2017/12/02更新0like6997view

著者:水沼 均

この部屋、この広さは必要?マンションリノベーションのプランで意識すべきこと

この記事を書いた人

水沼 均さん

建築設計の学校で長年教師を務め、大勢の生徒さんと接してまいりました。年齢、経歴、そして住まいへの思いも大変多様で、他では得られない貴重な経験ができました。その経験を生かして、豊かな住まいづくりに役立つような記事をたくさん書いていきたいと思います。

マンションリノベーションをする際に、どのようなことを特に意識してプランニングしていけばよいでしょうか。とても多くの事柄が挙げられますが、この部分を特にしっかり押さえておくと大変有効で、暮らしやすくて豊かな住まいができる、という事柄を、ここではいくつか取り出してお話ししてみましょう。

▽ 目次 (クリックでスクロールします)

この部屋は必要?この広さは必要?既成概念を疑ってみる

マンションの間取り図を眺めていますと、共通した作り方が多く見られることに気がつきます。しかしその中には、果たしてこの部屋やこの広さは必要なのかと疑問に感じる例も少なからずあります。

たとえば窓に面して和室が作られていて、その奥にリビングダイニングがある例をよくみかけます。この手法はもっぱら、居室の採光に関する法律をクリアして部屋数を増やすために考え出された方法です。和室の建具を開け放せるようにしておけば、リビングダイニングに直接窓がなくても法律上問題がないからです。

しかし、そのようにして作られた和室は本当に必要なのでしょうか?始めに法律のクリアが大切なのではなく、まず「和室のある暮らしがほしい」というニーズが何よりも大切なのではないでしょうか。

下の写真はLDKの一角に小さな畳敷きの小上がりを設けた例です。周囲に仕切りはなく、家族の普段の生活に見事に溶け込んでいる様子がわかります。
リノベ不動産|スリーエイト「【マンション×フルリノベーション】O様邸」
次は個室の広さについて考えてみましょう。面積の制限がある中でいたずらに個室ばかりを広く取った例もよく見かけますが、その広さ、本当に必要なのでしょうか?

下の2つの例ではいずれも個室が必要最小限の広さで設けられています。そしてその代わりに、LDKに潤沢な面積が割かれています。個室は眠って着替えられる部屋であればよい、と割り切り、書斎や勉強のスペースまでもLDKの一角に組み込むことで、全体により豊かな住まいができあがることも十分あり得るのです。
マンションプランニングでは、一家のために世界でたった一つの住まいを作るのですから、既成概念に過剰にとらわれてしまってはもったいないですよね。良いリノベーションをするためにも、時として既成概念を疑ってみることも必要なのではないでしょうか。

限られた面積の中でより広く、つながって住まう

マンションは戸建てに比べて、広さや天井高、開口部などの枠組みがしっかりと決まっていますが、中でも特に、広さは生活のクオリティに直接関わる要素です。決められた広さの中で、すべての暮らしが豊かに成り立つ住まいを作る必要があるわけです。

では広さをどのように活用すれば、豊かなマンションライフが得られるでしょうか。そのコツはズバリ、できるだけ部屋数を減らして大きな部屋にまとめること、と言えます。

食事の場所、勉強の場所、睡眠の場所、収納の場所など、住まいには実にさまざまな場所がありますが、これらを細かく仕切ってしまうことなく、できるだけつなぎ合わせて広い部屋の中で共存させられるのが、良いマンションプランニングなのです。

下の図は、あるマンションリノベーションのビフォーとアフターです。思い切って部屋数を減らすことで、リビングダイニングがとても広くとれて暮らしやすくなっていることがわかります。個室は最低限の面積に抑えて、書斎コーナーと勉強机をダイニングの脇に設けることで、さらなるワンルーム化を進めています。
著者作成

著者作成

実際、プランニングをしてみるとついつい細かく仕切ってしまいがちなものです。部屋数がほしいし、家族個々のプライバシーや領域確保といったことがつい優先されます。しかし細かく仕切れば仕切るほど、住まいは狭く小さくなっていきます。使い勝手はかえって悪くなり、採光や通風にも不利になってしまうのです。

