四季折々の表情を見せてくれたら、とても素敵な毎日になりそうです。

日射をコントロールして暮らす習慣を

太陽と付き合いながら快適に暮らすには、建築的な工夫と住む人自らの実践が欠かせません。建築的な工夫は、知識や技術のある建築家・ビルダーに依頼してクリアするとして、その先は住まい手次第。

住まい手自身が太陽の動きを理解して日射コントロールを習慣づけることが大切です。夏は、太陽が差し込む時間にはカーテンやブラインド、障子などを閉める。日中家を空ける時は閉めておく。逆に冬は、陽光が出たら思い切り開放して日射を取り込み、沈む前に締めて熱を逃がさない。

「太陽は暖房」と考えて、室内に入れたいのか・入れたくないのか、太陽の動きとタイミングを見計らいながら上手に付き合っていきましょう。
野口 淳「那須の山門」
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