2013/12/27更新0like2089view

著者:仲摩邦彦

専門家による記事:H-Houseのストーリー | 仲摩邦彦(建築家)

現実の街を歩くと、そうであるために、
同じような敷地、同じような家族構成だと、
同じような家になる、という具合に思われがちですが、
実は、
そこで考えられる可能性は、無数にあります。

考えてみれば、当たり前ですよね、
住んでいる人が、すべて違うわけですから…。

要求される性能も違えば、使い方も違います。

本当は、同じであることの方が、不自然だと思います。
それでは、そのように無数にある中から、
「たった一つの家」を選びとっていくためには、
どのようなことが必要となるのでしょうか。

様々な要求を、バラバラのまま寄せ集めただけで、
果たして、「たった一つの家」にふさわしいものになるものでしょうか…。

そこには、
バラバラのものを一つにまとめる、
大きなストーリーのようなものが必要なのではないか、
と、私は考えています。

そして、そのストーリーの中で、
それぞれの部分は、
単にバラバラのまま存在するのではなく、
同時に、
家全体の中の「意味ある部分」の一つになっている、
ということが大切なことなのではないか、と思います。

要するに、
無数の可能性の中から、
「たった一つの家」を選びとっていくには、
様々なことが、互いに関連し合って出来上がる、
一つの大きなストーリーを描くことが必要なのではないか、
ということです。

人それぞれに、その人なりのストーリーがあるように、
家にも、それぞれのストーリーがある、
という感じでしょうか…。

ここでは、
住宅密集地に建つ二世帯住宅、
H-Houseのストーリーについて、お話ししたいと思います…。
法的に、あるいは、予算的に、
許される範囲で、極力大きな家を建てる、
というだけでは、
このように住宅が密集した中では、
必ずしも、
良好な住環境が得られるというわけではありません。

満員電車の中にいる時と同じように、
こうした住宅密集地では、
どのようにして、
周囲と適度な距離をとるかで、
その快適さは大きく違います。

そのため、ここでは、
どのようにして、
家と周囲との間に「余白」となる部分を確保するか、
ということが、最大の課題となっていきました。

ただ、
これまた満員電車に乗っている時の話になりますが、
同じように周囲の人たちと接近している時でも、
足の辺りは多少のことは我慢出来ますが、
顔の辺りが隣の人と不必要に接近していると我慢がならない、
といったようなことがあります。

それと同じように、
ここでも、
その「余白」が必要とされる場所が、
各階、各場所で
それぞれに異なっていました。

これは、
そうした住環境の面からだけではなく、
近隣との関係や、法律上の規制など、
様々な要因が関わってのことです。

そうした、
必要な場所に、必要な「余白」を確保する、
という課題を解決するために、
多くの可能性の中から、導き出したのが、
3階までの各階を、「箱」に見立てて、
その3つの箱を、ズラしながら、積み重ねる、
というストーリーでした…。
3つの箱が、
ズレているために出来上がる「余白」は、
ある部分では、生活通路になり、
ある部分では、縁側になり、
またある部分では、
室内に光を導き入れる役割をしています。

これが、この家の、あらすじです…。

しかし、
あらすじだけでは、
小説や映画にならないのと同じように、
このストーリーも、
そうしたあらすじだけでは家にはなりません。

というわけで、
さらに描き込んだ、
「箱」と「余白」を巡るストーリーが生まれました…。
積み重なった「箱」は、
壁だけではなく、底面に至るまで、
すべて、木の板で覆われた、
「木の箱」にしました。

なぜ、「木の箱」にしたのでしょうか…。

木にしたのには、
いくつかの理由があるのですが、
その一つは、
この地域が、昔から、
木にゆかりのある地域であったからです。

そのせいか、
ほんの数十年前までは、
木の板を張った家々が並んでいた、
といいます。

今となっては、
近所では唯一と言ってもいい、
「木の家」ですが、
時間的に、少し引いて眺めてみると、
どちらが、この地域での、
当たり前のあり方、
ということになるのでしょうか…。

