2024/08/19更新0like2334view

著者:SUVACO編集部

専門家フィーチャー

敷地全体を有効活用。レイヤーに包まれた静かな住まい(建築家・直井 克敏さんに聞きました)

静かな環境を求めたご家族のために建築家が考えたのは、高低差を活かした立体的な構成と、開放的な室内空間が圧巻の住まい。住宅地に佇む端正なコンクリート打ち放しの外観がひと際目をひくお宅に、SUVACO編集部がお伺いしました。

そこで設計を手がけた建築家の直井さんに、この家の魅力やプランニングでの工夫や日頃、設計で心がけていることなどをお聞きしました。

▽ 目次 (クリックでスクロールします)

お話をうかがった専門家

NAOI|直井建築設計事務所 直井克敏さん

NAOI|直井建築設計事務所 直井克敏さん

建築家

普遍的でシンプルな建築をテーマに、住宅設計からホテルや店舗デザインまで幅広く手がける設計事務所をご夫婦で主宰しています。
ご紹介する住宅の施主は、ハウスメーカーとの家づくりに迷走するなかで、理想の家づくりを求めて、SUVACOの専門家検索から直井さんにたどりつきます。SUVACOから直接お問い合わせをしてアポイントを取り、そこから家づくりを再スタートさせました。

手がけた住宅事例DATA
・家族構成:夫婦(夫40代・妻30代)・長女4才
・施工内容:注文住宅
・延床面積:148.95㎡ 
・間取り:3LDK
・構造:RC造+木造+S造
・設計/監理:直井建築設計事務所

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敷地の特性をデザインに活かす

ー ベストなプランのために、中途半端な擁壁は撤去

直井さん

直井さん

設計の依頼を受けた土地は、傾斜地を造成した変形の45坪ほどの分譲地で、敷地の奥2/3ほどが道路面から高くなって擁壁がつくられていました。擁壁の位置が中途半端で、そのままだとお客さまが要望した2台分の駐車スペースや居住空間を十分にとることができませんでした。そこで、思い切って既存の擁壁は取ってしまうことにしました。
敷地の奥に擁壁がつくられたもとの分譲地の様子

敷地の奥に擁壁がつくられたもとの分譲地の様子

ー 土地を立体的に有効活用

直井さん

直井さん

道路に接した土地の低い部分を車2台分まで広くとり、残りの高い部分を奥に寄せるかたちで擁壁をつくりなおし、この擁壁が基礎も兼ねる構造にしました。

1階をRC造とし、駐車場部分には鉄骨柱を設けることで上階が外へ張り出した状態とするオーバーハングにすることで、その下に駐車スペースを確保し、敷地全体を立体的に有効活用することが可能になりました。
車2台分の駐車スペースを確保 

車2台分の駐車スペースを確保 

ー 擁壁もドラマチックな外観の一部に

直井さん

直井さん

擁壁=基礎は駐車場の壁も兼ねるため、杉板型枠を使用してデザイン性をもたせ、コンクリート打ち放しの外観を印象づけるアクセントにもなっています。

先に相談されていたハウスメーカーから、段差を活かした計画案が出ていたのかはわかりませんが、今回、私が提案した混構造の提案にまで行き着くことはなかなかないのではないかと思います。
高低差を活かした玄関アプローチ。植栽のプランニングも直井建築設計事務所が協力

高低差を活かした玄関アプローチ。植栽のプランニングも直井建築設計事務所が協力

ー コンセプトは『layered House(レイヤード ハウス)』

直井さん

直井さん

周囲はマンションなど高層の建物も建つエリア(第一種住居地域)で、今後、周辺環境が大きく変わっていく可能性もあります。そうしたなかで、プライバシーを守りながら家族が静かに暮らせる住まいが求められました。

そこで、コアの建物の周りを壁がぐるりと囲むような構成を考えました。この壁をめぐらせることで、居室と外部とのバッファー(中間地帯)をつくり、周囲からの視線を遮っています。正面から見ても、横から見ても、壁が何枚か重なってるようなつくりにすることで、空間に奥行きをもたせることが狙いです。
壁で囲んだ空間がバッファーをつくる。設計した住宅を上から見たイメージ

