2021/09/28更新1like11336view

著者:熊井博子

明るくなればいいわけじゃない あかり(照明)の作用を知って上手に活かそう

この記事を書いた人

熊井博子さん

ビルダー・建築設計事務所に営業/広報として勤務した後、住宅専門誌の編集を経て、住宅関連の執筆と一般の方の家づくりサポート等に従事。インテリアコーディネーター、照明コンサルタント。

秋の夜長、あかりのもとで過ごす時間が増えてきました。
家づくりのはじめから注目する人は少ないですが、実際、あかりは間取りや動線と同じくらい、もしくはそれ以上に、私たちの暮らしや心身に影響を与えています。あかりがちょっと恋しくなるこの季節、あかりの作用にも意識を向けて家づくりに備えませんか。

▽ 目次 (クリックでスクロールします)

最初に知っておきたい、あかりの作用

あかりは、「暗いところを明るくする」のがその役割。日が落ちた家の中では美味しく食事をいただくこともゆっくり本を読むこともできないのですから、あかりは私たちの活動時間を広げてくれていると言えます。

では明るければいいのか、というとそうでもないのが大事なところ。
明るさにもいろいろあって、配慮を怠るとあかりの効果が十分得られないばかりかマイナスに作用することだってあるのです。あかりづかいの話の前に、光の2つの作用を紹介します。

あかりとカラダ

私たちの体には体内リズムがあります。それに大きく関わっているのが「光」。朝、太陽光を浴びると脳内にセロトニンが分泌され、頭も体も活発に動きだします。その後時間とともに分泌が減り、14〜16時間後には睡眠を促すホルモン・メラトニンの分泌が始まって、カラダは休む準備を始めます。

ところがこのメラトニンの分泌を邪魔してしまうのがやはり「光」。強い光が目に入ると、メラトニンの分泌をストップさせてしまうのです。夜、家でゆっくり過ごす時間帯はメラトニンの分泌が活性化される頃。煌々と明るい光の下では体内リズムを崩してしまうことにつながります。

JISが定める推奨照度(明るさ)は、リビングなら50lx。10m先にいる人の顔が認識できるぐらいの明るさです。子ども室なら100lx、眠るだけの寝室なら20lx。何か作業をするならそこにあかりを足せば良いのであって、部屋中を煌々と照らす必要はないのです。

朝、光を浴びて体を起こし、夜、光を抑えて眠りに向かう。あかりのコントロールは体のリズムを整えることにもつながっているのです。

あかりと印象

光の色味に注目すると、強い光を放つ太陽も一日同じ色をしているわけでないことに気づきます。朝のうちはオレンジがかった色、次第に白っぽくなりその後青みがかった爽やかな色へ、そしてふたたび白へ。日が沈む頃にはオレンジや赤へと変化します。

こうした変化は私たちがものを見るときの印象や気持ちにも影響していて、日中の白い光の中であれば見える景色やモノは爽やかに映り、快活な気分を後押ししてくれます。夕焼けのようなオレンジ色の光の中では温かな印象。のんびり、ゆったりした気持ちにさせてくれます。

照明の光も同じことで、印象効果は様々な場面で生かされています。例えば同じ飲食店でもいろいろな人が絶えず出入りし回転率が求められるフードコートのようなところでは、昼光色の照明が全体を明るく照らし、人々の活発な動きを後押ししています。逆にゆっくり食事を楽しんでほしいレストランでは、気持ちをゆったりさせる色・電球色の照明が使われます。特に、電球色は演色性に優れることから、食事を美味しく見せる・食事を共にする相手の表情を柔らかく見せるという役目も担っています。


知らない間にあかりの影響を受けて過ごしている私たち。1日のうち、最も長くあかりの下で過ごすのが我が家なら、その作用に配慮しないわけにはいきません。
納谷学「守谷の住宅」

あかり上級者・北欧諸国にみるあかりづかい

インテリアはもとより、あかりづかいが上手なことでも知られる北欧諸国。実際、夕暮れ時に北欧の街を歩いてみると、窓辺に小さなあかりが置かれ、時間を追うごとにペンダントライトやフロアライトなど、いろいろなあかりが少しずつ足されていくのを目にします。

