家を建てるための土地を探す、リノベーションをするための中古マンションを探すといった場面で、当然気になるのが不動産の価格です。これらの価格がどのような要素や条件によって決まったり、変化したりするのかを、現役の不動産鑑定士が初めての人にもわかりやすく解説していきます。
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一つとして同じものがない不動産。それゆえ価格を判断しづらい
誰でも出来る価格検証の方法
①公表データをチェックする
②不動産会社に聞く
不動産の価格を形成する要因
一つとして同じものがない不動産。それゆえ価格を判断しづらい
物の値段はマーケットで決まります。資本主義経済下では、ごく当たり前のことですが、不動産の価格も他の消費財と基本的には同じで、マーケットが不動産の価格を決めます。需要に対し供給が少なければ値段は上がりますし、逆であれば値段は下がります。
多くの人が欲しがる物件の値段は強気の設定となる一方、好ましくないと考える要因のある物件の価格は低くなります。但し、不動産には他の消費財と決定的に異なる部分があります。それは、一つとして同じものが無いということ。
ある物件の情報が気になって、購入検討しようかと思っても、その物件が安いのか、高いのか、ぱっと見で判断するのは難しいですよね。新築の建売住宅やマンションであれば、全く同じとは言えないまでも、比較的類似する売り物を見つけられる場合もありますから、相対的には判りやすいでしょう。
しかし、中古物件や土地の場合は、類似品との比較はそれほど簡単ではありません。事例が相対的に少ないことや、時間的制約、物理的制約等により、現物の内部を全て確認できるわけではないからです。売り出し中の物件の情報は拾い集めることができますが、実際の売買価格のデータは一般の人には基本的には公開されていないという特殊な事情もあります。
自分の目で確かめることのできないものを比較するのは、不可能ではないものの、納得できる十分な検討ができるとは言えません。
誰でも出来る価格検証の方法
それでは、どうやって価格の妥当性を検証すれば良いのでしょうか。
第一には、相場を把握すること。
第二には、価格のプラスマイナスに影響する物件固有の要因を把握して、自分なりの目線を持つこと。予算の制約の中で、納得できる物件を手に入れるためには、何を重視するか、しっかり決めておくことが重要です。
今回は、地価相場を把握する方法をご紹介します。
①公表データをチェックする
同じ町内でも1丁目と3丁目では地価水準が異なることはありますし、面する通りが異なれば、建ち並ぶ住宅のグレードが全く異なることもあります。まずは、簡便には国土交通省発表の公示価格、都道府県発表の基準価格(共に
国土交通所のHPにて確認可能)や、相続税路線価(
国税庁のHPで確認可能)を押さえると良いでしょう。
公示価格や基準価格は、特定の地点についての地価を表すもので、一年に1度価格の見直しをしていますから、その地点の価格推移も確認できます。注意するべきは、実際の取引価格ではなく、公共用地の買収等で参考とされる制度的な要素を含んだ価格なので、実勢価格よりやや低めの価格となっている場合がある点。(地域によっては逆もあります)
相続税路線価は、相続が発生した場合に、不動産の相続税を算出する参考価格です。これも、実勢価格よりは低くなっており、大体の目安は7割程度です。
もしも、気になる不動産が見つかったら、近くに公示地(公示価格の地点)、基準地(基準価格の地点)が無いかチェックしましょう。最新の地価水準だけでなく、過去の経緯も確認することをお勧めします。いくつかの物件を比較検討するのであれば、過去の価格変動の様子も一緒に比較しておいた方が良いですから。
公示地、基準地は必ずしもピンポイントで自分の知りたいエリアに設定されているとは限りませんので、併せて相続税路線価をみておきたいものです。なお、これらの地価指標をGoogle マップを利用して地図上で簡単に検索できるサイトもいくつかあります。(例:
東京都不動産鑑定士協会のサイト)
②不動産会社に聞く
気になる物件の情報元である不動産屋さんに会う前に、①でご紹介したデータを最低限押さえておきたいものです。その上で、不動産屋さんにエリアの相場を聞いてみてください。
情報元は地元の不動産屋さんとは限りませんので、余裕があれば、物件の最寄り駅近辺で開業している不動産屋さんにも立ち寄って話を聞くことをお勧めします。地元の不動産屋さんを訪ねる意義は、相場感を教えて貰うだけでなく、見ただけでは判らない、裏話を教えて貰えるかもしれないからです。不動産屋さんは、街の情報をよく知っています。情報収集先として、活用しない手はありません。
不動産の価格を形成する要因
