ガーデニングといえばイギリス。イギリスといえばガーデニング。この国の人たちは庭いじりが好きだ。よくガーデニングの大会なども催されていたりするが、それくらいに熱心。ぼくみたいな素人が知ったことをいうなんてもってのほか……。奥が深ーいその世界とは。
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「庭」はその家の顔
「当たり前」を特別に感じる。「庭」での食事
自宅の庭はとにかくコージーに
新しくなった「ガーデニング・ミュージアム」潜入
「庭」はその家の顔
この連載を始めてから、ずっとイギリスのガーデニングについて書きたいと思っていた。が、しばらく書くことができずにいた。なんというか、「下手なことをいうといらぬ誤解を生むのではという恐怖があった」からだ。ちょっとイギリスに住んだくらいでは、この国のガーデニング事情を分かったつもりにすらなれない。それぐらい奥が深く、みなそれぞれに一家言を持っているのだ。
と、そんな風に断っておけば多少はハードルが下がったであろう(笑)これを踏まえて下手なことをあえていうが、「イギリスのガーデニングは家庭に根付く伝統芸」だと理解している。余暇を楽しむための、文化としてのガーデニング。それぞれの家庭がそれぞれのやり方でガーデニングに精を出す。そうやって「庭」にはその家の個性が現れるのだ。
「当たり前」を特別に感じる。「庭」での食事
最近になって仲良くなった近所のご家庭で、ときどき夜の食卓を一緒にするようになった。雨が降ったりやんだり、予測不能な天気のおかげで晴れ間に関しては異常なほどの執着を見せるイギリス人だが、ラッキーなことに今年の夏は庭に出したテーブルで食事をとることが多い。そういったわけで、ぼくが「晴れた日に庭を愛でながらとる夕食の素晴らしさ」に気づくまでにそう時間はかからなかった。
第一におもしろかったのが、食卓でかならずガーデニングの話題になることだ。「今日は暑いからこれから水をあげないと」とか「あの植物、イモムシにやられちゃったの」とか。「来週にはもっとヒマワリが大きくなっているはず」なんてセリフには、何気ないけれどハッとさせられた。確かにそのあと一週間後に行ったとき、すごい勢いで茎が成長していたのだ。そういった時間の感じ方って、小学校でアサガオを育てて以来だったから、なんだかちょっと感動したものだ。
自宅の庭はとにかくコージーに
また、庭での時間の過ごし方は食事に限らない。この国ならではの文化、「午後の紅茶」も晴れていれば庭でとるのが最高だ。さらには庭で優雅に仕事だってできる。現にぼくは今、他人の庭でこうしてこの原稿を書いているのだ(笑)これはぼくの勝手なイメージだが、イギリス家庭の持つ庭は、ただそこに座って精神をおちつかせ、よしなしごとを考えるための空間ではない。日常をさらに生き生きとさせる場所なのではと思う。食べ、飲み、話し、書き、読む。ガーデニングの役目は、日常を過ごすための最適な空間を作ることにあるのではないか。この連載のタイトルではないが、まさに自分らしいコージーな空間に仕立て上げる――それこそがイギリス人の愛するガーデニングの真骨頂だと思うのだ。
新しくなった「ガーデニング・ミュージアム」潜入
話は変わるが、ロンドンのサウスバンク(テムズ川の南岸)から少し歩いたところに、その名も「ガーデン・ミュージアム」がある。さすがイギリス、観光名所の近くにガーデニング専門の博物館があるなんて、本気度が違う。実はこの場所、先日リニューアルされたばかり。原稿の参考になればと、さっそく足を運んできた。
館内はコンパクトだが、よくまとまっていて素人にもわかりやすかった。ガーデニングに使う小道具の歴史や、デザインにいたるまで。ディスプレイされたものを少し見るだけでその背後にある物語が感じられ、圧倒される。これをわかった気になるまでにはどれぐらい時間がかかるのだろうか――。あるイギリス人の言葉を思い出す。「ガーデニングを知っているかどうかでどういう家庭で育ったかだいたいわかる」と。これは恐ろしい世界である(笑)。
なにはなくとも、自分の手を実際に動かしてみなければなにもわからないだろうな。それにはまず「庭」を手に入れなければ。果たして何年かかることやら……。