窓からのやわらかな光で豊かな表情をみせる漆喰の白い壁に、アンティーク調の家具がどこかフレンチな空気をまとう美しい住まい。料理研究家でライフスタイルデザイナーの太田みおさんのお宅です。
プロがコーディネートしたかのようなこの家は、実は1から太田さんがアイデアを出し、リノベーションをしています。今では、訪れる人を魅了する素敵な空間ですが、ここにたどり着くのは決して楽な道のりではありませんでした。今回の取材では太田さんの家に対するこだわりとともに、自分でリノベーションを進めるにあたっての奮闘をお話ししていただきました。
▽ 目次 (クリックでスクロールします)
「妥協したくない!」 その思いからはじまったセルフリノベーション
着工の前日に工務店が撤退!しかしその挫折から、一生ものの出会いが
海外のリゾートを思わせるエッセンスが散りばめられた、ハイセンスなMIXスタイル
自然素材をふんだんに使ったこだわりのバスルーム
日々の生活にこだわることこそ贅沢
「妥協したくない!」 その思いからはじまったセルフリノベーション
太田さんがマンションを購入しリノベーションをしようと思ったのは、今から7年前の2009年のことでした。当時太田さんは23歳。まだ大学を出て1年ほどの時です。
その頃は、まだ今ほどリノベーションの認識も広がっておらず、部分的なリフォームが世間では一般的でした。
マンションを購入するにあたり、新築も内見しましたが、工業製品的な仕上がりが好きになれず、「せっかく家を買うなら自分の好きなように作りたい!」と思ったのがリノベーションをするきっかけでした。
そこでいくつかのリノベーション会社に相談に行ってみたものの、要望と予算が折り合わず、行き詰まってしまいます。
しかし、やりたいことがはっきりとイメージできていた太田さんは「デザインをしてもらう必要はない」「やれることは自分でやろう!」と自分で工務店を見つけて、リノベーションを進めることにしました。
23歳という若さで、インテリアへのこだわりをしっかりと持っているだけでなく、限られた条件の中で、妥協することなくそれを実現していくことはなかなか真似できることではありません。
しかし太田さんは持ち前の行動力で、常にアンテナをはりめぐらせ、インターネットで素材を調べ、気に入ったものがあれば海外から直接取り寄せるなど、理想を実現させるための行動をとります。
着工の前日に工務店が撤退!しかしその挫折から、一生ものの出会いが
2か月にわたる工務店との打ち合わせを経て、いよいよ明日から着工するという日に、騒音などの問題で工務店とマンションの管理組合が衝突。
なんと工務店から工事を断られてしまうという事態に!
今まで詳細に詰めていた内容が白紙に戻ってしまい、さすがに太田さんも意気消沈してしまいます。
しかし、知人の紹介で素晴らしい出会いがあり、太田さんのプランは一気に現実味を帯びてきます。
それは、元々大工をされており、現在は木材を使ったアート作品を製作するアーティストとして活動している方との出会い。さらに、その方からの紹介で、家具職人さんや、配管などの専門家も含む太田さんのリノベーションのためのチームが生まれたのです。
そんな奇跡にも近いような偶然で集まった職人さんたちのために、当時レコード会社に勤めていた太田さんは、職人さんの好きな音楽を用意して現場で流したり、差し入れを持参したりして、「まるで友人宅で作業しているみたい」に快適な環境を提供していきます。
もちろん太田さんもタイルを貼ったりガラスブロックを積んだり、できる範囲で工事に参加しました。
職人さんも初めて体験するような、難しい要望もあったそうですが、そういった日々の良好な関係性が功を奏し、常に誠実に対応してくれました。
また、そのご縁はリノベーション後も途切れることなく続いており、数年後にリビングへの入り口となる引き戸やカップボードをオーダーメイドで製作してもらっています。太田さんの好みをしっかりと理解してくれているだけでなく、プロ目線でのアドバイスもしてくれるので、安心しておまかせすることができるそう。