そういった意味では、
少々オーバーな言い方にはなりますが、
この家は、
街のストーリーにとって、
ミッシングリンクを埋める存在である、
という風に考えています。

この家のストーリーは、
より大きな、街のストーリーとも結びつき、
この家が、ここに建つ意味を語っています。

この家は、
それ自体で一つのストーリーを描こうとしていますが、
さらに大きな、街のストーリーの、
「意味ある部分」ともなっています。
そのような意図もあって、
この家は、
外壁だけではなく、底面も、
同じように、木の板で覆われているわけですが、
その、「木の箱」の底面は、
部屋の中へも伸びていき、
そのまま、板張りの天井になります。

そして、
その板張りの天井から一段高くなった部分全体が、
部屋を照らす照明になっています。

ちょうど、
「木の箱」の底を刳り貫いたら、
明るい部分が出てきた、
といったような感じ…。

一方、
室内の床は、天井と同じように、
段差無しで、
そのまま外部へと延長されて、
「木の箱」のズレを利用した、
軒下のテラスになっています。
ここでは、
家の中と外は全く別もの、というのではありません。

建築の内と外、
そして、その先の街へ、
互いに関連し合って、
大きなストーリーを描こうとしています。

ちなみに、
テラスの先端、
つまり、隣の家との境界線のところには、
床と同じ材料で、
目隠しの塀を設けています。

目隠しの塀は、
太陽の光を遮らないように、
それでいて、
お隣から丸見えにならないように、
という微妙な高さにしています。

ただ、それでも、
周囲の視線が気になる時には…。
普段は壁の中に収まっている障子を、
引っ張り出して、目隠しをします。

障子は、窓全体を隠すことも出来ますが、
時には、写真のように、
下の方だけを開けることも出来ます。
下の方は、
テラスの先の塀で、目隠しが出来ていますから、
これで十分な場合もあるでしょう。

屋内から、屋外のテラスへと続く、
空間の広がりを守りつつ、
さらに、
日差しを遮らず、
プライバシーも保つ…。

どれ一つとして、諦めないための工夫です。

それぞれの部分は、それぞれに活躍することで、
大きなストーリーを支えてもいるのです…。

ところで、
先の、塀と障子の話にも関連しますが、
自分の家の中については、
好きなように、
あれこれ自由につくることが出来ますが、
家の外の環境を、
勝手に変えることは出来ません、
当たり前ですが…。

周囲があまり好ましい環境ではなかったり、
家々が密集して建っているときなどは、
家の中と、周辺との関係を、
上手に調整することが、
快適に暮らす上で、
とても重要なことなのではないでしょうか…。

通常は、
窓やカーテンの開け閉めによって、
そうした関係を調整していることが多いのですが、
そうした方法は、確かに、
周囲の視線等の、
好ましくないものを遮ることができますが、
同時に、
光や風、あるいは、
眺望や室内の広がり、といった、
本来、遮りたくないものまでが、遮られてしまう、
ということもあるように思います。

住宅密集地にあって、
遮りたいものを遮りながら、
それでいて、
屋外とも連続した、
開放的な屋内空間を実現したい…。

先の例では、
目隠しの塀と、障子を使いましたが、
この二世帯住宅の、もう一つの世帯では、
別の方法を使いました。

一つのストーリーには、
様々な登場人物がいてもいいわけですから、
方法も一つである必要はありません。

ここでは、
「箱」をズラして積み重ねることによって、
自然と生まれる屋根の上を利用して、
住宅密集地にあるとは思えないほどの、
広い、屋外のテラスをつくり出し、
その周囲を、木製の格子で囲いました。
光と風を通しながら、
同時に、
プライバシーを確保し、
屋内空間を、
屋外に向けて、拡張しています。

外観では、
「箱」をズラしながら積み重ねることで、
必要な「余白」を確保したように、
ここでは、
格子で出来た「箱」の中に、
屋内空間という、もう一つの「箱」を、
入れ子状に置くことで、
その間に「余白」を確保し、
それによって、
周辺環境との調整をはかっています。
これも、
「箱」と「余白」のストーリーです…。

