2019/08/18更新1like6594view

著者:水沼 均

一戸建て住宅の間取りプランの進め方

この記事を書いた人

水沼 均さん

建築設計の学校で長年教師を務め、大勢の生徒さんと接してまいりました。年齢、経歴、そして住まいへの思いも大変多様で、他では得られない貴重な経験ができました。その経験を生かして、豊かな住まいづくりに役立つような記事をたくさん書いていきたいと思います。

戸建て住宅の新築やリノベーションをすることになったら、まずは間取りづくりに着手されることと思います。でも間取りは家族の暮らしをダイレクトに反映する大切な要素だけに、どのように考えて進めていけば良いかが気になりますよね。そこでここでは、間取りを含めた戸建て住宅の初期プランニングの進め方について考えてみましょう。

▽ 目次 (クリックでスクロールします)

はじめは細かくなりすぎずに、つながり重視で考える

初めの段階では、とかくいきなり四角い間取り図を作りがちですが、最初はできるだけ細かくなく、おおざっぱに考えた方が良い結果が出ます。部屋も四角くサイズを決めて考えるのではなく、ただの丸印くらいにして、部屋と部屋との並びや関係だけを考えてみるのが良いでしょう。そして次第に具体化するように進めていきましょう。この一連の流れを、プランニングと呼びます。

下の図は、ある新築戸建て住宅を計画した際の初期プランニングスケッチです。部屋のサイズはほとんど考慮しておらず、部屋同士の並びと関係だけに着目していることがわかります。
著者作成

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上図では人の動きや視線、部屋のつながりなども、初期の段階から重視して検討しています。特に部屋のつながりは重要です。部屋のつながりが、そのまま家族のつながりを作り出すと言えるからです。

上図では特に、リビングとダイニング、そしてキッチンのつながりを強調しています。さらには部屋と庭との関係も重視しています。戸建てにはあってマンションにはない魅力の1つに、地面に接して自然要素と親しみながら暮らせることが挙げられます。これを確保するために、計画の非常に初期の段階から内外のつながりを検討しているわけです。

このようなスケッチを、設計者は部屋の並びを変えて、何パターンも考えます。そして比較検討しながら案を改良していくのです。これが初期プランニングの作業です。

おおざっぱに部屋のサイズを当てはめてみる

ここまで考えたら、初めて部屋のサイズを考慮しながらスケッチを描きます。丸印で描いた各部屋は、実際にどれくらいの広さで並ぶのでしょうか。それを検討するのが次の段階です。

下の図は、上の図でおおざっぱに考えた並びをもとに、部屋のサイズを考慮して描いたものです。この時点でもまだあまり細かい部分は描きこんでいません。あくまでも上図で得たポイントを大切にしながら、全体像の様子を見ています。
著者作成

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ここでも、つながりという要素がもっとも大切となります。上図をよく見ると、間仕切り壁が場所によって強く描かれていたり弱く描かれていたりします。極力仕切ってしまわずに、なにかの形で部屋同士をつなげていきたいという気持ちが、線の1本1本にも表れるものですね。

実際プランニングは、仕切ることから考え始めてしまうと、なかなか良い住まいができません。狭い部屋がたくさん並んでしまったり、全体として窮屈な住まいになってしまったりするものです。

そこで、思い切り部屋同士をつなげて考えてみましょう。もしどうしても仕切りたければ、後から仕切ってしまうことは比較的簡単にできるものなのです。ところが、逆に後からつなげることはけっこう難しいのです。

プランニングとは、一言で言うなら、仕切る作業ではなくつなげる作業なのだと言っても過言ではないかもしれません。

窓や家具をレイアウトして具体化していく

ここまで来ると、どのような住まいにしたいのか、だいぶ見当がついてきましたね。そこで次の段階では、窓や出入り口などの開口部や、家具造作類を描き込んでみましょう。

下の図は上図のラフスケッチをもとにして、より具体的に描いてみたものです。家具類が描き込んであるので、だいぶリアルになってきました。いわゆる間取り図にとても近いものですね。ここに紹介するのは1枚だけですが、実際には開口部や家具レイアウトの別案ごとに何枚も描きます。
著者作成

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つながりが生かされているかフィードバックしてチェック

ここで大切なのは、先の図で検討したようなつながりがしっかり生かされているかどうかの、フィードバック作業です。下の図は、上図に人の動きや視線、そして光や風なども描き足して、つながりをチェックしています。
著者作成