それは「暗いから明るくしよう」と電気をつけるのとはちょっと違って、必要なところにあかりを置く感じ。フロアライトの脇にはソファがあったりイスがあったり、ペンダントライトの下にはテーブルやお花があったり。いくつものあかりを多用しながら部屋の中に光と影をつくりだし、視線が誘われる場所・寄り付きやすい居場所がつくり出されているのがわかります。

実際、あかりですべてを明るく照らすのではなくそこに光と影を同居させると、不思議と光の存在が際立って、シーンが色濃く映し出されるものです。光の色味が夕暮れ時に近い色なら、光と影でつくり出された居場所はこの上なく安らぎのある場所になり、なんとも居心地のいい空間に変わります。北欧の人たちは、あかりのそうした特徴を巧みに暮らしに取り入れているのです。

ただ、こうしたあかりづかいはなにも北欧固有のものではなくて、ろうそくや燭台を使っていた昔の日本・裸電球のあかりを使っていたちょっと前の日本でも、同じように陰影のある空間はつくられていたはずです。戦後長く昼を再現するほど部屋全体を白く明るくするのが主流になっていましたが、近頃そうした感覚が見直されつつあるのも事実。最近よく耳にする“フィーカ”や“ヒュッゲ”同様、居心地の良さをあかりの面から考えてみるのも良いかもしれません。

定方三将「奈良の住宅」

家づくりであかりを上手に活かすために

実際の家づくりでは、プランが決まった後に配線計画がおこなわれます。
心得のあるプロがいれば生活シーンを捉えた丁寧な提案を受けることができますが、そうでなければ(一般には)、部屋ごとにシンプルな配線計画がなされ、後から器具選びをすることになります。

特に施主が自由に選ぶとなると、器具の形やデザインばかりに目がいき、あかりの効果に対する意識が欠落する場合がほとんどです。実際、「ネットで見つけたお気に入り」という照明器具のついた空間を見せてもらうと、器具の個性がやけに強くて、あかりのための照明というより、展示して見るための照明に見えることもあるのです。

せっかくなら、あかりは上手に活かしたい。とすれば、事前に心がけておきたいことがふたつ。
ひとつはあかりの効果や雰囲気の違いを体感として知っておくこと。もし今ひとつの照明器具で部屋全体を明るく照らす家にお住まいなら、試しに小さなフロアライトやテーブルランプを取り入れてみてはいかがでしょう。IKEAなら、ひとつ千円台から手に入ります。

全体が明るく見渡せるいつもの部屋と、複数のあかりで光と影が同居する部屋。同じ部屋でも印象は全く違うでしょうし、気分やリズムの変化も感じるはずです。色々試しながらちょうどいい頃合いを探して慣らしていくと、実感を持って、居心地のいいあかりのある住まいを計画できるはずです。

もうひとつは、計画が始まりプランができたら、夕方から夜にかけての「具体的なシーン」を空間ごとに想像すること。例えば、ダイニングにはどこにどんなテーブルをおくのか、食事のほかそこで仕事や書きものをすることがあるのかどうか。それ次第で、必要なあかりは変わってきます。見通しが甘いとテーブル位置とペンダントライトの吊り下げ位置が合わなかったり、仕事をするあかり環境ではなかったり。日常生活に明らかな支障が出ることもあるのです。

あとから自分であかりを足したり引いたりするのもひとつですが、計画段階から配慮しないとどうにもならないこともあるものです。できるだけ具体的にイメージし、設計者にその空間でどんなシーンがありうるかを伝えておくことをお勧めします。

実際、家でくつろぐ時間の大半は、帰宅してから寝るまでの間の数時間。あかりとともにある時間帯がほとんどです。あかりづかいはそのまま住まいの居心地につながりますし、住む人の気分や行動に影響します。
「あかりはライフスタイルをつくる」。そんなつもりで今から少しずつあかりと向き合うと、できた家の住み心地は格段に良くなるはずです。
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