2022/04/08更新0like4164view

著者:熊井博子

そのこだわり、大丈夫?「住まいの賞味期限」にも目を向けよう

この記事を書いた人

熊井博子さん

ビルダー・建築設計事務所に営業/広報として勤務した後、住宅専門誌の編集を経て、住宅関連の執筆と一般の方の家づくりサポート等に従事。インテリアコーディネーター、照明コンサルタント。

一生に一度の家づくり、クルマや家具、家電と違ってそう何度も買い換えるものでもありません。となれば、力が入るのも当然ですが、こだわりによっては家が素敵でいられる時間をぎゅっと縮めてしまうこともあるものです。せっかくつくる家が、“誇れる我が家”であり続けるために、大きなスパンで家を捉えてみませんか。

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オシャレの賞味期限

2022年の春夏は、ビビッドカラーがトレンドだそう。ファッションモールやサイトを覗いてみると、確かにグリーンやイエロー、ピンクなど、鮮やかな服が目に留まります。スイーツなら、次にくるのはカッサータやヌマルパン。ついこの間までマリトッツォと言っていたのにもう次にシフトしているとは驚きです。考えてみれば、日本中に長蛇の列をつくらせたタピオカミルクティの大流行は2020年。わずか2年前のことですが、遠い昔のように思えてきます。

ファッションやグルメに限らず、音楽でも趣味でもライフスタイルでも、人の暮らしを彩るものにはたいていトレンドがあるものです。時が過ぎれば一様に “過去のもの”になっていきますが、それでも渦中にあるときはなぜだかそれが輝いて見え、「そうじゃないとカッコ悪い」とすら思うから不思議です。

では「家」は?まさか家にトレンドなどないだろうと思いきや、実は、あるのです。
例えば外観でも、20年前には石張りを模したアースカラーのサイディングが流行ったし、その後はウォームカラーのプロヴァンス風が注目を浴び、ガルバリウム鋼板の外壁材が出回るようになると一斉に鋼板張りの家が増えました。たとえ同じ人が建てたとしても、建てる時期によってはまるで違う家になることだってあるのです。

こうした家のトレンドは、技術の進歩や業界の動向を表す場合もありますが、なかには時勢のブームで流行るものも。SNSなどで一度火がつけば、こぞって皆が真似をするのはスイーツやファッションと同じです。ただ困るのは、ブームはあくまでブームであって、時が過ぎれば「古い」「ダサい」と評価が真逆になりかねないところ。スイーツやファッションのように消費したり買い換えたりして次へと移っていけるならいいですが、家となればそういうわけにはいきません。建てたらずっと、なのですから。

ところがブームに振り回される施主は少なくなくて、ブームと気づかず「オシャレ!」と飛びつき後悔する話はよく耳にします。新築の家を訪ねると、「インスタで見て」「ピンタレストで見つけて一目惚れ」と“施主のこだわり”を紹介されることもしばしばですが、内心、大丈夫かなと心配になります。本気で惹かれたならいいですが、単にブームにつられたのだとしたら、せっかくたくさんお金を払って夢いっぱいで家をつくったのに、あとで誰かに「昔流行ったよね」と言われるのでは悲しすぎます。

SNSを見漁る人ほど陥りやすいこの傾向、スマホ片手にオシャレ探しに夢中になっているなら本気で気をつけたほうがいいかもしれません。

家族も時代も、変わっていく

変わるのは、世のトレンドだけではありません。年月とともに、その家に暮らす家族の年齢も、構成も、ライフスタイルも、そして自分自身も変わっていきます。

30代半ばで家をつくった、ある施主の事例から。
ご夫妻は、小学2年生と年長さんのふたりの女の子がいる4人家族。奥さまはふんわりやわらかな雰囲気の方で、可愛らしいテイストが好みと言います。子どもたちもいつもかわいい服を着て打ち合わせについてきてはお母さんの後ろに隠れていました。ご夫妻はつくる家にも愛らしさを求めていましたが、「今の好みを反映しすぎるのはどうか」というこちらのアドバイスを受け、シンプルをベースにして、一部の照明器具や建具にだけ少し甘いニュアンスを含んだ家をつくりました。

それから5、6年後。ご自宅に伺うと、上の子は運動部に所属する中学生に、シャイで控えめだった下の子はハキハキ話す快活な少女になっていました。「すっかり反抗期で」と奥さま。「私の選ぶ服は全然着ないし、言うことも聞いてくれない」と笑い、「私もカワイイ系は選ばなくなった」と言います。確かに奥さまも以前よりさっぱりとした印象。あれだけふんわり可愛い世界観をまとっていたのに、大きな変化に驚きます。

聞けば、子どもたちが活発になるにつれ可愛い服を嫌がるようになり、次第に自分も興味を持たなくなったのだとか。「今はシンプルが好き。どうして家に甘いニュアンスを刻んでしまったんだろうってちょっと後悔しているぐらい。もっと強く止めてくれたらよかったのに」。そう聞いて、「やっぱり」と思うと同時に「もっと強く訴えたらよかった」とこちらも反省。
そう。人の趣味や好みは変わるのです。

わずか5、6年でも、小2の子は中学生に、年長さんは高学年に。家のなかに小さな子どもはいなくなり、ご夫妻だって40代になっています。どんな人も“ずっと同じ”ではいられないのだとすれば、家に趣味やスタイルを刻み込むのはよほど注意した方がいいと言えそうです。

欲しいのは、変化に耐えられる家

家は、一度建つと何十年とそこにあり続けます。その間、時代の流行りやトレンドも、家族の趣味や思考もどんどん変わり、さらには住み替えや相続などで住む人だって変わるとすれば、家はできるだけキャパシティが広いほうがいいと言えます。「今どきの家」「自分らしい家」と合う時代や人を限定しすぎると、後々「住みたい」と思う人がいなくなることだってあり得ます。

こだわることは決して悪いことではありませんが、ベクトルが「今」と「自分」に向き過ぎるのは考えもの。あえてベクトルを向けるなら、「変化」と「余白」に向けてみるのもひとつです。変わることを見据えてつくられた家は、時代や家族の変化にたじろぐことなくその時々のトレンドも趣味も好みも受け止めてくれるはずです。

もし、「今」と「自分」に意識が向きすぎていると感じるなら、できたばかりの家だけでなく、10年、20年、30年と年月を経た家にも目を向けてみてはいかがでしょう。時代を感じる家とそうでない家、古びて見える家とそうでない家、個性の強い家とそうでない家。どうだといいということではなく、流れた年月を想像しながら色々な家を見てみると、新たな視点を築けるかもしれません。

家は、ある意味「器」です。そこでの暮らしがいつも素敵に映えるように、懐深くありたいものです。
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ビルダー・建築設計事務所に営業/広報として勤務した後、住宅専門誌の編集を経て、住宅関連の執筆と一般の方の家づくりサポート等に従事。インテリアコーディネーター、照明コンサルタント。

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