SUVACOで成約

2021/06/24更新1like1939view

著者:SUVACO編集部

専門家フィーチャー

銅版画家の戸建てリノベ。既存の古い木に、新しい同じ素材を添えていくことで生まれた空間のリズム(建築家・井上久実さんに聞く)

今回は建築家の井上久実さんが手がけた、銅版画家さんのリノベーション実例を紹介します。ご高齢の施主さんがSUVACOのアドバイザーにご相談したことから、井上さんとの出会いが生まれました。築50年の戸建てがどのように変わったのか、詳しくお聞きしました。

▽ 目次 (クリックでスクロールします)

【DATA】
種別:戸建てリノベーション
所在地:奈良県奈良市
敷地面積:400㎡
敷地の特徴:傾斜地
延床面積:100㎡
改修規模:部分リノベーション (アトリエと離れのRC部のリノベ)
階数:2階建て
築年数:50年
期間:設計3ヶ月 、施工3ヶ月
完成時期:2021年04月
建築家・井上久実さん

建築家・井上久実さん

リノベーション相談のきっかけ

編集部 松本

編集部 松本

(聞き手)SUVACO編集長・松本:
最初のきっかけはSUVACOにご連絡くださった施主様を、井上さんにご紹介させていただいたところからでしたよね。施主様とのやり取りはどんな感じで始まっていったんですか?
井上さん

井上さん

建築家・井上久実さん:
ご高齢の施主様ということもあり、初対面のときは警戒心も強く持たれている印象でしたね。だけど、それと同時にネット等で私のこれまでの作品もしっかり見てくださっていたので、話の出だし自体は良かったように思います。

私とお会いする前にもご自身で何社かのハウスメーカーとやり取りされていたんです。でも、家づくりがなかなか上手く進まない状況の中でSUVACOさんに連絡して、そこで紹介されたのが私だったというわけです。

施主様は銅版画家として活動されていらっしゃる方で、海外のビエンナーレへの応募を考えておりその制作の関係もあって、できるだけ早くアトリエをつくってほしいとのご希望でした。

ご年配の女性が1人でリノベーションを決断するって大変なことだし、やっぱり安い金額ではないので、信頼を得ることはすごく大切です。だから私のことをしっかりわかっていただくため、こまめに連絡するなど密にコミュニケーションを取りました。

プラン提案〜キーファーのアトリエをイメージしながら〜

編集部 松本

編集部 松本

プランニングの提案段階で、気を配ったことなどはありましたか?
井上さん

井上さん

まずは、普段の仕事と同じ形で提案しました。ただ、提案までのスピードはいつも以上。なるべく急ぎたいとの要望があったので、お会いした1週間後には、初回のプランをお見せしました。

これまで相談したハウスメーカーでは「ただ綺麗にするリノベーション」のプランしか出てこなかったらしく、この時提案したプランや進め方を見て、とても驚いてくださったのが印象的でしたね。
井上さん

井上さん

施主様から「アンゼルム・キーファーのアトリエが好き」という話も聞いていたので、それをイメージしながらプランニングしました。

アンゼルム・キーファーのアトリエは無機質な、あまり飾りの無い力強いイメージ。本当はもう少し踏み込んだ素材にしたい気持ちもあったんですけど、住むことを考えると、コンクリートの床だと膝や腰がしんどいだろうなということで、木を選択するなどしています。

出典:ARTBOOK EUREKA

編集部 松本

編集部 松本

最初に提案したプランをベースに最後まで進んでいった感じですか?
井上さん

井上さん

いえ、かなり変更が入りました(笑)。最初の提案時点では見えていなかった天井の中などが見えてきた時点で、「これちょっといいな」と思ったアイデアはどんどん追加・変更していきました。

施主様もそういった変更については積極的に対応してくださいましたね。感覚的なことへの理解は早かったです。変更内容によっては追加料金が発生することもあったんですけど、しっかり説明すれば了承してくださいました。

