イギリスにある「Listed Building」という言葉。日本語に直訳すると「指定建造物」といったところでしょうか。ぼくの印象ではありますが、ロンドンに限らずイギリスの町中をぶらぶら歩いているとこの指定建造物にいたるところで出くわします。
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なぜ、イギリスの家並みは美しいのか
イギリスの指定建造物とは
所有者でも勝手にリフォームしたら罰則?
指定建造物は英国のメンタリティを表現する
なぜ、イギリスの家並みは美しいのか
ロンドンから電車に飛び乗る。例えば、それはどこに向かうでもいい。オックスフォード、ケンブリッジ、あるいはエディンバラ。電車が走り始めてものの20分もすれば、車窓にはのどかな田園風景が流れ始めるだろう。水平に広がる緑のグラデーション。イングランドには山と言える山がないから、遠くの方までその緑は続く。ときおり目に映るのは草を食む羊や馬。まるでワーズワースの詩の世界だ。
そして、小さな街の小さな駅で下車をしてみる。車窓から見えたあの緑に混じって、いかにも伝統的で英国然としたかわいらしい家並みがあなたを迎えるだろう――。
このように、イギリスには映画のセットに出てくるような「田園風景と古い家」があちこちにある。もちろん、いくら伝統を重んじるイギリスでも、そうした風景が手つかずで残っているわけではない。それなりに厳しいルールがあって、だからこそ残り続けているのだ。
イギリスの指定建造物とは
イギリスには「Listed Building」という仕組みがある。直訳すると、「指定建造物」。歴史的あるいは文化的に重要であり、法的に保護されるべき建物のことを指す(必ずしも「古い」必要はない)。イングランド、北アイルランド、ウェールズ、スコットランドそれぞれにそれぞれの基準があるのだが、どの地域でもおおよそ3か4のグレードが設けられていて、その重要度によってカテゴリ分けされる。
イングランドを例に具体的な数字を見ていくと、2010年の時点で374000以上もの建造物が指定リストに登録されていて、そのうち最も重要とされる「1級」は約9300件。このなかにロンドンのセント・ポール大聖堂やバースのキングスバース、ヨークのヨーク・ミンスターなどが含まれる。いっぽうで3つ目のグレードになると「あちこちに」とまではいかないが、散歩中に「雰囲気のある家だな」と思ったところがやっぱり登録されていたりするので、その数には驚かされる。
所有者でも勝手にリフォームしたら罰則?
そういったわけで、「3級」ぐらいになると実際に現役の住居である場合がけっこうある。にもかかわらず住人が、あまりに古いから「ここを変えたい、あそこを変えたい」と思っても厳しいルールのおかげでなかなか簡単にリフォームできないのが現実のようだ。取り壊し、拡張、改築には、すべて監督機関からの特別な許可がいる。リステッドビルディングに住むことは名誉なことだとは言うが、自宅なのに気軽に手も入れられず、ましてこれを破れば罰則規定にあたるというのだから、自分が住むならストレスが溜まってすぐ引っ越したくなるだろうなと思う(笑)
指定建造物は英国のメンタリティを表現する
もちろん、こうした保護条例や景観条例のようなものは日本にだってあるし、おかげで素敵な景色が残っているところは多い。あるいは日本とイギリスで、古い建物がつくる景観の違いを単純に比べることもナンセンスだと思う(そもそもイギリスに地震がなかったりもするし)。
ただ、この国に住んでぶらぶらと散歩を楽しんでいるとき、あるいはふと車窓を眺めたときに思うのだ。伝統的な家々が立ち並ぶ風景の独特の雰囲気はほんとうに気持ちが和むし、この国の「古いものを大事に使う」精神をよく象徴しているな、と。リフォームをするにしても、できるだけもとの建物の良さを残すことって、とても意味のあることだなと思う今日この頃です。