2016年09月20日更新

注文住宅(その他)

【書評】真の“デザイン”を、建築に活かすために 〜『建築と不動産のあいだ』を読んで〜

家をどうにかしたいと漠然と思っている人、建てたいと思っているけど一歩踏み出せない人……ちょっと立ち止まって、本でもいかがですか? この連載では、新進気鋭の建築家・佐藤桂火さんが、これから家づくりをする人にぜひ読んでほしい本を取り上げ、つくり手の目線・住み手の目線から語ります。


今回ご紹介する本

『建築と不動産のあいだ そこにある価値を見つける不動産思考術』 (高橋寿太郎著/学芸出版社)

建築設計事務所に勤務後、不動産会社の営業に転職した異色の経歴を持つ著者が、建築家と不動産会社をつなぐ新たなフローの必要性を語る。実際のケースも多数収録されているので、これから家を建てようとする人にも参考となる一冊。

『建築と不動産のあいだ そこにある価値を見つける不動産思考術』 (高橋寿太郎著/学芸出版社)

出典:『建築と不動産のあいだ そこにある価値を見つける不動産思考術』 (高橋寿太郎著/学芸出版社)

書評

個人住宅であれ自社ビルであれ、新築するために辿るプロセスはみな同じ。将来のヴィジョンを持ち、資金計画を立て、土地を取得し、建物の設計を依頼し、工事を行い、運用を開始する。この一連の流れの中で、建て主は自分一人で考えたり、様々な専門家に個別に相談したりする。しかし本書ではこのフローの最初から最後までを、不動産コンサルと建築家がコンビを組んで建て主をフォローするというサービスの方法が紹介されている。

不動産、そして建築家という職業の概念は、文明開化で西欧から輸入され日本に根付いたもの。おそらく当初は一体だったであろう「お金の計画・土地探し・デザイン・施工・運営」は専門分化していき、今ではそれぞれ別々の専門家が請負う。(法や制度もそれを促している。)しかし分断されたプロセスでは建て主の望むライフスタイルの可能性を最大限引き出す提案は難しいし、それは結果的に建て主が新築プロジェクトの恩恵を100%享受できないことを意味する。建て主にとってより本質的な提案をするためには、プロセスをトータルに把握・分析・推進する立場が重要なのだ。その意味で、土地探しはもちろん、建て主の人生設計について不動産コンサルと建築家の3者で話し合うところから始めることには価値がある。

本来、家づくりにおいてデザインの対象となるのは建物そのものだけではない。人生のヴィジョンを持ち、資金計画をたて、土地を探す。この段階で建て主のライフスタイルを提案することも、デザインの役割である。

ヴィジョンとは、建て主が実現したいライフスタイルのイメージのこと。たとえば、子供は3人生む予定だ、子育ては自然あふれる場所でしたい、親と同居したい、といった家族に関することもあるだろうし、あるいは、2年後に独立起業してはじめのうちは自宅で働くつもりだ、クリエイティブな人々の集まる地域に住んで刺激を受けながら働きたい、といったワークスタイルに関することもあるだろう。人によっては、二地域居住で年の半分は山の中で暮らしたい、毎朝出勤前にサーフィンできる生活がしたい、などの余暇に関することなどもあるかもしれない。実現したいライフスタイルは建て主によって千差万別であろう。

そのライフスタイルを実現するためにふさわしい敷地とそこに建ちうる空間のイメージを、現在/将来の収入、親からの相続、銀行ローンでの借り入れ可能額、現在加入している保険を把握したうえで合理的なファイナンシャルプランと合わせて提案する。親の所有する敷地の上に建てる場合は必要に応じて土地の分筆(所有権を分けること)まで合わせて提案することもある。これが、土地の取引やファイナンシャルプランの専門家である不動産コンサルと、土地の潜在的な可能性を感じ取り空間に落とし込むことができる建築家がコンビを組むことで可能になるのである。

本書でも具体例が紹介されているように、高い値付けのされている土地が必ずしも豊かな空間に結びつかないことは多く、例えば7,000万円の総事業費の中で5,000万円を敷地に使ってしまって残り2,000万円では不十分な建物しか建てられないということが起こり得る。これでは建て主は同じ投資で得られるはずだった利益を十分に享受できないことになってしまう。しかし不動産コンサルと建築家のコンビであれば、値付けは低いが潜在的に豊かな、そして建て主のヴィジョンに合った空間をつくれる敷地を見抜ける。敷地を3,000万円で購入し4,000万円を建物にかけて豊かな生活を実現することが可能なのだ。戦国大名にとって城を構える場所を決めること自体がその設計の大部分であったように、デザインは建物を建てる場所を決め、総事業費を決定するところから既に始まっている。

デザインとは、デザイン対象物の周りに存在する様々な物事の関係性をより良いものにするための手段である。建物のデザインだけとっても検討すべき項目は素材・工法、快適性・省エネ、間取りの可変性・耐久性、すがすがしいたたずまい・自然な建ち方、などなど多岐にわたり、多くの条件を取り入れれば取り入れるほどよい効果を周りに及ぼす。それに加えて、その前段階に当たるヴィジョン、資金計画、土地探しを通してライフスタイルから提案することは、当然建物のデザインにもよいフィードバックとなって最終的に建て主の人生をよりハッピーにするだろう。

専門分化が進み、役割が細分化されてしまった今の時代で、建て主のヴィジョンや資金計画から建築・施工までのプロセスを一貫して行うための一つの有効な方法が紹介されている本書は、人生のヴィジョン実現に向けてよりよい建物を望む建て主にとって、読む価値がある良書と言えるだろう。


この記事を書いた人

佐藤 桂火さん

佐藤 桂火 (さとう けいか)
建築家
1982年大分県生まれ/2005年東京大学卒業/2006年東京大学大学院在学中、セント・ルーカス大学交換留学生 / 2007年同大学大学院修士課程(難波研究室)修了後、平田晃久建築設計事務所/ 2014年ARTENVARCH設立 /現在、ARTENVARCH共同主宰 http://artenvarch.jp/

主な作品=《GLACIER FORMATION》(Milano Salone 2015)、《Airy Walk》(2015)、《Diagonal Boxes》(2016)、《京都の三段屋根》(2016)ほか。

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