専門家による記事：「土地デザイン」という建築家の仕事｜黒崎敏（建築家）

これらのデザイン作業は候補地のマーケティングにはじまり、建て主のカルテ作成、土地の種類や価値の判断、リスクの共有、不動産や専門家チームによる検証、住宅ローンのマネジメント、税金対策、価格交渉等…が主体で、土地探しに関する一連の「マネジメント」であると言えます。
これらすべてが建築家が主体となるチームで行うことで上手くいくと考えています。

しかしながら、「土地が未確定の段階では設計の相談は受けない」「土地探しは不動産の仕事」というような意見をもつ建築家も未だに多くいらっしゃいます。
本当は建築家に対して土地探しから主体となって協力してほしいけれど、本腰を入れて手伝ってくれる方が少ない」という建て主の声も実際に数多く耳にします。

複雑な土地問題にはじめて直面する建て主の悩みについて、本来は不動産担当が解決すればよいのかもしれません。しかし、彼らのほとんどが建築の専門家ではないことから、土地の検討はできますが建築の問題までは共有できません。建築家による家づくりが目的である建て主にとってこれでは不十分なのです。

そこでやはり建築家が土地探しの優れたマネジャーになるべきなのですが、そもそも建築家自身が不動産を業務領域だと考えていないケースがあります。また、やりたくても金融や不動産、税金等に対する基本的な知識不足や協力者を含めたマンパワー不足により十分なサービスが提供できていないケースが多いようにも感じます。
近年、住宅づくりは複雑さを極めていますので、建て主も建築家もこれからますます知識やネットワークが重要になるのは間違いないでしょう。
土地という最も高額な買い物をベストの手法で行うためには、一人ではなく大勢の専門家と共に敷地という素材に真摯に向き合い、吟味し、適切に調理していくためには、手間暇をかけながら、広域にわたり準備を整えなくてはなりません。

そのためにこれからの建築家は不動産や金融家とのコミュニケーションをいつも図りながら、情報やデザインに対する価値を共有し、コンビネーションを磨きつつ、いつ始まるかわからない闘いに備えておく準備が必要でしょう。
そして、建て主は設計を行う建築家に加え、土地探しの経験に裏打ちされた技術のあるマネジメントプレーヤーをキャスティングする目利きにならなければなりません。それこそが家づくりの成否を分けることになるでしょう。

「私に良い土地を与えてくれるなら、私はあなたに良い住宅を与えよう」

かつて建築家の巨匠、フランク・ロイド・ライトは、クライアントに対してこのように話したといいますが、あえて私達はクライアントにこのように伝えたいと思っています。

「私達と一緒に最良の土地を見つけましょう。そうすればきっと良い住宅を手に入れることができるでしょう」