2019/09/02更新1like5146view

著者:佐藤ゆうか

家づくりの前に知ってほしい、設計・施工会社の仕組み

この記事を書いた人

佐藤ゆうかさん

2級建築士。
工業高校卒業後、中小規模の建設会社に勤務。
木造住宅を中心に新築やリフォームの設計に携る。
現在は3児の育児を中心に在宅ワークに励み、いつか現役復帰を夢見ながら建設業界にしがみつく日々。

注文住宅の工事現場で作業を行っている人は、実は施工会社の人ではない、ということはご存知でしょうか? 注文住宅は、たくさんの職種の人が関わって完成します。だからこそ、普段、建設業界に関わることがない人にとっては、注文住宅を手がける設計・施工会社の仕組みは、少し複雑に思える部分があるかもしれません。

そこでこの記事では、意外と知らない設計・施工会社の仕組みや、下請けの協力会社との関係性から設計・施工会社を選ぶ際にチェックしたいポイントを解説します。これから注文住宅を建てる人は、依頼先を決める前の基礎知識として確認してくださいね。

▽ 目次 (クリックでスクロールします)

注文住宅をつくる設計・施工会社の仕組みのキホン

注文住宅の依頼先として代表的なのは設計事務所・工務店・ハウスメーカーで、家づくりは基本的には次のように進みます。

①ローンの借り入れ先など予算を明確にする
②土地を探す
③設計・施工会社にコンタクトをとる
④営業担当・設計担当がヒアリング、プランニングを行い概算見積もりをチェック
⑤設計契約を結ぶ
⑥確認申請、実施設計
⑦積算担当や施工会社が見積もりを行い、工事契約に向けた予算を詰める
⑧施工会社と工事契約を結ぶ
⑨着工~上棟~竣工
⑩清算、引渡し、入居

この流れの中で、建築主、設計・施工社(設計事務所・施工会社)、下請けの協力会社が様々な働きを行うことで住宅は完成します。

家を建てたいと思い、工事を依頼する人が建築主。施主とも呼ばれます。
建築主から依頼され、家の設計や施工管理を行うのが設計・施工会社。
設計・施工会社から仕事を依頼され、下請けとなって工事を行うのが協力会社。つまり、職人です。

冒頭で、工事現場で作業を行っている人は建設会社の職員ではない、ということをお伝えしました。工事現場を管理する現場監督は施工会社の社員ですが、工事現場で作業を行っている人は、協力会社の社員という立場になります。

この3社の関係性は、注文住宅の依頼先が自社設計か?自社施工か?他社施工か?によって異なりますので、順番に確認しましょう。

設計事務所に依頼した場合の関係性

設計事務所とは、建物のプロデュースや設計・設計監理を主に行う企業です。

一般的に、設計事務所の家づくりでは、建築主・設計事務所・施工会社・協力会社が次の図のように関係します。
設計事務所によって、流れは多少異なる場合がありますが、この関係に基づいて、次のように家づくりは進みます。

①建築主が設計事務所に設計・設計監理を依頼し、設計事務所は要望や予算を元に基本設計・実施設計を行う
②設計事務所と建築主で設計内容の合意ができた上で、施工会社を選ぶ
③施工会社はコンペ形式で選ばれる場合と、設計事務所が選んだ目ぼしい工務店に直接依頼される場合がある
④施工会社は見積もりや工法を提案して予算調整を行い、建築主と工事契約を結ぶ
⑤施工会社はスケジュールや技術力、予算に適した職人に工事を依頼する
⑥施工会社は現場監督として施工管理の立場から工事を管理する
⑦設計事務所は設計監理者の立場で工事を監理する

設計事務所の家づくりは、設計と施工が別の会社となることが大きな特徴ですね。

この点のメリットとしては、設計事務所は第三者の立場として工事を監理するため、ひとつの会社が設計と施工の両方を行う場合よりも設計者の立場から厳しい品質チェックが行われることが挙げられます。