壁で囲んだ空間がバッファーをつくる。設計した住宅を上から見たイメージ

ー バッファーを効果的に活かす

直井さん

直井さん

2階のLDKはオープンなワンルームで、壁で囲まれたテラスとつながっています。将来的な周辺環境の変化に備えて、リビングに座った時の目線からだと周囲の住宅は見えずに、遠くの木々だけが見える。そして見上げるとちゃんと空が見わたせる、そのような高さに壁をめぐらせています。
リビングに座って見上げると空が見えるのは、欄間(らんま)窓で視界が抜けるため

リビングに座って見上げると空が見えるのは、欄間(らんま)窓で視界が抜けるため

ダイニング側も、直接窓から外が見えるというよりも、壁のレイヤの向こうに緑を望むみたいな見え方を意識したので、それが空間の広がりや余裕につながっているんじゃないかな。
当時を振り返る施主夫婦(手前)と直井さん(奥)「今は緑が見えていい感じだけどね…。マンションが建つかもしれないですし」と直井さん

当時を振り返る施主夫婦(手前)と直井さん(奥)「今は緑が見えていい感じだけどね…。マンションが建つかもしれないですし」と直井さん

1階の浴室につけた小さなバルコニーも外部を効果的に取り込んで、すごく風通しが良いです。一坪タイプの本当に標準的なユニットバスなのですが、バルコニーひとつでこんな豊かになるんだなってちょっと僕も驚いたぐらいです。

ー 立面的なレイヤー(層)と平面的なレイヤー(層)とが重なり合う

直井さん

直井さん

LDKはワンルームで部屋全体を見渡せるため、ただフラットにつながるよりは空間にバリエーションをつけた方が面白いだろうと考え、リビングとダイニングの間に段差をつくりました。段差があることで床の仕上げの切り替えも効いて、空間の違いを一層引き立てています。

暮らしやすさとデザインはつながっている

ー 「普通はこうするよね」と安易に決めない

直井さん

直井さん

例えば、照明スイッチでも「スイッチの位置ってこういうもんでしょ」と、何も考えないで一般的な位置につけていくようなことはやりたくないんです。

こちらの照明スイッチの位置は、床から約900mmという一般的な位置よりも低く設定していて、ドアノブや収納の取っ手と全て高さを合わせています。低めの方が動作も楽だし、見た目にも水平方向に整っている印象になります。

目線の高さにあるものって目立ちすぎますよね。目に入る雑音をなくしていくことをデザインの軸として心がけています。
「スイッチの高さは、自然体で楽な位置に。高さはドアノブとそろえています」と直井さん

「スイッチの高さは、自然体で楽な位置に。高さはドアノブとそろえています」と直井さん

照明にもいつもかなり力をいれてプランニングを行います。例えば、ダウンライトも普通に大きいΦ100のものを付けるんじゃなくて、小さなものを要所だけに配置したり、こちらのリビングのように、折り上げ天井の中に仕込んで光源が直接目に入らないようにするなどです。

照明の位置は、お客さまが使用するシーンをスタッフと一緒にシミュレーションして、かなりこだわって考えていますね。
使いやすさやデザインを同時に考えることは僕らにとっては当たり前。分からないようにできてこそみたいな部分もあって、具体的にお話をすることもないので、お客さまが気づいて喜んでくださるのは、すごくうれしいです(笑)。

例えば、「入り巾木」は壁面に入れ込んだ形で巾木を設置することで、無駄な凹凸がなくなりすっきりとした見た目と面の広さがにより伸びやかな空間となっています。
また、床には施主のテーマカラーでもある真鍮の見切り材を入れ、インテリアと統一感を出しています。
細かいところまで配慮されている、さりげないディテールのこだわり。入り巾木(左)と施主も住んでから気づいた真鍮の見切り材(右)

細かいところまで配慮されている、さりげないディテールのこだわり。入り巾木(左)と施主も住んでから気づいた真鍮の見切り材(右)

違和感に向き合う、細かい設計とシミュレーション

ー 基準はシンプル。違和感がないかどうか

直井さん

直井さん

設計にあたって大切にしているのは「違和感がないデザインにしたい」ということ。なので、自分やスタッフに違和感が残らないかどうか、さまざまにシミュレーションを重ねています。住んでいる人に違和感を残さない「こうしておけばよかった」をつくらないことが、その先の住み心地につながると考えています。