だから、やっぱり正直に、真摯に対応するってことが重要なんですよね。お金が掛かったとしても、これだけの金額でこういうことができるようになりますっていうのを、わからない部分が無いようにちゃんと説明すれば納得していただける。

増築部分のリノベーションは後でゆっくり考えて行う予定だったのですが、こういった話の中から「じゃあ増築部分のリノベーションも一緒にお願いします」とおっしゃっていただけて、実現したんですよ。
編集部 松本

編集部 松本

少し奥まった部分にある背の高いところが増築部分ですね。
井上さん

井上さん

そうです。今回担当していただいた工務店さんはいつも私がお願いしている工務店のひとつで、職人さんの腕がすごく良いんです。施主様もすごく気に入ってくださって、職人さんと多くコミュニケーションがとれていたことも良い結果を生んだのではないかなと思います。

既存の素材に、同じ素材を新たに添えていく

編集部 松本

編集部 松本

今回リノベーションのメインとなったのは既存の木造部分ですが、特に難しかった点などはありましたか?
井上さん

井上さん

耐震について気にされていたんですが、耐震性能は全体に手を入れないと変わらないもので、今回は部分的なリノベーションだからアップしないんですよね。だからその説明には時間を割きました。

あとは、古民家では無いので既存の建物に使われている木も特別良いものではない、普通の木なんです。だからその普通の木に対して、いかに補強していくかは考えましたね。

こういうことって、ある程度ルールを決めないと、「綺麗にできました」というだけのリノベーションになってしまうので、自分なりに規則を作って進めました。古くなったものを交換するだけのリノベーションは、建築的にもちょっと良くないですから。

具体的にいうと、既存の古い木に対して同じ素材の木を添えていく方法を取っています。表の仕上げなどについても、新素材を投入するのではなく、あくまで既存のものに使われているのと同じ素材で、新しいものを追加していくようにしました。

たとえば、間取りや天井の高さを保ちつつ部屋の補強を図るため、既存の梁を残したその真下に同じ素材の新しい木を添えています。
井上さん

井上さん

この補強を行なったことで結果的にうまく空間を4つに分けることができ、浮かび上がってきた4つの空間に作業工程を当てはめていくような形で間取りを考えました。

ちなみに、天井には古い杉皮の板が使われていたんですが、写真奥の三角形の部分には新しい杉皮も追加で使っています。同じ素材の新しいものと古いものでパッチワークをするようにつくっていくことで、同じ材料でありながらも違う表現ができて面白いかなと思いまして。
編集部 松本

編集部 松本

間取りは、既存から大きく変更されたんですか?
井上さん

井上さん

これまでは普通の家の、部屋がたくさんあるような間取りの中で銅板作品を作っていたそうなのですが、大きな作品を作るときはやはり遠目で見られなかったり、天井を抜かないと大きな作品が上につかえてしまうような状況だったりと不便が多かったようです。
編集部 松本

編集部 松本

リノベーション前の写真を拝見すると、特に制作向きの間取りというわけでもなかったようで、これまでとても苦労して作品を制作されていたんだなと感じました。
ビフォーの写真

ビフォーの写真

井上さん

井上さん

ですので、部屋の間仕切りを取りはらい、残さないといけない柱や壁は残しつつ、天井を高くとって大きな空間を作りました。

一見ワンルームに見えるんですが、柱を中心に4分割の空間になっています。壁が無いながらも4つの緩やかな空間が存在していて、作品を作る際は各空間を制作工程ごとに分けて使用できる作りです。また、大きな作品を遠目で見たいときなどは、いくつかの空間を合体させて、ちょっと引いた目で作品を見られる間取りにしました。
編集部 松本

