2021/04/23更新0like1513view

著者:tennto1010

住宅の脱炭素化は健康なおうち時間とつながっている

地球の未来を考えたとき、地球温暖化に配慮した家づくりはいわば「義務」として考えるべき課題。国の温暖化対策においても、住宅業界の具体的な行動変化につなげるための施策が講じられていますが、未だ我々消費者が「自分ごと」として捉えきれていないのでは?その理由を探りながら、地球環境の観点から求められる住まいづくりに、いかに主体的に関わっていけるのか考えてみましょう。

▽ 目次 (クリックでスクロールします)

2050年までに脱炭素社会の実現へ

2020年10月、菅総理大臣は2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち、カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを宣言。世界から大きく遅れをとっていた日本の脱炭素社会実現への取り組みを大きく前進させる発言として注目されました(※1)。

さらに、2021年4月22日の気候変動サミットにおいて、2030年に向けた温暖化ガスの排出削減目標を13年度比で46%減とすることを表明しました。

こうした中、小泉環境相も国民が身近に捉えられる脱炭素社会の政策の1つとして、「住宅の脱炭素化」を挙げ、住宅業界の働きなくして目標達成はできないものとして、住宅分野での取り組みや暮らしの改革の重要性にふれています。

※1 2021年4月15日、2050年までの脱炭素社会の実現を基本理念に明記した「地球温暖化対策推進法改正案」が衆院本会議で審議入り。

アルティザン建築工房「リノベーションでLCCM住宅相当に性能向上」

住宅の脱炭素化のためにできること

脱炭素化に向け、住宅分野で私たちができる積極的な選択としては、
①住宅の高断熱・気密化 ②住宅のZEH化 ③省エネ家電への買い替え などがあげられます。
SUR都市建築事務所「雑司が谷ZEH/ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス」
①の高断熱・気密化、つまり外部環境の影響を受けにくい断熱・気密性の高い外皮性能を建物にもたせることは、②ZEH化や③省エネ家電への買い替えの大前提となる項目です。
新築やリフォームでは必ず検討される断熱・気密工事ですが、現状では、それらの性能についての具体的な根拠を説明されたうえで工事に及んでいるケースばかりとは言えません(※2)。
断熱性能の具体的な指標や根拠になる日本の省エネ基準を知っておかないと、実のない「高断熱の家」というキャッチフレーズでごまかされてしまう危険性もあるのです。

※2 2021年4月から、建築士は住宅を新築する施主に対し、省エネ性能の適否について書面での説明が義務づけられています。

そのうえ、この日本の省エネ基準自体にも問題がないわけではありません。

欧米レベルにはほど遠い⁉︎日本の省エネ基準

脱炭素化への取り組みが遅れている日本。住宅の省エネ性能でも欧米に比べて大きな遅れをとっています。現行の住宅省エネ基準(H28基準)でさえ、実際には、先進国中の最低水準の基準レベルをクリアしているに過ぎません。

例えば暖房負荷で比較すると、最高水準と言われるドイツの民間基準「パッシブハウス基準」の住宅と日本の省エネ基準(H28基準)を満たした家とでは、日本の家の方がなんと6倍以上の暖房エネルギーを必要とする結果が出ています。

さらに時代に逆行するかのように、2020年に予定されていた省エネ基準への適合義務化の見送りが決定。その理由の一つに、「省エネ基準などに未習熟な事業者がまだ多いから」という残念な実態が指摘されています。現状、こうした事業者に住まいづくりを任せざるを得ない消費者は、ますます高水準の省エネ住宅づくりから置き去りにされてしまうのです。

居住者の健康という観点から、省エネ住宅を考える

住宅の高い省エネ水準を達成している欧米では、住宅性能(断熱性能)を、室内環境の快適性や居住者の健康という観点から検証してきました。これに対し、日本の省エネ基準ではこれまで、健康への影響や居住性という視点を持たなかったことが指摘されています。
欧米の大半の国では、「最低室温規定」が定められており、十分な断熱性能を満たした住居を持ち、快適な室温環境が守られることは国民の最低限度の権利とされています。

また、WHO(世界保健機構)は「住まいと健康に関するガイドライン」で、寒さによる健康影響から居住者を守るための室内温度として、18℃以上を強く勧告しています。
高断熱の家をつくり室温差をなくすことで、ヒートショックなどの重大な死亡事故の軽減はもちろん、室温を2℃あげることで健康寿命を4年も伸ばすという研究結果もあります(※3)。冷え性や皮膚炎、気管支喘息などのアレルギー疾患の改善、熱中症予防や身体活動の活性化など、家の寒暖差をなくすことは健康寿命に関わる大きなメリットです。

※3 出典「住宅内温熱環境と居住者の介護予防に関するイベントヒストリー分析- 冬季の住宅内温熱環境が要介護状態に及ぼす影響の実態調査」
林侑江, 伊香賀俊治, 星旦二, 安藤真太朗(日本建築学会環境系論文集 第729号)
林 謙太郎「阿佐ヶ谷ライト・エコハウス」
自分のための快適性・健康のための権利=高断熱の家=省エネ住宅=温暖化対策

このように、消費者が置き去りにされることなく、省エネ住宅推進の火急性と重要性とが、「自分ごと」とともに結びついていること。ここに、温暖化対策を自分ごととして捉えられるかどうかのヒントがあるように思います。

先を見据えた基準 - 「HEAT20」に期待

日本でも民間レベルで、室内温熱環境と健康の観点を加えた省エネ住宅基準を示す動きがみられます。

2009年に有識者を中心に発足したHEAT20「2020年を見据えた住宅の高断熱化技術開発委員会」が設けた基準で、これからの日本住宅が目指す水準として意識されるようになってきました。HEAT20では、省エネと室内環境の質の向上とを一体に考えた高い断熱水準を示して、温度ムラのない快適な居住環境の実現を提唱しています。
注)
【UA値(外皮平均熱貫流率)】
住宅の内部から床、外壁、天井(屋根)や開口部などの面を貫通して、外部へ逃げる熱量を外皮面積で割った値。 値が小さいほど熱が逃げにくく、省エネルギー性能が高い。

【地域区分の例】
区分1-北海道旭川市、区分4-福島県福島市、区分6-東京23区
これまでのような実感しにくい省エネ基準と比較して、体感温度や居住者の健康維持のためという身近な指標を根拠とした基準には強い説得力があります。消費者が省エネ住宅の重要性を自分ごととして捉えるためにも、ぜひ知っておきたい基準といえるのではないでしょうか。

参考資料:HEAT20の家 - 手に入れよう豊かなくらし(HEAT20作成パンフレット)

おうち時間が増えた今だからこそ、アクションにつなげたい

おうち時間が増えた今、住まいの快適性を高めることが個人レベルでの課題になっている方も多いことと思います。「寒い書斎では仕事がしたくないなあ。」「光熱費ってこんなに高かったんだ!」など、気になることが増えているはず。

自分の課題を解決するための家づくり=省エネ住宅=温暖化対策

このように、自分のための選択が温暖化抑制と結びついていること、つまり“自分ごと”として地球環境を意識できる今は、日本の住まいづくりが温暖化抑制に向けて大きく舵を切る絶好のタイミングと言えるのではないでしょうか。
私たち一人一人の選択が、自分のためになると同時に地球のためにもなる。家の快適性が大事な今、何から始められるのか、まずは少しずつ知っていくことからはじめてみませんか。
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