工務店・ハウスメーカーに依頼した場合

工務店とハウスメーカーは異なる企業形態ではありますが、今回は自社設計・施工会社、つまり、設計・施工を請け負う会社というくくりでひとまとめにして解説します。

一般的に、自社設計・施工会社の家づくりでは、建築主・建設会社・職人が次の図のように関係します。
会社によって流れは多少異なる場合がありますが、この関係に基づいて、次のように家づくりは進みます。

①建築主が設計・施工会社に設計・設計監理・施工管理を依頼する
②設計・施工会社の設計担当は要望や予算を元に基本設計・実施設計を行う(設計契約を結ぶ)
③設計担当と建築主で設計内容の合意ができた上で、工事契約を結ぶ
④工事担当者はスケジュールや技術力、予算に適した職人に工事を依頼する
⑤工事担当者は現場監督として施工管理の立場から工事を管理する
⑥設計担当者は設計監理者の立場で工事を監理する

自社設計・施工の会社では、設計事務所に比べて設計監理の頻度や厳しさは軽いですが、設計費を抑えることができるメリットがあります。

会社選びの際には、設計事務所・工務店・ハウスメーカーのどこが優れているか?というよりも、それぞれの違いを理解した上で、自分たちの家づくりの予算や、考え方に適した依頼先を選ぶといいでしょう。

協力会社との関係性から考える、建設会社を選ぶ際のポイント

設計・施工会社選びは、手がけた家のデザインや、工事金額、プランニング能力、現場への近さ、住宅完成保証制度への加入などで選びがちですが、その他にも、協力会社の関係性という面からチェックしてもらいたいポイントが2つあります。

住まいの品質を左右する部分でもありますので、必ず確認してください。

(1)年間施工棟数
年間施工棟数とは、その建設会社が1年間で手がけた工事の件数を表しています。

施工棟数が多い会社は、工事を多く請け負っているということで、顧客からの信頼度はもちろんですが、施工棟数の多い会社ほどいい循環が生まれやすい特徴があります。

次の図をご覧ください。
施工棟数が多い建設会社ほど、職人に多くの仕事を出すことができますね。

そのため、同じ時期に仕事の依頼が来た場合でも、職人からは大切な取引先として扱われている設計・施工会社の方が、優先的に仕事を引き受けてもらえるようになります。
施工棟数が多い会社は、良い職人に優先的に仕事を請けてもらえるようになります。

職人の腕が品質に影響しやすい家づくりの現場では、こういった良い循環が生まれることで、品質の良い家づくりができるようになるのです。

ただし、ただ施工棟数が多ければ良いというわけではありません。

もうひとつのポイントとして、次の項目も確認してください。

(2)価格の理由
施工棟数が多いことについてお伝えしましたが、その上で、適正価格かどうかについてもチェックしましょう。

近年人気を集めているローコスト住宅。家づくりでお金がかからないことは、多くの建築主にとってうれしいことですね。しかし、その価格を鵜呑みにせず、ローコストの理由について知っておくことが大切です。

いくら建築主に対する価格が安くても、裏で設計・施工会社から職人に支払われるお金が十分でない場合、職人も生活がかかっていますので、どこかで帳尻を合わせる必要があります。そうなると、「安かろう悪かろう」で品質が保たれない家づくりとなってしまう恐れがあるのです。

ローコスト住宅でも、良い家づくりをしている設計・施工会社はたくさんありますから、ローコストの場合には、「なぜローコストにできるのか?」という部分の説明を十分に受け、納得した上で依頼をすることが大切です。
知っているようで意外と知らない設計・施工会社の仕組みと、設計・施工会社を選ぶ際にチェックしたいポイントについてお伝えしました。

注文住宅が始まっても、設計・施工会社の仕組みについて改めて説明されることはありませんが、これを事前に知っておくことで、より自分たちに合った設計・施工会社選びをすることにつながります。設計・施工会社選びの際には、その会社が下請けの協力会社とどのように家づくりを進めていくのか、関係性についても確認できるといいですね。
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