編集部 松本

柱を残したことで緩やかに複数の空間を保てていますよね。
井上さん

井上さん

あの柱を取ることも可能だったんですが、こういった形で使用できるなら、残すことに意味があるかなと考えました。

あと、やっぱりちょっとしたゴチャゴチャ感はそのまま残せるように、アトリエなのであまり綺麗になりすぎない空間ということも意識しましたね。
編集部 松本

編集部 松本

作品を作る工程ごとにうまく空間を使い分けられるよう、さまざまなことが考えられた配置になっているんですね。
井上さん

井上さん

当初は私も銅板作品に関してそれほど詳しくなかったんですが、話を聞いていくと例えば銅板を彫る場所が必要だったり、銅を流すために大きな流しが必要だったりと、工程ごとにそれぞれ必要なもの、設備があるんですよね。
井上さん

井上さん

この写真の右に写っている白い壁は、全部ベニア素材です。

当初はもっと荒い雰囲気を出すためにベニア板もそのままの色で使おうと思っていたのですが、そのままの色だと感覚的に作品づくりに支障があるとのことだったので、白で薄く塗りました。左側に写っているのは施主様の作品なんですが、大きな作品も梁の上に掛けられるようにしてあります。
井上さん

井上さん

外の縁側みたいなところも、銅板を腐食させる際の作業に必要なスペースなんですよ。

お庭には大きな物置が置かれているのですが、それがそのまま見えてしまうのは見た目にも良くないので、物置と縁側の間、写真でいうと左側部分に塀を作りました。大和塀にして、隣家からの視線を遮り、風を通しています。

別棟の増築と位置を変えた玄関

編集部 松本

編集部 松本

増築部分には、完全に新しいもので作った空間もあるんですね。
井上さん

井上さん

こちらは天井を剥がしたほか、2階からの見晴らしがとても良かったので、急で危険だった階段を取り替えて遠くまで見渡せるようにしました。

ここはもともと、畳張りの和室だったんです。リノベーション前はかなり荒れた状態でしたが、少し勾配をつけた天井を作るなど、工夫を重ねたことでコンパクトながらも良い感じに仕上げられたのではないかと思っています。
井上さん

井上さん

玄関も新たな場所に設けました。石垣の向こう側に本来の玄関があったんですが、道路側から傾斜のある石段を登らないといけなくて、これは毎日大変だなと感じました。
井上さん

井上さん

雨の日は滑りやすく特に危険なのでどうにかならないかと考えていたところ、敷地内に一部道路とあまり高低差が無い部分があったので、そこを新たな玄関にしませんかと提案したんです。

将来もし車椅子を使うようなことがあっても困らないよう、スロープも作りました。

「 今、いちばん充実した年代の女性建築家につくっていただいたことが幸せ」

編集部 松本

編集部 松本

出来上がった家に住まわれた、お施主様の感想はいかがでしたか。
井上さん

井上さん

「本当に気に入っている」と言っていただけました。うれしかったのが、「 今、いちばん充実している年代の女性建築家につくっていただいたことが、私の幸せです」って話してくれたこと。

私は今50代なかばですが、この世代の建築家って一番旬なんです。ある程度知識もあるし、でもまだまだやりたいこともある。だからそういう風に言っていただけたことは、とてもうれしかったですね。

建築家によって、やり方も手がける案件も全然違うとは思うんですが、私自身は、施主様と一緒に作っていく意識を持ちたいと思っています。「私たちは素人なのでわかりません」とおっしゃる方もいますけど、難しい部分は私が考えますが、やっぱり自分が住む家で何をしたいか、どう暮らしたいかは住む人も一緒に考えた方が良い。それを楽しんでいただければ、それがいちばん良いですよね。
対応業務 注文住宅、リノベーション (戸建、マンション、部分)
所在地 大阪府大阪市東住吉区
主な対応エリア 京都府 / 大阪府 / 兵庫県 / 奈良県 / 三重県 / 滋賀県 / 和歌山県
目安の金額

30坪 新築一戸建て2,400〜4,500万円

60平米 フルリノベ60,000万円〜



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