次に、物件価格のプラスマイナスに影響する要因についてご説明いたします。
不動産の価格に影響する要因のうち、主なものについて説明します。
■方位:
日本では、日照は重視されます。開口部(土地であれば通常は接道面、マンションであれば窓の方位)が南、東、西、北の順で価値が高いとされています。場所によって一律ではありませんが、他の条件が全く同じ場合、南が開口部の場合と北が開口部の場合では、10%位の価格格差があると言われています。
■接面道路との関係:
角地は両サイドが他人の敷地の場合(中間画地)と比べ、価値が高いとされます。同様に、表裏両方が接道している場合も価値が高いのが一般的です。表は建築基準法上の道路(建築基準法で定められる道路で、建物を建てる場合、敷地は必ずこの道路に2m以上接していなければなりません)裏は建築基準法上の道路ではない、という場合もありますが、遊歩道や歩行者専用道路等の場合でも、価値は中間各地よりも高いと判断される場合が多いです。
もとは大きな敷地であったものを、敷地内に道路を新たに設置するなどし、区画を小さく割って分譲した土地(ミニ開発)で、公道から奥まった場所の敷地は、公道に面する表側の土地よりも、価値は低くなります。
■最寄り駅への接近性:
公共交通網の発達している首都圏・多くの都市では、駅までの距離は物件価値に影響します。駅からの距離は80mを1分と表示し、10分内外が一つの目安ですが、高級住宅地域の場合は駅からの距離にあまり影響を受けないことが多いです。また、地域によっては駅と市街の中心が離れている場合もあり、駅からの距離は地価水準に影響しないこともあります。
■敷地の形状:
形状の劣る敷地の価値は劣ります。また、間口が小さすぎたり、奥行きが短すぎる敷地も価値は劣ります。標準的な敷地よりも価格が安いからといって、安易にこういった敷地を取得すると、建物のプランで苦労することもあります。取得する前に専門家に相談した方がよいでしょう。
前述のミニ開発による分譲地で、形状が旗竿状の敷地(袋地とも呼びます)では、手前側の路地状の部分は建物を建てることを想定しないため、整形な敷地と比べて価値は低くなります。路地状部分についての減価率は30~50%です。
■学区:
人気の小学校の学区は地価水準に影響している場合があります。なお、同じ町でも丁目が違うと学区が異なることもあります。
■階層(マンションの場合):
高層階の方が価値は高く、1階は最も価値が低くなります。1階の場合で、専用庭、専用駐車場等の専用使用権で付加価値を付けている物件がありますが、売却までに時間を要することがあり、転売を想定する場合には、よく考えて決断した方がよいでしょう。
■眺望の良否:
同一マンション内で眺望が異なれば、価値に影響します。某ヴィンテージマンションの例で、物件の前に大規模な建物が建ち、取引価格が低下したことがありました。中古マンションの価格がここ数年で上昇したこともあって、価格水準は戻っているものの、同一敷地内の他の棟と比較して、相対的にやや低めとなっています。
海に近いエリアでの例として、公示価格(国土交通省が毎年発表する特定の地点の地価)に以下のものがあります。神奈川県鎌倉市の比較的接近している3地点で、
・鎌倉住22:279,000円/㎡ 鎌倉高校前駅から600m
・鎌倉住33:204,000円/㎡ 長谷駅から600m
・鎌倉住28:184,000円/㎡ 鎌倉高校前駅から400m
鎌倉住22は海の見える立地です。他の2地点は、海が見えません。鎌倉住33は駅からの距離は同じ、鎌倉住28は200m駅に近いにも関わらず、価格は低くなっています。
なお、海に近い立地のマンションでは、海の見える部屋と見えない部屋の価格差は相当大きく、50%以上の格差があるものもみられます。
※掲載している価格は、2019年8月時点の情報です。
不動産の取得を検討する人の多くは、限られた予算の範囲で最も納得の行く物件を探したいと考えていると思います。ここ数年、住宅ローンの借りやすさとは反比例的に不動産の価格は上がっており、早く買わないと、と焦る場合もあるかもしれません。
しかし、不動産の価格は変動します。将来価格が維持できる物件ばかりではありません。であれば、考え方は2つ。
1つ目は、価値のなるべく下がらない物件を選択すること。将来転売する可能性があれば、この条件は外すべきではありません。
2つ目は、ずっと保有する覚悟で、納得いく物件を選択すること。プライオリティをどこに設定するかしっかり決め、予算の範囲で収めるためにはその他のマイナスの条件には目をつぶって、そのマイナス部分を逆に楽しむようにすることです。
多くの人にとって、マイホームは人生最大の買い物の一つでしょう。素敵な不動産との出会いのために、公表データのチェックと不動産屋での情報収集はぜひ行って下さい。