そして、
各階の「箱」の中には、
さらにもう一つ、
小さな「木の箱」が、
入れ子状に、入っています。

その中には、それぞれ、
浴室やキッチン等の、水廻りや、
収納等が収まっています。

写真の「箱」には、キッチンが入っています。
「箱」の周囲の壁は、すべて収納になっていて、
その周囲での生活を助けます。

必要な機能を、すべて、「箱」の中に収めることで、
その周囲に、快適な「余白」を確保しました。

これもまた、
「箱」と「余白」のストーリー…。

ところで、ここまでしつこく繰り返していると、
このように一つのストーリーを決めて、
それを貫こうとすると、
かえって、それに縛られてしまい、
無理のある、
とても住みにくい家になってしまうのではないか、
という心配も出てくるところではないでしょうか…。

ただ、
小説や映画などでも、
「個性的な脇役」の存在が、
全体のストーリーを、より展開させたり、
厚みや深みを持たせたりするのと同じようなことが、
家をつくるにあたっても、起こってくるようです。

この家では、
各階が、すべてズレながら積み重なっていて、
どこにも縦方向にそろっている部分はありません。

それがこの家のあらすじであったわけですから、
当然なのですが、
ただ、一箇所だけ、例外があります。

階段と、その脇にある壁だけは、
1階から3階までを、まっすぐに貫いています。

そのようになった、一番大きな理由は、
階段をズラしてしまうと、
どうしても、
その分、必要以上に場所をとってしまうためで、
決して広いとは言えない、この家にとっては、
そのようなことをして、
無理にストーリーに沿わせるようなことは出来ませんでした。

ただ、そのために、
全ての階がズレている中で、
唯一、
全階にわたって、縦にそろっている、
まっすぐの部分が出現することになりました。

「個性的な脇役」の登場です…。

大きなストーリーからはずれた、
この部分は、
そこからはずれていることで、
かえって、その重要性を増していきました。

そこで、
上に向かってまっすぐに伸びるこの壁には、
外壁と同じように、
縦方向に、木の板を張ることで、
あえて、
上に向かってまっすぐに伸びる感じを強調することにしました。

そして、全体の中で、中心を貫く、
まるで、木の幹のようになった壁に沿って設置される階段は、
そこから枝が伸びるように、
壁から段板が突き出すようなかたちになっていきました。

階段は宙に浮いているような感じになり、
階段の昇り降りは、
ちょっとした、木登り気分です…。
さらに、
上に向かって伸びる壁のてっぺんには、
トップライトを設置し、
そこからの光が、
段板の隙間を通って、
下へと、柔らかく降り注ぎます。
まるで、
森の中の、木漏れ日のような感じ…。
それは、あらすじからは少々はみ出した存在かもしれませんが、
先の、木製の格子に囲われた空間とも呼応した、
大きなストーリーを形成する、
「意味ある部分」になっています。

相反する条件があるからといって、
何のストーリーも描けない、
というわけではありません。

そのようなことがあるからこそ、
かえって、
豊かなストーリーを描くことが出来るのかもしれません…。
家をつくるにあたっては、当然、
使い勝手や性能の確保等々…、
様々な意図があり、また、制約もあります。

しかし、だからといって、
そうしたいろいろな条件を満足させることだけを目指して、
それらを、相互に何の関連もなく、ただバラバラに並べるだけで、
本当に、よい家になるものでしょうか…。

そのような個別の、様々な条件を満足させることと同時に、
家全体としても、
大きなストーリーを、描いていくことが必要なのではないか、
と思っています…。

そして、まさに、
そんな、「ストーリーを持った家」をつくりたい、と考えています…。

対応業務 注文住宅、リノベーション (戸建、マンション、部分)
所在地 東京都小平市
主な対応エリア 茨城県 / 栃木県 / 群馬県 / 埼玉県 / 千葉県 / 東京都 / 神奈川県 / 山梨県 / 長野県 / 静岡県
目安の金額

30坪 新築一戸建て2,250〜2,400万円

60平米 フルリノベ1,500〜1,680万円

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