2020/05/12更新0like39580view

著者:水沼 均

庇(ひさし)とは?軒との違いや役割、現代住宅にも通じる魅力

この記事を書いた人

水沼 均さん

建築設計の学校で長年教師を務め、大勢の生徒さんと接してまいりました。年齢、経歴、そして住まいへの思いも大変多様で、他では得られない貴重な経験ができました。その経験を生かして、豊かな住まいづくりに役立つような記事をたくさん書いていきたいと思います。

庇というと伝統的な和風建築というイメージがありますが、実際には現代住宅でもポピュラーな、とても魅力的なパーツです。ここでは庇の役割と魅力について考えてみたいと思います。

▽ 目次 (クリックでスクロールします)

庇とはなに?どんな役割?

庇とは一般に、外壁の窓や出入り口などのすぐ上についている小さな屋根のことです。夏の熱い日差しを遮り、冬の暖かい日差しを採り入れてくれます。庇はまた開口部を雨から守ります。梅雨時などに窓を開け放しても、庇が頭上にあれば濡れません。

夏の暑さを遮って梅雨の雨から守ってくれる庇は、とても日本の気候風土にマッチしたありがたい存在と言えます。

庇と軒はどう違うの?

「軒(のき)」という言葉もありますが、庇とどう違うのでしょうか。庇が壁についている小さな屋根であるのに対して、一般に軒は、外壁よりも出っ張った屋根部分のことをいいます。役割は庇とよく似ていますが、庇が開口部を守るのに対して、軒は外壁全体を雨や日差しから守る存在と言えます。

下の写真は、伝統的な和風のたたずまいを持つ住まいです。屋根の軒が外壁よりもかなり出っ張って深く出ていることがわかります。

そしてさらに、テラス戸の上に庇も設けています。この結果、濡れ縁の頭上が守られて、ぐっと緊密な良いスケール感の半外部スペースができあがっています。
作田 耕一朗「井野元邸」

内と外の両方の魅力を備える庇

ではここから、庇の持つ魅力を考えてまいりましょう。

庇のいちばんの魅力は、上の写真のように、庇の下を外と内の中間的な魅力を持った場所にしてくれることです。この濡れ縁スペースは外部でもあり、同時に、外部に飛び出してきた内部でもあります。

このような魅力は和風住宅のみにかぎりません。下の写真のような洋風の住まいにもピタリと合っています。

それにしてもこの住まいはなんて魅力的なのでしょうか。どこかなつかしい、アンドリュー・ワイエスの絵画のようなたたずまいです。そして庇の下のスペースは、現代の街のオープン・カフェのような親しみやすさを持っていますね。
+ReMo(リモ)建築設計事務所「HOUSE-310-」
下の写真もまた同じタイプの庇を持った住まいですが、まるで映画の1シーンのような美しい住まいです!

大きく張り出た庇は、この住まいになくてはならない魅力を持っています。外観の美しさもさることながら、この庇の下に座って景色を眺めたら、さぞすてきだろうなと感じますよね。

モダンな中に懐かしさを作りだしてくれる庇

下の写真はグッとモダンな作例です。白いサイディングとシルバーのアルミサッシュでシャープな外観をしていますが、庇と濡れ縁があることで、親しみやすい日本的な住まいにもなっています。濡れ縁の作りや木の床も、どことなく懐かしい日本の生活風景を思い出します。

このようにモダンな「洋」のたたずまいの中に親しみやすい「和」を採り入れたいとき、庇は頼もしい味方になってくれるのです。
奥和田 健「蜂伏の平屋」
同様に下の写真も、とても魅力的な和洋混在の庇スペースです。上の例とは逆に、伝統的な和風の内部に洋風テラスが面しています。さらに庇は本格的な数寄屋造りという、大変に凝ったコーディネーションです。

庇の下の半外部スペースは用途上必要というよりは、住まいの魅力を求めて設けられる場所です。だから、この例のようにとことん遊び心に満ちた作りで良いのです!

ところでベルトイア・ワイヤーチェアと畳、驚くほどよく似合いますね!
林雅子「『宝塚の家』和室と洋室を組み合わせた楽しい住まいへ劇的リノベ」

庇を深く出しても部屋は暗くならないんです

ところで庇をあまり深く出してしまうと、室内が真っ暗になってしまうのではと心配になりませんか? 実際はどうなのでしょうか。

下の写真をごらんいただければ、まず心配ご無用であることがわかります。リビングからグッと突き出たこの庇は、おそらく3メートル近く出ているのではないかと思います。かなり深い庇ですよね。しかしご覧のように、窓の下まで日が当たっています。
今度は同じ庇を、下の写真で室内から見てみましょう。ご覧のように室内は決して暗さを感じさせません。

これはなぜなのでしょうか。一つには反射光のおかげだからです。庇の天井に当たった光が反射して床を照らし、その光が再び室内の天井を照らすんですね。

古来からの畳敷きの日本家屋では、畳が大変明るく光を反射しやすいので、庇が深く出ていても反射光で部屋の奥まで明るく照らし出してくれます。この例もまったく同じです。この住まいの床も畳敷きですものね。

いろんな工夫で楽しめる玄関の庇

庇がもっともよく設けられる場所は玄関と言えます。デザイン上庇をつけていない住まいでも、玄関だけは庇を設けるか、あるいは玄関ドアを外壁から奥まって設けています。出入りの際に傘を差したり畳んだりすることを考えると、頭上の保護は必須ですものね。

ではどうせ設けるならば、すてきに庇を作りたいですよね。下の写真では玄関ドアからエントランスポーチに向かって思い切り庇を伸ばして設けています。出入りする家族や来訪者にウエルカムな温かさを感じさせる、とてもヒューマンなデザインですね。
才本 清継「外断熱の家・自由が丘のコートハウス」
また下の写真では玄関ドアは外壁よりだいぶ奥まって設けてありますが、同時に庇も出して、外観のアクセントとしてすてきに活用しています。小窓が2つあるだけのシンプルな外観ですが、玄関をこのようにデザインすることで、住まいとしての奥行きあるたたずまいを演出しています。

庇の注意点

庇を設ける際の注意点としては、まず雨水をどうするかということがあります。玄関のように人の出入りが多い場所の庇には、やはり雨樋を設けるべきですが、雨樋の存在は意外に目立つんですね。そこで設計者とじっくり打ち合わせをして、造形的にもすっきりとした雨樋になるようにしましょう。

また、庇には積雪でかなりの重さがかかります。デザイン上庇は薄くシャープに見せたいところですが、雪の重みも考慮して、下から見えないところでしっかりと補強をしておく必要があります。
これらの例のように、庇は頭上を覆うすてきな半外部スペースを作りだしてくれます。また雨から人を守るだけでなく、住まいの表情をより豊かにする役割も担ってくれています。

実用性と同時に、ぜひ庇の持つ魅力にも着目して住まいを考えてみてください。

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