造作とは、床板・陳列棚・建具など建物の内部の仕上げ材や取り付け材、またはそれらを現場で仕上げる工事のこと。その家その部屋のためだけにつくられたフィット感や利便性が魅力です。
そこでSUVACOは、「ひとつ上の暮らしやすさを叶えてくれるオリジナルの造作」を得意とする専門家を訪問。家づくりの前に知っておきたい造作の魅力と知識について、各社のこだわりと共にシリーズでお届けしていきます。
今回は、ライフプランや暮らし方に寄り添った設計とその高いデザイン性に定評があるH2DO一級建築士事務所 久保和樹さんを取材し、「建具・間仕切り」をテーマにお話を伺いました。
建具とは、ドアや窓、障子など部屋の開口部に設けられた仕切りや開閉ができる部分の総称です。久保さんの手にかかると、その「建具」に単なる開閉や仕切りだけではない、驚きの効果が生まれます。
▽ 目次 (クリックでスクロールします)
H2DO一級建築士事務所代表 建築家・久保和樹さんがつくる家とは?
間取りまで可変にできる!久保さん設計の建具や家具
時間軸を加えた「4次元」で考える空間のつくりかた
家についての「こうだったらいいな」をリストアップしよう
H2DO一級建築士事務所代表 建築家・久保和樹さんがつくる家とは?
H2DO一級建築士事務所は、建築家 久保和樹さんの個人事務所。クライアントである施主と「共につくる」家づくりを大切にしています。
参加者がコンセプトを考え、模型作りまで体験できる「いえづくりワークショップ」を通して、自分らしい家づくりの方向性を発見できるほか、施主ごとに異なる価値観やライフスタイル、ライフプランを共有し、その家の将来も見据えた丁寧な家づくりをプランニングしてもらえます。
また、建物や内装の設計だけではなく、家具やプロダクトの造作も含めてトータルで考える美しいデザインも魅力。間取りまで変えてしまうその建具や造作家具は、どのようにして生まれ、またどんなふうに暮らしをランクアップしてくれるのでしょうか。
間取りまで可変にできる!久保さん設計の建具や家具
久保さんがつくる住宅は、その端正でライン(線)が美しいデザインが特徴的。また、1つの空間がいくつもの表情を見せる不思議な空間設計も「ここからどうやってこの形に変わるの?」とSUVACOスタッフの間で話題でした。
今回訪問したご自宅兼オフィスは、建具や間仕切りで表情が変わる空間を手掛けるきっかけとなった家とのこと。約10坪ほどの空間がどのように変わっていくか見ていきましょう。
まず部屋に入ると、右手にはすっきりと壁になじむ半透明の建具の扉が整然と並び、左手には壁であり見せる収納でもある本棚が空間を区切っています。
「こちら(上写真左手)には妻が籠って仕事をする時のワークスペースと、寝室があります」と久保さん。つまりこの時点の間取りは2LDKです。
この2部屋の空間がLDKとつながり、ワンルームへと変わるようすを見ていきましょう。
あっという間にさま変わりした空間は、窓からの光が空間全体に拡がり、最初とは全く別の表情。風通しも良くなるので、夏はこのかたちにしていることが多いそう。
小上がりの床下にも工夫が。正面の板を外すと、なんと小上がりの奥行き分をいっぱいに使える大容量の収納が現れます。キャスター付きの引き出し状に分けられていて、それぞれにA4サイズの書類、畳んだ布団、夫妻共通の趣味であるスキー板とスキー用品……など、収納するもののサイズに合わせた幅や高さで造作されています。
またページ冒頭の写真で久保さんの背景に写っている、テレビと花瓶が載ったスペースも、さまざまな活用ができます。建具をすべて閉めてしまえば、下写真のようにすっきりと端正な表情に。
テレビが載っている建具左部分は、下写真のように、差し込む板の高さを変えることで、高い位置ならハイカウンター、一つ低めにしてデスク、一番下の位置にして背もたれ部分を差し込めばソファ……とさまざまな用途に使えるタテカグ!