そうしてさまざまな人の協力によって完成した家は、どこか人の手のぬくもりを感じる、あたたかな雰囲気のある空間になりました。
海外のリゾートを思わせるエッセンスが散りばめられた、ハイセンスなMIXスタイル
一歩リビングに足を踏み入れた途端、目の前の大きな窓からあふれる光が空間全体に広がります。
無垢の木材やガラス、石のタイルや漆喰の天井壁など上質な素材でシンプルに仕上がったLDKには、太田さんの審美眼によってセレクトされたフレンチシックなインテリアがバランスよく配置されています。
また、左官仕上げの白い漆喰の壁には、シチリアやモロッコのリゾート地を思わせるアール開口のニッチを設け、空間のほどよいアクセントになっています。
元々は本棚として、洋書などをディスプレイしていた場所でしたが、一度空っぽの状態を見てから、その清々しさに心惹かれ、それ以来はほとんどものを置かなくなったのだとか。
今では、料理教室に来る生徒さんたちの荷物を置いたり、一番下の棚をお子様のテーブル代わりに使ったり、特に用途を絞らず、フレキシブルに使用しています。
自然素材をふんだんに使ったこだわりのバスルーム
リゾート的な要素は水回りにも取り入れられています。
例えば、ハーフユニットバスを採用し、上部の壁一面にタイルを貼ったバスルームはバリのリゾートホテルをイメージして仕上げられています。
窓はないものの、壁の一部にガラスブロック使用することで、リビングからやさしく光がこぼれる気持ちのよい空間です。植物を置いたりキャンドルを灯してリラックスできるよう、湯船の横に大理石トップのカウンターを設けました。
壁のタイルはイタリアから取り寄せたもの。あまりアジアっぽさが誇張されないようにあえてヨーロッパのタイルを選びました。
狭く感じがちなサニタリースペースは、バスルームとの仕切りに透明なアクリル板を入れることで広がりを感じる工夫がされています。ガラスを使わなかったのは、家族の安全を配慮してのこと。見た目はほとんどガラスと変わりませんが、割れにくいという点で優れた素材です。
大理石のボウルは太田さん自身で探したもの。ミラーを縁取るシェルと石のタイルでできた床など、ここでも自然素材をふんだんに使用し、日常的なスペースでありながら、豊かな時間を感じられる空間となっています。
サニタリースペースの収納に使用されているのは、ジャワ島から取り寄せたオールドチーク。「無駄なスペースをなくしたかった」という太田さんの希望通り、壁一面に収納が設けられています。
さまざまな素材やテイストを掛け合わせ、どこかにありそうで、でもどこにもない空間に仕上げているのは太田さんのセンスのなせるワザ。また、素材の持つ色が白からブラウンへとつながる自然なグラデーションを生み、居心地のよい演出となっています。
日々の生活にこだわることこそ贅沢
‟こだわりの空間を創る”、‟本物の素材にこだわる”。
言葉だけ聞くと、少し敷居の高い印象ですが、言い換えれば
‟居心地のよい空間を創る工夫をする”、‟愛着の持てるものを真剣に探す”
ということではないかと思います。
家族がゆったりと和やかに過ごせる場所にしたい。人が集い、憩う場所にしたい。家をつくるとき、誰しもそう願うのではないでしょうか。
今回の取材で感じたのは、太田さんの家に対する真摯な姿勢でした。
こうした太田さんの姿勢が、人を呼び、また、ものを呼び寄せるのではないかと思います。
‟自分にとっての心地よさとは何か” それをしっかりと把握できているからこそ、訪れる人をあたたかく迎える、太田さんならではのスタイルが成り立っているのだと感じました。
次回はお料理教室も主催されている太田さん宅のキッチンについてご紹介したいと思います。
機能的で美しいキッチンを保つ秘訣など、真似したいポイントが満載です!
太田みおさん
料理研究家/ライフスタイルデザイナー
lifestyle atelier MAGNOLIA主宰。
Official Website:
M I O L I F E S T Y L E
instagram:
otamiojp