できるだけたくさんの場所をワンルーム化する

いくつかの場所を思い切って一部屋の中にまとめても、家具や造作を計画的に配置すれば、とても使いやすくてプライバシーも保たれた住まいを作ることができます。

下の写真ではリビングとダイニングはもとより、趣味のための場をも一室にまとめて広々とさせています。既存梁と軽い間仕切りのおかげで、一室の中にもしっかりとそれぞれの場所が確立されていることがわかります。
ブルースタジオ「M邸-中古2LDKに、妻のアトリエと夫の秘密基地」
また下の写真では、リビングダイニングとキッチン、そして玄関までもがワンルーム化されています。収納を兼ねたワークスペースも、可動間仕切りを開け放ってワンルームの中に溶け込んでいます。
また下の写真では、玄関を入るとすぐにキッチンカウンターがあります。上の例と同様、玄関もワンルームの中で明るく広々と存在しています。
一見プライバシーが守れるか気になるかもしれませんが、上の2つの例のように腰壁やキッチンカウンターなどの軽い障壁物があるだけで、奥のプライバシーはかなり守られてくれます。

このように2つの場所を柔らかく仕切ったりつないだりしたいときに、設計者はさまざまなしつらえを検討します。そして、こうしてしつらえたものを「バッファー」や「結界(けっかい)」などと呼んで、とても大切にします。なぜかというと、極力たくさんの場所を仕切らずにつなげたいからなのです。

光と風の通り道を考える

マンションリノベーションは既存の部屋を改装するわけですから、窓や玄関など開口部の位置に当然制約を受けます。角部屋以外は、だいたいのマンションルームは細長い平面形で短辺に開口部がつくのみなので、自然光と通風も制限されがちです。

このとき、限られた数の開口部をすべて個室に充ててしまうと、建具を開け放さない限り中央のエリアは光が遮られ、風も通りません。ここをいかにプランニングで克服するかが大きなポイントとなります。

リビングダイニングのような家族の集まる場所は、極力優先して開口部に面して設けたいものです。そして個室は建具を工夫して、隣室(リビングダイニングや廊下、ホールなど)に向かってできるだけ幅広く開け放てるようにしてみましょう。プライバシーの点で不安を感じられるかもしれませんが、建具を閉めてしまえばほぼ問題なくプライバシーは保てます。そして開放していてかまわないときには、極力隣室に光や風をもたらせるようにプランニングしましょう。

下の図は先に挙げたリノベーション例に光と風の入る様子を描き込んだものです。光や風が個室をも通じてLDKに入ってきていることがわかります。
著者作成

著者作成

引き戸の建具は便利で開放的

このとき、日本古来の引き戸(引き違いや片引き)の建具はとても有効です。開き扉と違って開けたときに部屋から出っ張らないし、全開にすることも少しだけ開けることも自在にできるからです。

下の写真は小上がりのコーナーに片引きの建具を取り付けて、ふだんは全開にしておけるように作った例です。マンションでもここまで開放感を出すことができるのです!
建具は光を通せるタイプのものだととても良いですね。すりガラスにしたり紙障子にしたりすることで、プライバシーに影響なく作ることが可能です。なんとなくフラッシュ扉(ガラスなどのはまっていないパネルだけの扉)をふつうに取り付けてしまう前に、ぜひ検討してみてください。

下の写真は建具に紙障子を用いた例です。柔らかい光が伝わってくるため、閉塞感がなく広々と感じられます。上部を開放しているのも開放感に一役買っていますね。
池田 郁夫「引き込み障子と小上がり畳の可変性を持たせたリノベーション」
せっかく戸建てではなくマンションを選んで、リノベーションまでして快適に暮らそうとするのですから、マンションならではの暮らし方を選んで、個性ある豊かな住まいにしたいものです。ここではそんな気持ちから、役に立ちそうなポイントをいくつか挙げてみました。どのような広さ、間取りのマンションにも共通して使えるポイントばかりだと思います。ぜひすてきなマンションライフに役立ててみてください。
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