例えば、タイル割も違和感がうまれないように、設計の段階からどういう位置で張っていくかを細かく検討しています。工務店任せにするところもあるのかな。うちはスタッフからいくつも案を出させてかなりしつこく考えます。

ー 統一感で違和感をなくす

直井さん

直井さん

リビングの開口部は、掃き出し窓+FIX窓という普通のアルミサッシの組み合わせですが、そこにサッシと同じ黒色の柱や梁を造作で加えることで、個々の窓が一つの大きな窓のように一体に感じられるデザインになっています。また、天井照明の黒いラインとも統一感をもたせ、空間を引き締めています。
照明とサッシの黒いラインが空間を引き締める

照明とサッシの黒いラインが空間を引き締める

2階のリビングの壁は、一面全面を黒い石で仕上げたことでダイナミックな空間になりました。はじめは階段からちょうど見上げる部分だけが、プラン上、白い壁だったのですが、全面仕上げを連続できたのはよかったですよね。絶対こっちの方がいい。黒い手すりと目線がつながっていく感じも出せました。

100%の建築家仕様にこだわらない

ー 既製品や施主支給にも柔軟に対応

直井さん

直井さん

キッチンや収納、建具など設計する家に合わせたデザインで造作することが多いですが、それもケースバイケースです。

例えば、こちらはキッチンメーカーである「kitchenhouse(キッチンハウス)」の既製品ですが、ウォールキャビネットに棚下灯を追加しました。たったそれだけ手を加えるだけで、オリジナリティが出て、デザイン的にもランクアップした印象になるんですよね。
既製品を賢く取り入れ、照明計画は入念に。「適材適所にあるダウンライトが手元を照らしてくれるので調理もしやすい」と施主

既製品を賢く取り入れ、照明計画は入念に。「適材適所にあるダウンライトが手元を照らしてくれるので調理もしやすい」と施主

コスト調整のため、ウォークインクローゼットにはIKEAの既製品を入れています。すごく優秀で良くできているんですよ(笑)。

またこちらのお住まいでは、照明を中心に施主支給品も取り入れたことが、コストダウンにもつながっています。ダイニングの照明は、こちらでプレゼン資料にいれた照明に似たもので気に入ったものをお客さまが探して購入したものです。

プランニングを進めるにあたって

ー 細かいヒアリング内容をプランニングに活かす

直井さん

直井さん

プランニングを進めるにあたって、うちがつくっているヒアリングシートを全部埋めてもらうのですが、非常に細かく書いていただいています(笑)。

例えば、
・外出は多いですか?
・好きな家事は?
・休みはどう過ごしていますか?
・趣味はなんですか?
・お酒は飲みますか?
とか...「住宅のことじゃないじゃん!」みたいなことを書いてもらうのですが、趣味などのお客さまの生活スタイルを知ることが、プランニングにすごく生きてくると思います。

施主とのコミュニケーションの取り方は?

ー 結果だけでなくそこに至った過程をしっかり共有

直井さん

直井さん

プランニングの説明では、CGや模型などを利用してプランニングポイントの共有を心がけています。お客さまからは、好みの住まいやインテリアのイメージ画像など見せていただいて、要望の把握をしていきます。

お客さまとは、LINEグループをつくって結構頻繁に連絡を取っていました。最低でも1ヶ月に1回は絶対に打ち合わせをするようにしています。また、図面の検討過程を全部見てもらうことは大事だと思っているので、でき上がったものをドンと見せるのではなくて、過程過程で確認していただいています。こうした打ち合わせプラス、ショールームへの同行なども行いました。

建築家・直井さんへの取材を終えて

SUVACO編集部

SUVACO編集部

直井さんの住宅事例から感じられるデザイン性の高さは、シンプルに違和感がないか?という基準によるもの。実際の現場を見ながら聞いたことで一層の納得感がありました。

違和感への鋭い感性をお客さまと共有しながら、妥協のない住まいを完成させていく道のりを知ることができました。
対応業務 注文住宅、リノベーション (マンション)
所在地 東京都千代田区
主な対応エリア 全国
目安の金額

30坪 新築一戸建て4,200〜7,500万円

60平米 フルリノベ1,800〜2,700万円

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