2020/06/25更新1like3365view

著者:原 ふりあ

ジェフリー・バワの建築──南国リゾートの曖昧な境界

この記事を書いた人

原 ふりあさん

アトリエ系設計事務所に所属して住宅や大規模建築の設計を行うかたわら、自ら設計や執筆活動も行っています。一級建築士。

前回取り上げた『WindowScape 窓のふるまい学』に多く掲載されていた建築家ジェフリー・バワの、代表的な作品をご紹介します。その魅力の一つである曖昧な半屋外空間は、住まいを考える際のヒントになるかもしれません。

▽ 目次 (クリックでスクロールします)

ジェフリー・バワとは?

ジェフリー・バワは、スリランカを拠点に活躍した建築家であり、その作品のほとんどはリゾートホテルだ。人気のホテル系列「アマン・リゾーツ」の創設者もバワの影響を受けたとされる。

バワは日本であまり有名ではない。そもそも、スリランカ自体が馴染みのない国かもしれない。スリランカはインドの南東に位置する島国。熱帯雨林気候で高温多湿、海岸部の年間平均気温は28度前後で、一年を通じて気温がほとんど変わらない。

私が実際に宿泊したバワ設計のホテル3箇所をご紹介して、最後に、バワの魅力をどのように住宅へ取り入れられるのか、事例と共に考えてみたい。

理想郷|ルヌガンガ

ルヌガンガのダイニングと庭園

ルヌガンガのダイニングと庭園

「ルヌガンガ」は、バワが自らの別荘として設計した場所だ。6ヘクタールという広大な敷地の庭園内に、数棟に分かれたゲストルームが配置されている。それぞれ全く異なるデザインで、宿泊者は部屋を選んで予約する(1日6組限定)。
ルヌガンガのダイニング

ルヌガンガのダイニング

バワ建築の特徴は、建物の内(屋内)と外(屋外)の境界が曖昧なこと。例えばこのダイニング。屋根がかかってはいるが、壁や窓ガラスによる仕切りがない。内なのか外なのかはっきりしない、いわゆる半屋外空間だ。

年間を通じて気温が一定なスリランカでは、雨さえ凌げれば空調する必要がない。だからこうした自由な空間づくりが可能になる。
ルヌガンガの待合スペース

ルヌガンガの待合スペース

上の写真は、エントランス付近の待合スペース。クッションの柔らかさや屋根という内部的要素がある一方で、心地よく通り抜ける風や地植えの植物という外部的要素もある。日本ではあまり経験することのない空間だ。

森の中のホテル|ヘリタンス・カンダラマ

ヘリタンス・カンダラマ 客室の浴槽

ヘリタンス・カンダラマ 客室の浴槽

「ヘリタンス・カンダラマ」は内陸部に位置する。木々に囲まれ、緑に覆われた幻想的な建物だ。

上の写真は、外部の視線が気にならないという立地を活かした、開放的なバスルーム。ガラスで仕切られてはいるが(野生の猿が窓から入ってきてしまうという事情もある)、視覚的に外とのつながりが大きく、森の中に浮いているような感覚をもたらす。
ロビーから続く共有空間

ロビーから続く共有空間

共有スペースはこのように、全体が半屋外空間となっている。半屋外空間と一口に言っても、天井高さや開口部の大きさによって空間の印象は変わる。しかし、この写真がかもし出す屋内的な印象は、床や壁の仕上げのきめ細かさ(表面の凹凸の少なさ)によるところも大きい。

海とつながる|ジェットウィング・ライトハウス

ジェットウィング・ライトハウスのカフェスペース

ジェットウィング・ライトハウスのカフェスペース

南西部のゴールという都市に建つ「ジェットウィング・ライトハウス」。インド洋の水平線を見渡す眺めは、まさにリゾートホテルといったところ。バワ建築の中でも人気が高いホテルだ。

上の写真は、メインダイニングからつながったカフェスペース。壁も屋根もない完全な屋外に、テーブルと椅子が並ぶ。
しかし一歩引いてみると、手前には屋根のかかったスペースがある。屋外と半屋外に同じ家具が置かれていることで、空間が連続して感じられる。

先ほどのヘリタンス・カンダラマとは対照的に、こちらの床はラフでごつごつしている。海辺の岩が入り込んできているようだ。場所の条件に加えて、この素材の粗さも、より外部に近く感じられる要因の一つだ。

日本の住宅にもつくれる、曖昧な境界

バワの建築を体感すると、果たして「内」と「外」の定義とはなんだろう?と考えさせられる。用途か環境か、はたまた素材か……いずれも絶対的な定義ではないのかもしれない。逆に言えばそうした定義を超えた、曖昧で自由な空間をもっとつくってもいいはずだ。

日本の住宅でも、こうした曖昧な半屋外空間を設けることはできる。
例えばこちらの事例では、リビングに深い軒(奥行きは一間=1820mm)がかかり、その下が半屋外のテラスとなっている。リビング→半屋外テラス→屋根のないテラスと、グラデーションがかった構成だ。

こうして床の高さをフラットにすると、ストレスなく行き来ができて使いやすい。さらに内外の天井高さと仕上材(板張りの方向含む)を統一していることが、空間の一体感を強めている。

リビングを外部に延長させると、天気の良い日にさっとクッションを持ち出して読書をしたり、ペットが内外を行き来して居場所を選んだりという、変化に富んだ使い方ができる。
こちらの事例では逆に、リビングを屋外的に土間として仕上げている。空間自体が大きくつながらなくても境界が曖昧に感じられる一例だ。

境界が曖昧になる理由の一つは、土間が外部的に見えるという視覚的なもの。もう一つは、土足で内外の行き来ができ、水や汚れが気にならないという実用的な側面による。

先ほどの事例にも言えることだが、境界が曖昧になるということはつまり、内と外の行き来がしやすいということ。敷地全体を余すことなく使える=居場所が増えるというメリットにつながる。
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半屋外空間は余剰や贅沢に感じられるかもしれないが、家で過ごす時間が増えた今だからこそ価値がわかるのではないだろうか。

使いやすく心地よい居場所が増えると、一日が豊かになる。私がバワのホテルに宿泊した際には、朝早くにコーヒーをいれてテラスで読書をするという至福の時間があった。これが自宅でできたら……という願望は、そこまで非現実的ではないのかもしれない。

注文住宅の場合は特に、内と外の境界を再考して、より自由な場所を考えてみてはどうだろうか。
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