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設計、監理を担当
築59年の住まい
東京の下町に59年前に建てられた住まいを、いかにして町に開き、つなげることができるか。初めてここを訪ねた時、日中でもカーテンを閉め、照明をつけている生活を見て、そのように思いました。
敷地は三方を隣家に囲まれ、東のみ通りに面しています。元の建物は切妻の木造2階建て、延べ面積15坪の小さな家でした。東の外壁には、アルミ製のバルコニーや物干し竿、波板の目隠し板等が取り付けられていました。これらは59年の歳月の中で、生活の必要や、車の往来が多くなった町の変化に応じて付け加えられたのだと思います。
35cmの空間を重ねる
今回の改修では、三方の外壁と屋根はそのまま残し、東の外壁を全面的に作り替えました。具体的には、様々な付加物を撤去することで、元の建物が持っていた切妻の美しい姿を回復し、道路境界との間に奥行き35cmの空間を付け加えました。ここにウィンドウ・シート、玄関庇、出窓、物干しスペース等が組込まれています。一枚の壁や窓で内と外とを区切るのではなく、人の行為を促す奥行き35cmの空間を重ねることで、住まいと町の通りに、適切な距離感とつながりが生まれると考えました。構造的には、東の外壁に耐震フレームを嵌めこむことで、全面に開口をつくることが可能となっています。
土間とウィンドウ・シート
開いて人を招く場でありながら、同時に、住む人をしっかりと囲い守ることはいかにして可能か、このことが設計において大きなテーマとなりました。
ここでは、町の通りに沿って土間を引き込み、ウィンドウ・シートを組み合わせています。半屋内空間である土間、ウィンドウ・シート、外の気配を感じる明かり障子、青空の見える高窓。これらが集約されることで、屋内から屋外への段階的な移行が生まれ、適切に「囲いつつ開く」ことができると考えました。
新しい生活
ここに住むのは、長年この地で過ごした夫婦で、しばらく前に子育てを終えています。元の住まいに無かった浴室と脱衣室がこの度の改修で設けられました。改修によって室内は明るくなり、近所の方が立ち寄っています。年始には、土間に延ばした座卓を囲んで親戚10人の宴会が開かれました。2階のタタミスペースは、遊びに来る孫の宿泊にも活用されています。天井の高い切妻型の空間は、弓道の鍛錬を積まれたご主人の練習の場としても計画されました。早速、巻藁に矢を射る姿を見て、設計者としてとても嬉しく思います。
内装は、3つの要素から構成されています。
外壁と屋根の内側は白いクロス仕上げで、この白さによって建物全体の輪郭が感じられ、小さな住まいに空間の広がりが生まれます。東から採り込まれた自然光は白い空間で反射し、内包された杉板の壁と既存の軸組に届けられます。
杉板の壁は、東の部屋ではより光を反射するように白色塗装拭き取り、奥の寝室や脱衣室では杉板の温かみを生かすようにオイル拭きと仕上げを変えています。
既存の軸組は可能な限り活用しています。階段を見上げると、かつての和室の床柱が小屋組まで立ち上がり、十字形に広がる丸太梁が見えます。
町の通りに面する東側の外観です。厚さ35cmの空間を付加することで、プライバシーを守りつつ、適切に開かれた住まいとなりました。外壁の素材は黒色系の金属板です。 (撮影:小川重雄)
通りに面する東側の外観です。コストバランスを考慮して、外壁は通りに面した東側のみ改修して、残りの壁面は部分的な補修に留めています。 (撮影:小川重雄)
写真左上は、ステンレスパイプの手摺横桟をヒバ材で支えたものです。ヒバ材で支えることで、ステンレスパイプに力がかかっても曲がらないようにしています。最上段のステンレスパイプには、物干しハンガーを掛けられます。 (撮影:小川重雄)
玄関の引戸を開けたところです。階段の手摺を背板の無い飾り棚とすることで開放感を感じられる玄関となっています。階段の下は靴の収納になっています。 (撮影:小川重雄)
玄関に面する階段と飾り棚です。小さな空間を最大限に活かすために、一つの空間に複数の機能(玄関・階段・収納・飾り棚)を重ね合わせています。 (撮影:小川重雄)
写真奥の玄関から土間を引き込んでいます。この土間に沿ってウィンドウシートを設け、テーブルで近所の方々とお茶を飲めるようにつくりました。テーブルはこの家のためにデザインしたもので、天板はスライド式です。玄関・階段と写真手前のリビングスペースとは、扉と引込み戸で区切ることができ、熱環境に配慮しています。 (撮影:小川重雄)
