2021/03/31更新1like9736view

著者:熊井博子

「価格以上に見える家・そうでない家」の分かれ道〜何にお金を払うかで、できる家は変わる!

シェア ツイート

この記事を書いた人

ビルダー・建築設計事務所に営業/広報として勤務した後、住宅専門誌の編集を経て、住宅関連の執筆と一般の方の家づくりサポート等に従事。インテリアコーディネーター、照明コンサルタント。

「限りある予算を最大限生かしたい!」家づくりを前にした人、誰もが願うことのひとつです。

施主が家づくりで何を重視しどこにどんなお金をかけたかで、家の見え方・評価・住み心地はまるで違ったものになります。かけた金額同等に見える家・金額以上に見える家・金額以下に見える家の分かれ道、ご存じですか。

▽ 目次 (クリックでスクロールします)

買いものは買いものでも

モノにお金を支払うか、コトにお金を支払うか

とある夫妻の家づくり

モノ選びからの脱却

買いものは買いものでも

「家づくりは一生に一度の大きな買いもの」とよく言われます。
確かに家は、長い年月のローンを抱えてようやく手に入る大きな買いもので、多くの場合、一生に一度きり。「やっぱりこっち」と安易に返品や買い替えの効かないシロモノでもあります。一生に一度で、はじめてで、最後。なかなかプレッシャーのある買いものです。

自分でモノを買うようになって以来、私たちは何百回・何千回と「選ぶ・買う」を繰り返してきました。食材や日用品などさっと選んで買う類のものから、洋服やクルマのようにじっくり検討して買うものまで様々ですが、実物やカタログを目にし、いいものかどうか・予算に合うかどうか・手に入れるとどうなりそうかと頭をめぐらせるのはもはや習慣。繰り返し「選ぶ・買う」を経験してきたのですから、自分なりの判断基準を持っていたり、センスや目利きに自信のある人もいるかもしれません。

家づくりとなれば、「一生に一度だから」と審美眼に磨きをかけて臨まんと意気込む人も多いのですが、家づくりはこれまでの買いものと決定的に違うことがひとつ。それは、「選んで買うものではない」ということ。

ここを正しく理解せず、慣れ親しんだ「選ぶ・買う」のものさしの延長線で捉えていると、家づくりが良からぬ方向に進んでいることがあるのです。

モノにお金を支払うか、コトにお金を支払うか

私たちがお金を使うとき、「モノ」に対して支払う場合と、もうひとつ「コト」に対して支払う場合とがあります。

「モノ」に支払う場合は、味や香り、使い勝手やデザインなど、そのモノ自体に何らか価値を見出し、購入を決断します。いわばモノとお金の交換です。

一方で、旅行や理美容、配信サービス、運送など「コト」に支払う場合は、それがもたらす結果に期待してお金を支払います。それはあくまで期待であって確実に約束されたものではないのだけれど、事前の情報や理解を元に、相手の知識や技術・経験・時間を「買う」ことになります。

では、家は「モノ」か「コト」か。
建売住宅や既存マンションなど、すでに存在していて見たり触れたりできる場合はそれ自体を気に入って買うのですから、「モノ」にお金を払うと言ってもおかしくないのかもしれません。ただ、ゼロから家をつくるとなると、話はまるで変わってきます。選ぼうにも、まだそこにないのですから。

家をつくる時にはまず、どんな暮らしをしたいか・その空間がどうだといいかを考えます。「のびのび過ごしたい」「落ち着きが欲しい」など具体的なイメージができると、設計者は土地要件や家族像、希望や予算など様々な条件を踏まえた上でそのイメージを共有し、かたちを生み出していきます。ゴールは、求める暮らしに辿り着けるかどうか、望む空間が叶うかどうか。
ここにかけられる手間や関わる人のスキル、つまり「コト」次第で、できる家はまるで違うものになるのです。

もちろんスキルのない人が間取りや仕様を考えてもたいていの家は完成しますが、“目指すべきゴール”に辿り着けるかどうかは別問題。結果を求めるなら、プロの知識・技術は不可欠です。
とはいえ、日本ではスキルにお金を払う感覚が乏しいのも事実。モノは必要だけれど、コトはなくても困らないもの。ちょっと贅沢なもの。もしかしたら、そんな思い込みもあるのかもしれません。そのせいか、家をつくるとなるととかく仕様や設備など「モノ」にばかりに注力して「設計」にお金をかける人は極端に少ないように感じます。

とある夫妻の家づくり

「モノ」にお金をかけて「設計」にお金をかけない。あるシニア世代の夫妻の新居を訪ねた時、それを痛烈に感じたことがありました。
夫妻は会社を経営されていて、資金も潤沢。人生経験豊富とはいえ建築の知識はなく、知り合いの工務店を頼って念願の“終の住処”を完成させたと言います。延床面積60坪・2階建ての大きな家は、夫妻の要望を網羅し設備仕様も最高クラス。話題も最新設備の話で盛り上がりました。

ところでなぜ家を建てたのかと尋ねると、「歳を重ね大きな家に住むのが辛くなった。小さな平屋で暮らせたらと思って」と夫妻。え⁉︎
想定外の回答に一瞬たじろぎましたが、さらに聞くと、「要望を言ううちに大きな家になった」と言います。

