2019/08/01更新0like5878view

著者:SUVACO編集部

専門家フィーチャー

“猫のために”が思わぬ危険を生むことがある 〜本当に安心・安全な「猫リノベ」のヒント #2

大切な家族でもある猫と楽しく暮らすために、本当に大切なのはどんなこと???

猫と幸せに暮らすための『猫リノベ』を行う前に知っておきたいこと、
気をつけたいことを専門家の皆さんに聞き、
「本当にしあわせな猫リノベ」のヒントを見つけたい。

そんな思いでスタートした、SUVACOの猫リノベーション連載。
今回は、猫リノベーションを手がける建築家・津野恵美子さん編の後半をお届けします。

「猫のために」と作ったはずの家で危険な目に遭わせないために気をつけるべきこと、
ともに暮らすうえで大切にしていることなど、津野さんが猫リノベに込めた思いを聞きました。

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▽ 目次 (クリックでスクロールします)

建築家・津野恵美子(つのえみこ)さん。自らが代表をつとめる津野建築設計室での建築設計監理およびインテリアデザイン・コーディネートの傍ら、東京工芸大学非常勤講師としても活躍している。

建築家・津野恵美子(つのえみこ)さん。自らが代表をつとめる津野建築設計室での建築設計監理およびインテリアデザイン・コーディネートの傍ら、東京工芸大学非常勤講師としても活躍している。

「行動範囲に制限を設けつつも、その中に回遊性をちゃんとつくってあげることが必要。」

編集部:
猫と一緒に暮らすうえで心配なことと言えば、脱走問題もありますよね。

津野さん:
脱走、心配ですよね。脱走ルートになりがちな玄関以外にも、施主さんによっては「ここには猫を入れたくない」「近づけたくない」という場所がある方もいらっしゃると思うので、猫の動きは間取りとドアの配置でコントロールします。

こちらのおうちは3匹の猫が暮らしているのですが、そのうちの1匹がどうしても他の猫と相性の悪い子でした。うちの猫も他の猫が苦手なところがあるので分かるのですが、そんな状態のまま無理に同じ空間で暮らしていると、その猫自身も他の2匹もストレスを抱えてしまう。

だから、このおうちは2階と1階でエリア分けできるつくりにしました。日中は外で働いているので、おうちの中が猫だけになる時間帯もあります。そんな時は、1階のドアを閉めておけば、猫たちは2階には行けなくなる。2階も同じく、このドアが閉まっている時は、階段を降りても1階には入れません。

それぞれの行動範囲をフロアで分けたのは、猫にとっての回遊性を広く設定したかったから。生活範囲は分けなくちゃいけないけれど、狭い空間に閉じ込められるのは猫にとって大きなストレスです。行動範囲に制限を設けつつも、その中に回遊性をちゃんとつくってあげることが必要なのかなと思います。

編集部:
人間の都合を担保したうえで、いかにストレスなく過ごせるかを考えているんですね。
津野さん:
このおうちでは、1階部分に設置したキャットウォークが、隔離エリア内の回遊性をつくっています。部屋をぐるっと1周できるキャットウォークは、猫同士の喧嘩で追い詰められた時パニックになって飛び降りたりしないよう、登り降りできる場所を造作のキャットウォークだけで3ルートつくりました。市販のキャットウォークなどを壁沿いに置けば、さらにルートを増やすことも可能です。

「危険回避のために大切なのは、猫が行動可能な範囲を把握することと施主さんへのヒアリング。」

編集部:
縦移動の重要性と安全性を保つ工夫はぜひお聞きしたいと思っていました。縦移動できる場所は健康のためにも必要ですが、高さのある場所には多少なり危険もあるので、そのバランスをどうやってとっていけばいいのか、気になっている方も多いと思うんです。

津野さん:
ひとつは猫の行動可能な範囲を把握することですね。単純に危ない場所の近くには、足場を作らない。例えばエアコンの排気口をチョイチョイされても困るし、テレビも倒れたりしたら危ないじゃないですか。だから、絶対に手を出してもらっては困る場所については、立ち上がっても手が届かない高さに設定しています。

ここは施主さんへのヒアリングが重要ですね。さすがにこの高さならジャンプしても届かないだろうと思って提案したところ、「うちの猫はこれくらいの高さなら行けちゃいます」ってこともあったので、ここも個体差だなと思います。うちの猫はキッチンカウンターの高さである85センチ以上の場所へは基本的に踏み台がないと上がらないのですが、雄猫だと120センチくらいまでなら簡単に登れてしまう子や、すごい子になると冷蔵庫の上まで登れちゃうような子もいるので、その辺りは猫のクセなども含めて施主さんに詳しく聞くようにしています。
編集部:
個々に合わせたサイズの設定を行うことで、危険を事前に回避しやすくなるわけですね。そういえばキャットウォークの通路部分でも、きちんとUターンできるだけの幅を取られていましたね。

津野さん:
猫って後ろ歩きは基本的にできないので、Uターンできるだけの幅はちゃんと取るようにしていますね。こちらのおうちのキャットウォークは25センチ幅なので、穏やかな状態の時なら猫2匹がすれ違うには十分なはず。大暴れしている時なんかは、ちょっと厳しいかもしれませんけどね(笑)。

25センチというサイズはいろいろな資料で研究したり、実際に猫の体側を測ったりして出した数字です。1匹で暮らしているおうちの猫なら18センチでも十分なんですけど、複数の猫が暮らすおうちならすれ違うこともあるかもしれないので、今回は25センチ幅を採用しました。