写真奥の玄関から土間を引き込んでいます。この土間に沿ってウィンドウシートを設け、テーブルで近所の方々とお茶を飲めるようにつくりました。テーブルはこの家のためにデザインしたもので、天板はスライド式です。玄関・階段と写真手前のリビングスペースとは、扉と引込み戸で区切ることができ、熱環境に配慮しています。 (撮影:小川重雄)
リビングスペースからウィンドウシートや玄関を見た写真です。プライバシーを守るために窓にはワーロン製の障子を設けています。障子の上は透明ガラスにして、天気など屋外の様子が感じられるようにしています。 左側の低い収納棚は、L字に曲がってウィンドウシートになります。普段使いの物を収納するものであり、居間の「守られ感」を生み出す工夫でもあります。 (撮影:小川重雄)
リビングスペースからウィンドウシートを見た写真です。ウィンドウシートの向こうが町の通りです。プライバシーを守るために窓にはワーロン製の障子を設けています。障子の上は透明ガラスにして、天気など屋外の様子が感じられるようにしています。 左側の低い収納棚は、L字に曲がってウィンドウシートになります。普段使いの物を収納するものであり、居間の「守られ感」を生み出す工夫でもあります。 (撮影:小川重雄)
土間からリビングスペースを見たところです。 土間と板張りの段差を活かして床下収納としています。右側はこの家のためにデザインしたスライド式の座卓です。 正面の間仕切り収納の窪みにはお仏壇を置きます。収納と天井の間をあけることで、部屋が広く感じられるように工夫しています。間仕切り収納の向こう側にキッチンがあります。 (撮影:小川重雄)
キッチンとリビングスペースを仕切る収納家具には磁石の付くホワイトボードシートを貼っています。 (撮影:小川重雄)
トイレ、脱衣・洗面所です。服を脱ぐところは、温かみが感じられるように杉板の壁としています。小さな住まいですので、流しは実用的でコンパクトなものを特注でつくりました。 (撮影:小川重雄)
階段を見上げると、かつての和室の床柱と、そこから十字形に広がる梁が見えます。この梁は改修前は天井裏にかくれていましたが、今回の改修で見えるようにしました。コンパクトな家で開放感を生み出すためには、この階段のように高さを感じられる空間をどこかに用意することが大切と考えています。 (撮影:小川重雄)
「こぶ」のある床柱を残すことで、新築では得られないリノベーションならではの空間を生み出しています。 (撮影:小川重雄)
タタミスペースから小屋組みを見上げた写真です。中央の杉板壁の向こうに寝室があります。右側の襖をあけたところは納戸です。襖を開ければ、タタミスペースからでも納戸にある布団や荷物を取り出せるようにしました。 (撮影:小川重雄)
寝室側から縁側スペースを見たところです。正面の黒いアルミサッシは3本引きです。季節の良いときには大きく開け放して、板張りの床全体が縁側のような空間になります。 (撮影:小川重雄)
2階の階段周りの写真です。 写真の右側がタタミスペース、正面の杉板壁の向こうが寝室です。杉板壁には正方形の室内窓を設けて、寝室にも自然光が入るようにしています。 丸太による小屋組みは、かつては天井裏に隠れていましたが、この度の改修で内部にあらわしました。新旧の材料を共に活かすことが、リノベーションの面白さだと思います。 (撮影:小川重雄)
2階のタタミスペースです。お孫さんが泊まり来た時には、ここに布団を敷いています。今回の改修で、窓辺に物書きができる場所が生まれました。足元の横長の窓を開けると、気持ちの良い風が入ってきます。 (撮影:小川重雄)
2階 タタミスペースから縁側スペースを見たところです。黒いアルミサッシは3本引きです。季節の良いときには大きく開け放して、板張りの床全体が縁側のような空間になります。 (撮影:小川重雄)
縁側スペースからタタミスペースを見たところです。 右側に見える黒いアルミサッシは3本引きで、大きく開放することができます。 (撮影:小川重雄)
寝室の床と壁、天井は、温かみの感じられる杉板張りとしています。東面からの自然光を寝室にも採り込めるように、正方形の室内窓を設けています。就寝時には板戸によって閉じることもできます。 (撮影:小川重雄)
納戸の写真です。襖を開けるとタタミスペースから収納物を出し入れすることもできます。写真には写っていませんが、手前にはハンガーパイプがあり、衣服を掛けられるようになっています。 (撮影:小川重雄)
湿気がこもらない開放的な小屋裏には、家族の思い出の品など、様々な物を収納することができます。小さな住まいですが、限られた空間を最大限に活用しています。 (撮影:小川重雄)