私たちは、一生のうちでほんの数軒にしか暮らした経験がないのに、「良い家って、普通こういうものだよね!」と、家のあるべき姿が分かっているかのような錯覚に陥りがちです。でも、その“普通に良い”って自分の住まいに必要ですか?オンリーワンの家づくりのためには、思い込みを取り払うところからのスタートが肝心です。
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広い!明るい!たくさんがいい!という価値観の氾濫
広いリビングがあれば、いい家なの?
リビングにはテレビを据えなきゃの呪縛
南向きにこだわる必要ある?
庭やバルコニーに面した窓には、掃き出し窓の一択?
トイレに窓は必要?
天井にボコボコダウンライトの穴を開けていいの?
個室にクローゼットはマスト?
広い!明るい!たくさんがいい!という価値観の氾濫
主に戦後の日本の家づくりを支配していたのが、広い、明るい、なんでも豊富が良い、という価値観ではなかったでしょうか。広さや明るさの感じ方は人それぞれ、また場面ごとにも感じ方が違うはずなのに、より広く、より明るく、という単一の価値観が幅を利かせてきました。
そこで今回の記事では特に、「広・明・多」であらねば、という縛りが根底にある思い込みを疑ってみたいと思います。開放的な広さが本当に必要なの?快適な明るさとはどの程度なの?など、常に「自分たちの条件の中での優先順位」を持つことがオンリーワンの住まいへの第一歩です。
経験するとくせになる、あたり前を「やめてみる」という決断
私事になりますが、使って当然と思っていた台所の洗い桶と三角コーナーの手入れに疲れ果て、「洗い桶」「三角コーナ」「いらない」などとネットで検索してみたところ、これらを捨ててスッキリした人の体験談がゾロゾロでてきたのです。
台所グッズの廃棄という小さなアクションに過ぎなかったのですが、あたり前がおかしいと思って自分流を実行し、結果として大満足している人が大勢いることに力を得て、そこから住まいに潜むあたり前を疑う習慣ができました。
広いリビングがあれば、いい家なの?
「リビングは広々〇〇帖!」などと広告が打たれるように、広いリビングは、開放感にあふれた豊かな日常の象徴です。でも、テレビとソファだけのために、限られた床面積を広いリビングが占有しているとしたら、空間の無駄づかいでしかありません。
広さよりも溜まり(たまり)
広さが確保できなくても、幅広い機能をもたせることで空間を何層にも有効に使うことができます。家族それぞれが、それぞれの場面に応じた過ごし方ができる“溜まり”を部屋のあちこちにつくると、面積の広さでは測れない豊かな空間がうまれます。
溜まりの集合体としてのリビング
ダイニングと兼用のリビングなら、食後の団らんへと自然につながりますし、ワークスペースや子供部屋の機能をもたせれば、家族の気配を感じながら個々の時間がつながっていきます。小さな溜まりの集合体をつなげていくイメージで、リビングの使い方を白紙の状態から考えてみましょう。
リビングにはテレビを据えなきゃの呪縛
圧倒的な存在感
広いリビングには、贅沢なソファセットと大型テレビが当たり前と考えがちです。でもテレビは、その他の家具の配置や、開口部の位置にまで影響を及ぼすもの。テレビの圧倒的な存在感が部屋から消滅したら……、部屋の自由度がグッと増すのに、と思いませんか?
家族団らんの変化
これからの時代、テレビを囲んでの家族団らんの光景は消え、一人一台のデバイスで、ニュースはネットで、映像はプロジェクターで視聴するようになるかもしれません。テレビありきじゃないリビングでの過ごし方も、可能性のひとつに考えてみる価値は大いにあるでしょう。
南向きにこだわる必要ある?
敷地選びでも物件選びでも、いかに部屋を南面に向けられるか、という点にどうしても執着しがちです。でも、南にこだわった挙句、窓が開けられない、カーテン締切のプランニングが出来上がってしまったら本末転倒です。方角ありきではなく、土地固有の条件を読みながら丁寧なプランニングをすることが、安定した採光と通風を得る住まいにつながります。
庭やバルコニーに面した窓には、掃き出し窓の一択?
掃き出し窓とは、床面から立ち上がる高さ2メートル程度の引き戸タイプの窓で、もとは、箒で掃いたゴミを外に出すための小窓でした。現在では、バルコニーや庭への出入り口として、また外部との開放的なつながりをもたらす窓として定着していますが、必ずしも開放感を望める場所と限らず、特にマンションではほとんど全てのバルコニー面の窓に取りつけられています。
マンションや団地でも選択肢あり
採光面では有効な掃き出し窓ですが、一方で防犯上の問題や、熱損失の課題が残ります。集合住宅でも、日常的に必要な出入りスペースや災害時などの避難経路は確保しつつ、内側の建具の工夫で開口部を腰窓風に絞るなどの検討が可能です。集合住宅にはお馴染みの掃き出し窓の光景から一転、上質な落ち着きがもたらされます。
トイレに窓は必要?
一戸建てのトイレには窓!の憧れ
採光や通風のために、一戸建てであればトイレに窓をつけた方がいいと考えがちです。事実、私もマンションから一戸建てに引っ越した時に「これでトイレに窓がつく!」と、はしゃいだものですが、今は、無くてもいいかもと感じています。
トイレは小さい空間なだけに、窓を開けると寒気や熱気といった外気の影響をダイレクトに受けてしまいがちです。結局、我が家はブラインドでふさいでしまっています。
トイレに縛られないプランニング
戸建てなのにトイレに窓が付かないことで、プランニングに行き詰まったら、トイレに窓は必要?と一度考えてみてはいかがでしょうか。必要量の換気は、換気扇による機械換気のみで十分可能です。そのうえで、高窓やスリット状のFIX窓などから効率的に光をとり入れられるとベストですね。
天井にボコボコダウンライトの穴を開けていいの?
変更が効かないダウンライト
居室の用途や作業に応じて必要な照度の目安はありますが、必要な照度をすべて天井照明からとる必要はありません。照明計画は天井伏図(てんじょうふせず)という図面に器具をプロットしていくのですが、この二次元的な図面上でのバランスだけを考えていると、実際に家具が置かれた時などに現状に合わない場合もでてきます。
ダウンライトは一度つけたら、簡単に変更がきかず、そのうえ消灯している時の器具の穴は結構目立つもの。ダウンライトは最小限に、スタンドライトなどを適所に配置して、後からの自由度がきく計画がおすすめです。
個室にクローゼットはマスト?
いる VS いらない論争
クローゼットなど収納スペースの使い勝手は、個々の持ち物の違いや整理整頓の習慣から、個人差が多いもの。それを証拠に、収納に関わる要否の論争は両者の意見が拮抗するものです。
いずれの場合でも言えることは、「個室にはとりあえず収納」という、あればいいやの思い込みでつけた収納であるかぎり、整理整頓の悩みは消えないということでしょう。さらに動線を考慮すると、個室に一箇所の収納が最適とも限りません。
大は小を兼ねない
プランニングにおいて、収納は力を入れる甲斐のある場所ですが、豊富なほど良いかというとそうではありません。「大は小を兼ねない!」のも収納計画の難しいところです。ファミリークローゼットやウォークスルークローゼットなど、様々な選択肢から、事例を参考に家族にとっての要否を見極めましょう。
思い込みから解放されると、家も心も軽くなる。あたり前を築きあげてきた先人たちに敬意を表しつつも、一歩進んだ、オンリーワンの家づくりを楽しみたいですね。