「猫のために」と作った家具が、猫にとっての危険にならないために

編集部:
階段や吹き抜けに設置されているキャットウォーク・壁付けステップもよく目にするのですが、私の昔一緒に暮らしていた猫が少し高さのあるところから落ちて大ケガを負ってしまったことがあったので、いつも心配になるんです。「猫なら高いところから落ちても大丈夫」と思っている方も多いですが、実は全然そんなことないんですよね。

津野さん:
たしかに、吹き抜けへの設置は私もおすすめしないですね。老猫じゃなくても足を踏み外しちゃうことはあるし、落ちた場所が階段など段差がある場所だと、うまく着地できないこともある。あとけが以外でも、猫にとって嫌なことをしなくちゃいけない時に人間の手が届かない逃げ場を作っちゃうって、結構危険だなと思うんですよ。お風呂や病院や爪切りなんかの時に追いつめられるようなことになると、ただでさえ嫌なものにより恐怖を感じるようになってしまう。「椅子を持って来れば手が届く」というくらいならまだいいかもしれませんけど、下が平らじゃないところや人間の手が届かない場所へのキャットウォークの設置は、あまり賛成できないです。

編集部:
でもやっぱり高いところに登りたがるし、そこで眠っちゃったりすることも……。

津野さん:
そうなんですよね、幅は広い方が安心だろうと足場に余裕を持たせすぎちゃうと、今度はそこで寝てしまったりするので、その加減が難しい。これもすべてコントロールするのは難しいですが、例えば歩いてほしいところやあまり留まって欲しくないところはちょっと幅を狭くして、休憩できる場所として使って欲しいなと思うところは広くして、居心地の良いスペースを作るように心がけています。でも猫は気まぐれですからね。どこまでコントロールできるかは実際に猫に暮らしてもらわないとわからないんですけどね(笑)。ちなみにここのおうちの場合は、複数あるステップのうち、窓辺の板だけ少し大きくつくっています。
編集部:
猫は窓辺も大好きですよね。室内飼いであっても定期的に光や風にはあててあげたいし、外の風景も見せてあげたい。ただ、網戸なんかはヒョイっと開けちゃう猫もいるんですよね。

津野さん:
網戸は怖いですよね、ちょっと器用な子だと簡単に開けちゃいますし。マンションの場合、外観に関わるようなリノベーションは難しいけど、網戸の手前に嵌め込むような格子戸を造作で付けるなどの対策はできるのかなと思います。あとは網戸のネットを猫用の、少し強度のあるものに変更するとか。

あと、猫にとっても人間にとっても光が入るおうちにすることってすごく大事だと思うので、こちらのおうちでは縦型ブラインドを採用しました。縦型ブラインドには光を通すこと以外にも利点があって、例えば普通のカーテンだと下の方に猫の毛がついてしまったりしやすいのが、これだとスリッとやってもそんなに毛がつかない。

ブラインドって下の部分が紐でつながっているものが多いんですけど、これをつなげずバラバラにしておくことで、猫が絡まったりもしないんです。ブラインドの下部分は発注段階で「下を外してください」とお願いすれば、特別な料金などもかからずバラバラにできるんですよ。
編集部:
津野さんが手がける猫リノベの中心には、「猫と人間がお互い気持ちよく共存できる家」という考えがありますよね。

津野さん:
逆説的かもしれませんが、やっぱり"猫ファースト”だけではダメなんですよね。人間の手が届かない吹き抜けにあるキャットウォークは、猫は楽しいかもしれないけど、万が一の時助けに行けないと人間がつらい。

無垢材の床も素敵だけど、猫が床で爪とぎをしたり粗相をしてしまったりした時に人間がイライラしちゃうくらいなら、やっぱり吸水率の高い無垢材よりも目地のない床の方が良い。自然素材は猫の体に優しいけれど、そこにこだわりすぎてストレスを溜めてしまうよりは、そのおうちに住む猫と人のタイプや場所に合わせて柔軟に考えた方が、お互いハッピーに暮らせるんじゃないかなと思います。

もちろん実際に猫が使い始めると「あぁちょっと違ったな」ということもあるんですよ。でも動物相手だから、完成前に予想できなかったような事態は絶対に出てきます。だからこそ、予防できるところは予防しつつ、違うなと思った時には対応できるおうちにしておきたい。

人間のライフスタイルだって時が経てば変わることもあるわけだから、どんな状況になっても変更がきくように少し余白を残しておくことが大切なのかもしれませんね。

編集部:
カスタマイズしつつ、自分たちにとってちょうど良い家に育てていけるようなイメージですね。

津野さん:
そうですね、リノベーションの醍醐味ってまさにそこだと思うので。変わっていく環境に都度適応しつつ、でも基本は人間が住みやすい家を考えていくことが、案外猫の幸せにもつながっているんじゃないかなと思います。
対応業務 注文住宅、リノベーション (戸建、マンション、部分)
所在地 東京都世田谷区
主な対応エリア 埼玉県 / 千葉県 / 東京都 / 神奈川県
目安の金額

30坪 新築一戸建て3,600万円〜

60平米 フルリノベ1,200万円〜



▼前編
人間がラクに暮らせることが、結果として猫のためになる 〜本当に安心・安全な「猫リノベ」のヒント #1

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