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このようにして、プランニングは進んでいきます。間取り図が描かれるまでに、数多くのステップが存在することがおわかりいただけたかと思います。

つながりのプランニングを実例で見る

ここで、SUVACOに掲載されている戸建て住宅のプランニングを見てみましょう。

下の例は戸建て住宅をリノベーションしたものです。延べ面積わずか68平米という小さな住宅ですが、リビングダイニングとキッチンをワンルームにして、極力広々とつながったプランニングにしています。

この案で優れているのは、1階中央の玄関と階段室の間にホールを設けてしまわずに、あくまでもリビングとダイニングキッチンをワンルームにしているところです。結果、玄関から2階に向かう家族は必ずLDKを通ることになり、家族同士が顔を合わせる機会が一気に増えてくれています。すばらしいつながり演出の例ですね。
下の例では中央の階段室吹き抜けの上部に天窓を設けています。そして、ここを住まい全体の採光・通風の拠点にしています。この階段室を中心にして住まいを回遊し、各室にアクセスすることができる動線を作り出しています。住まいをグルッと回れるのもまた、優れたつながり演出の1つです。

さらに2室の子ども室をいずれもリビングダイニングに面するように設け、建具も開け放すことのできる引き違い扉にして、家族のつながりを強めています。
高野俊吾建築設計事務所「光と風を取込む階段を中心としたリノベーション -HO邸リノベーション-」

縦のつながりを作り出す

戸建て住宅はマンションと異なり、2階建てや3階建てのものが多いので、部屋同士の縦のつながりを作り出すことも可能です。

下は戸建て住宅のリノベーションの例です。上がビフォー、下がアフターです。新たに吹き抜けを作って、縦のつながりを演出しています。LDKと2階とが一体のスペースとしてつながっています。上部からの光もうれしいですよね。

既存の骨組みを生かしつつ新たに吹き抜けを作るのは、技術的にはなかなか大変ですが、あえてこれに取り組んだ成果が十分に感じ取れる力作です。
また下の例は、和室とダイニングの上部にまたがるようにして吹き抜けを設けた、ユニークな例です。和室は建具を閉めるとダイニングからは独立した個室となりますが、上部は2階のホールになっていて、大変開放的なつながり感を作り出しています。

主室を2階に持っていく手もあり

周囲が密集していてなかなか採光や通風が得られないような敷地では、思い切ってLDKなどの主室を2階にするという手も大いにあります。

下の例は戸建て住宅のフルリノベーションですが、個室を1階にまとめ、2階をワンルーム化して、広々と明るい居住空間を作り出しています。
ところで、上図で1階と2階の間取り図を見比べてみるとよくわかりますが、2階よりも1階の方にたくさん壁が入っています。これは構造的にはとても有利です。屋根だけを支えればよい2階と違い、1階は2階と屋根との両方を支えなければなりません。そのためにも、2階をワンルーム化するのは構造的に有利であると言えます。

こうした考え方は、そのまま建設費用のコストダウンにもつながります。構造的・技術的な合理性をともなったプランニングであれば、同じ面積の住まいを作るのでも、コストはずいぶんと違ってくるものなのです。

屋根裏も活用して、さらに広々と

さて2階をLDKでワンルーム化すると、広い部屋になるだけに、天井も高くしたいものです。このとき2階の天井板を屋根板と同じ傾きで斜めに貼ることで、1階では得られないような天井の高い、楽しいLDKができあがります。

下の例ではLDKを2階に設け、屋根を支える骨組みをむき出しにしています。さらにロフトまで設けることで、豊かな立体感を持ったLDKを作り出すことに成功しています。
下の例でもまた、屋根裏のスペースを利用してロフトを設けています。ささやかなロフトですが、立体感や楽しさを演出するには十分な存在感を持っています。
このような高い天井も、2階に作れば比較的リーズナブルなコストで実現することができます。一方、1階で高い天井を作ろうとしますと、建物全体の高さが増してしまうため、使用する木材の石数(こくすう:体積を表します)も増えて、コストに影響してしまいます。
理想の戸建て住宅は、丹念なプランニングを行った末に生み出されるものと言うことができます。そしてプランニングで得られるもっとも大切なものとは、場所のつながり、家族のつながりです。さらにこのつながりは、横方向だけでなく縦方向にも生かすことができます。世界でたった1件だけの魅力的な住まいを手に入れるために、ぜひつながりのプランニングにチャレンジしてみてください。
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