「壁なのか家具なのか、そういうヒエラルキーはまったくつくっていなくて。“建物をつくって内装をつくって、最後に家具を置いて……”という順で考えるのではなく、一番初めから家具のことまで考えてつくるので、このようなスタイルになるのかなと思います」と久保さんは話します。
時間軸を加えた「4次元」で考える空間のつくりかた
このようにフレキシブルな空間をつくったきっかけは、それまでオフィスとして使っていたこの空間を、自宅としても使えるようリノベーションした2009年に遡ります。奥様に「住まいへの要望を好きなだけ挙げて」と頼んだところ、出てきたのは「1LDKの間取りを2LDKにして、今より広いリビングと、たくさんの収納スペースがほしい」というもの。
久保さん:
「床下に収納をつくることはすぐに思い浮かんだんです。それから建具を“可動式にする”と思いつくまでは、ずいぶん考えました。
縦×横×奥行きの3次元だけで考えると、“部屋を増やしてリビングを大きくする”というのは絶対に不可能なんです。その時、妻がワークスペースを使う時間は仕事後の深夜と早朝だけ……と短いことに注目しました。固定の部屋をつくるのはもったいないと思い、そこから“時間軸で形が変わる可動式にして、使いたいときだけ使える部屋にすればいいんだ!使わないときは格納すれば、リビングも広く使える”ということに気づきました」
このご自宅兼オフィスをきっかけに、時間軸を加えた「4次元」の設計で、たくさんの施主の要望を叶えてきた久保さん。
―― 時間帯や季節・イベントによって柔軟に形を変えられる空間はとても便利ですね!また、見ていても楽しくてわくわくします。
久保さん:
「わたしが考える“4次元”には、時間帯などのように短期の間に形を変えるケースの他に、ロングスパンの時間軸も含まれます。
家の将来を初めから考えて設計しておかないと、スケルトンと呼ばれる柱や梁、床などの構造躯体(くたい)は、後から希望通りに動かせないという問題が起きる可能性があります。家族構成などの変化にうまく対応できず、住みづらくなってしまったらもったいないですよね。
だから “その家を最終的にどうするか” まで見据えた提案をしたい。うちではそれを「ハウスライフプラン」と呼んでいます。ライフスタイルは施主さんごとに自由で良くて、例えば途中で家を売却して住み替えるなら、立地や間取りも含めて「売りやすい家」を提案できますし、戸建てで老後2階を人に貸したい場合は、それを可能にするプランを考えます。
“スケルトン・インフィル”という工法があり、動かせないスケルトン(構造躯体)とインフィル(内装や設備など)を分離して考えるのですが、施主に考えていただいたライフプランをしっかりヒアリングをすることで、将来を見据えたスケルトンの構造を考え、長い時間軸の変化に最適化できるようインフィルを変えて、その時々に暮らしやすい空間がつくれるよう提案しています」
確かに家はとても大きな買い物。将来的な生活変化の可能性と、その時に家をどうしたいかをしっかりと考えたうえで、家づくりのプロに相談したいですね。
家についての「こうだったらいいな」をリストアップしよう
―― 時間軸も加えて長く愛せる柔軟な家を一緒に考えるために、施主さんがしておくべき準備はありますか?
久保さん:
「どんな家にしたいか、どういうスペースが欲しいかなどのご要望を出せるだけ洗い出して、とにかく思いついたことをなんでも教えて欲しいです。後から追加になるご要望が多いと、予算オーバーで実現できない恐れがあるので……。
すべてのご要望を出していただいた後で、その中の優先順位をつけていただきます。優先順位5番目くらいまでのご要望は確実に実現していき、それより優先度が低いものについてはあきらめていただく場合もありますが、優先度が高いものが実現できることで満足度は高くなりますよね。
“ご要望の要素を並べるだけ” 以上の空間を考えるのが、わたしの仕事です。可動式家具も含めていろいろな可能性を考えていくと、例えば優先度3位のご要望を叶える方法を考えたら、3位の要望と一緒に優先度7位で圏外だったご要望まで実現できちゃった……ということも起きたりします」
家を最終的にどうするかと併せ、これからつくる家について “ああしたい、これも欲しい!” と思い巡らすことは、とても楽しい作業でもありそう。後悔しないように “こうだったらいいな” という要望をあらかじめとことん考え、しっかりと伝えるようにしましょう。
最後に、皆さんに知ってほしいことを久保さんに伺いました。
久保さん:
「オリジナルの造作や家具を取り入れ、間仕切りや建具を効果的に組み合わせた家づくりは、空間を効率的に使えるうえに、費用対効果もとても良い設計手法です。狭小敷地や、建物の大きさを変えられないリノベーションにもとても有効。デザイン的にも、空間全体に統一感を持たせて美しく仕上げることができます。
特に複数枚の引戸による間仕切りや、所有しているモノのサイズに合わせた壁面全面の造作家具、スペースを無駄遣いしないよう部屋の大きさに最適化したオリジナルサイズのテーブルはお勧めですよ!」
目指すのは最後まで心地よく暮らせる家づくり。建具や間仕切りの造作で、ちょっと欲張りな要望まで叶えられるかもしれません。
対応業務 注文住宅、リノベーション (戸建、マンション、部分)
所在地 東京都杉並区 (ほか全2拠点)
主な対応エリア 全国
> プロフィールをみる