この話を聞いて、建築資金に余裕があるなら問題ない、よくある話だと感じた方は、要注意。ここで注目すべきは、「小さく暮らしたい」という本来の思いは置き去りにされ、いつのまにか「欲しいもの」に家づくりのテーマがすり替わっていたこと。本人たちもそれに気づかないまま家づくりが進んでしまったこと。

2人で過ごすには広すぎるLDK、天井を高くしたために通常より段数の多い直階段、そこを毎日上り下りしなければいけないところにある寝室、デザインが整っている風でもなく、豪華な設備仕様ばかりが目立つ大きな家。余計なお世話ながら、夫妻の大事なお金は意味のある使われ方をしたのか疑問を感じてしまうし、「終の住処を望んだ」と聞くとなんともいたたまれない気持ちになってきます。

もしここに全体を俯瞰して先導するプロがいたら、注力すべきテーマは違っただろうし、要望整理や取捨選択、どこにどうお金を投じるべきかの予算配分(マネジメント)も行われたはず。今となれば後の祭りですが、資金を丸々「モノ」に使うのでなく「コト」にも使うことができたなら、夫妻の家もこれからの暮らしも、もっと違うものになっただろうと思えてなりません。

実際、モノとして選ばれる建売住宅や既存マンションも、多かれ少なかれプロの知識・技術・時間が投じられ、空間の仕上がりや住み心地を左右しています。家を買おうとする人はその成果を無意識に感じ取り、「欲しい・欲しくない」と判断しているのです。

「コト」に支払うお金は、決して贅沢な費用ではありません。予算の大小に関係なく、資金を最大限生かしたいなら最大限生かす方法を導き出せるプロの案内を求めた方がより良い結果にたどり着くはずです。
そう考えると、依頼先を選ぶときにも「設計無料」と言われるよりも「設計には費用がかかる」と言われた方がはるかに安心できるし信頼できます。家づくりを決定づける要だけに、そこには本気で力を注いでもらわなくては困るのですから。

モノ選びからの脱却

私たちは、形あるものを見るとどうしても「モノ」として捉えて品定めをする傾向があります。見学会や展示場では、「どこのキッチン?」「壁はクロス?珪藻土?」「床材は?」と、素材や設備に着目した会話が飛び交うのを耳にすることもしばしばです。
初めての家づくりゆえ、何をどうみればいいかわからないということもあるかもしれません。でも、素材や設備に気を取られ続ければいずれ家づくりは「モノ」選びと化し、何がついているか・どんな素材でできているかが家の評価基準となって、気づけばゴールを見失ってしまうことがあるのは前述の通りです。

素材や設備は家を構成する大事な要素ではあるものの、家を決定づけるものではありません。一つひとつにこだわって、高価な素材や設備を選べば当然家の価格は高くなります。より良くしたい気持ちと予算との間でジレンマと戦うこともあるでしょう。ただただ素材や設備にこだわっても、それらはその価値以上になることはありません。一方で、どれだけ安価なものでも知恵と工夫が折り重なると、素材や設備そのものがもつ以上の価値や効果をもたらすこともあるのです。

「モノ」にお金をかけてできた家と、「コト」にお金をかけた家。総額が同じだとしても、結果は大きく違います。色々な家を見たり情報を集めたり、家づくりの準備にのめり込むほど陥りがちな「モノ」重視の家づくり。「家は、ついているモノで決まるのではない」と強く肝に命じて、時折少し引いてみたり全体を眺めてみると、本来のゴールを見失うことなく限りある予算を生かす家づくりに辿り着けるかもしれません。

完成した家を見に訪ねてきた友人に、「このキッチン高級そう」「この照明どこで見つけたの!?」と言われて喜ぶか、「この家なんだかすごくいい感じ」と言われて喜ぶか。せっかくなら、家についているモノではなくて、家そのものを褒めて欲しいと思いませんか。
モノが持つ魅力をそのまま生かすか、そこに付加価値をプラスしてモノが持つ以上の魅力や効果を引き出すか。価格以上に見える家・そうでない家の違いはここに現れます。
設計やプロデュース・コーディネートなど目に見えないものにも価値を置き、予算の一部を分配することができたなら、”モノ代+α”の、価格以上に見える素敵な家ができるはずです。

この記事を書いた人

ビルダー・建築設計事務所に営業/広報として勤務した後、住宅専門誌の編集を経て、住宅関連の執筆と一般の方の家づくりサポート等に従事。インテリアコーディネーター、照明コンサルタント。

SUVACOは、自分らしい家づくり・リノベーションをしたいユーザーとそれを叶えるプロ(専門家)とが出会うプラットフォームです。

家づくりについて学ぶ

「自分らしい家づくり」に大切な、正しい家づくりの知識が身につくHowTo コンテンツ集です。

専門家を無料でご提案

家づくり・リノベーションはどこに頼むのがいい?SUVACOの専任アドバイザーが全国1,000社以上からご希望に合うプロをご提案します。

住宅事例をみる

リノベーション・注文住宅の事例を見たい方はこちら

家づくりの依頼先を探す

リノベーション会社や建築家、工務店など家づくりの専門家を探したい方はこちら

同じテーマの記事

同じテーマのQ&A

住まいの記事 カテゴリー一覧

専門家探しも、家づくりのお悩みも
SUVACOのアドバイザーに相談してみよう

専門家紹介サービスを見る

上へ