京都の町屋など伝統的な日本建築に使われることの多い「べんがら塗」。見る角度や光の当たり具合で赤や黒紫にも見える奥深い塗料です。このべんがらは伝統的な家屋だけではなく、現代の住宅デザインに生かすことももちろん可能です。べんがら(弁柄・紅殻・ベンガラ)とはどのようなものか、実例や使い方などを建築家に語っていただきます。
▽ 目次 (クリックでスクロールします)
べんがら(弁柄・紅殻・ベンガラ)とは?
古代より伝わるべんがらの歴史
現代版のべんがら塗は誰でも気軽にできる
名刺の活版印刷にもべんがらは使える
モダンにもなり、わびさびもあるべんがらの魅力
べんがら塗の住まいにしたいなら
べんがら(弁柄・紅殻・ベンガラ)とは?
株式会社鎌倉設計工房で代表を務める建築家の藤本幸充と申します。 弊社ではべんがらを生かした住宅を数多く手がけております。現代にも生きるべんがら塗の魅力について、弊社の実例なども使いつつ、説明いたします。
対応業務 注文住宅、リノベーション (戸建、マンション、部分)
所在地 神奈川県横浜市西区
主な対応エリア 千葉県 / 東京都 / 神奈川県 / 山梨県 / 静岡県
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べんがらとは金沢や京都の伝統的町屋建築に塗られている塗料、と言えば皆さんにお分かりいただけますでしょうか?
下記の写真であれば窓の格子や扉、腰壁など木部に塗装されています。
べんがらは酸化第二鉄の赤い粉末(顔料)です。
昔は赤いべんがらにススを加えて黒に近い古色を出しましたが、現代では赤のべんがらを高温で焼成して、赤茶から黒に至る純度の高いべんがらが作られています。
ポイントは酸化第二鉄で、このために一見、黒に見えても光の当たり具合で紫を醸し出します。幽玄味のある素材です。
多くは黒っぽいべんがらが塗られ、金沢のある北陸エリアや、京都の関西エリアでは今でもその伝統が残っています。
古代より伝わるべんがらの歴史
赤い色がほしい時、陶芸の有田焼、赤絵に使われたり、漆芸では輪島塗に。そしてラスコーの洞窟壁画や高松塚古墳、縄文土器にまでさかのぼれるほど、実は昔からある素材です。
社寺建築にも多用された歴史があり、最近の事例では、宇治平等院鳳凰堂の平成期修理の際、赤いべんがらに塗りなおされていますので、ご覧になった方もいらっしゃると思います。(*)
江戸時代後期からべんがらは人工的に作られましたが、それ以前、千利休の時代はインドのベンガル地方から輸入したり、自然界の赤鉄鉱や赤土に含まれるものを使用していました。
*『大地の赤〜ベンガラ異空間』 (INAXライブミュージアムブック)を参照
現代版のべんがら塗は誰でも気軽にできる
粉末状の赤や黒のべんがらを水や柿渋などと混ぜて塗り終わってから色を定着させるため、菜種油を塗る伝統的な方法と、すでに調合されて一度塗りができる現代版とがあります。現代版は素人でも塗りやすく、建物完成後の維持管理もしやすいです。
当社の係わる住まいでは建築主が自らべんがら塗を行う場合があり、子供たちも一緒に家族で塗装したり、幅10cm長さ3mの外壁用杉板を一人で300枚塗った建築主もいれば、塗り始めるとあちこち塗りたくなり、とうとう床、壁、天井すべてを塗ってしまったツワモノもいらっしゃいます。
塗装作業を楽しめる人にはぜひ、薦めたいと思います。
名刺の活版印刷にもべんがらは使える
べんがらは粒子が細かく様々な利用ができます。
私は名刺にべんがらを使います。活版印刷は文字部分がへこむ味わいのある仕上がりです。印刷用のニスにこの赤いべんがらと煤(スス)をよく練り混ぜ、厚手の紙に印刷します。
写真右側は輪島塗の名刺入れです。
モダンにもなり、わびさびもあるべんがらの魅力
インテリアの壁や天井など、木の部分にべんがらを塗ると、色の濃さも手伝って陰影の美が現われます。柱、梁、屋根組みなど木を現した住まいに塗るとモダンなイメージになり、わびさびの感性も満たします。
自然の木の素地のまま、あるいは透明感のある飴色に塗るのもよいですが、あえてべんがらを勧めるのは、空間が締まって落ち着きエレガントになるからです。
室内に構造材を現わすとその中には杉、松、桧、他の針葉樹などが混在します。自然の木には節や赤身や白太など地肌の色味の違いや色むらがあり、時に目つくことも。
しかしべんがらを塗るとそれが統一されたプレーンな表情になり、日の当たり具合でいぶし銀のごとく木目が浮かび上がります。
その表情が美しいし、上品なインテリアになる、ここが大切です。
茶人・千利休の茶室「待庵」や月の名所の桂離宮、これらの柱や造作材に施されていたことからも、べんがらは伝統的に趣を感じさせる素材なのです。
そしてべんがらに白い壁を組み合わせるとエレガントでモダンなデザインになる、つまりべんがらは決して過去の素材ではないと思います。
べんがら塗の住まいにしたいなら
最後に、どのようにべんがらを取り入れるかを、弊社の実例をもとにご説明します。
べんがらを塗装するのは木の部分で、小幅の板材や合板、格子などの小さな材料にも塗ります。新築や増改修の場合は、今までご覧いただいた弊社実例などを参考に天井や壁、木製建具などに塗っていきます。
この際、他の仕上げ材とのバランスで塗装範囲を決めるとよいでしょう。木組みを現した天井や、軒裏の木部に塗ると先ほどの実例写真のようになります。
建築家や工務店には、効果を発揮しやすいような木組みのデザインをあらかじめ依頼しておきます。
自分で塗る際は、少しずつ塗る範囲を決めて塗ってゆくとよいです。天井面材は、あらかじめ地上で塗ってから大工さんに施工してもらいます。外壁に使用する場合は、耐久性を考慮すると軒の出のあるところが望ましいです。
もっとも木やべんがらは自然のものなのでいずれは朽ちてゆきます。それを味わいやわびさびの美意識としてとらえるのもよいでしょう。
ちなみに当社で使っているものの多くは、下記の製品です。
①べんがらを水や柿渋と混ぜ菜種油で色を定着させる伝統的な方法
べんがら | 山中油店オンラインショップ(外部サイト)
②あるいは、べんがらをミョウバン水で定着させる伝統的方法
古色の美(ナカジマ株式会社)(外部サイト)
③事前に調合されたもの
ニューわびすけ(株式会社愛企画 べにがらや部)(外部サイト)
等で取り寄せます。
なお、べんがらをインテリアに使う際の提案やアドバイスを当社では行っています。お宅を訪問しその場で内装について提案しています。提案イメージの手書き鉛筆画をその場で作成します。(一部屋5,000円から。工事見積りは別途です。)
対応業務 注文住宅、リノベーション (戸建、マンション、部分)
所在地 神奈川県横浜市西区
主な対応エリア 千葉県 / 東京都 / 神奈川県 / 山梨県 / 静岡県
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イメージ画を元にDIYで行ったり、知り合いの工務店に依頼するのもよいです。マンションリフォームなどにお役立てください。
写真は当社のマンションリフォーム事例です。(壁、建具、キッチンカウンターに塗装)
このように、現代の住まいにも調和する伝統的な塗料である「べんがら」。新築やリフォーム・リノベーションの際には、ぜひご検討いただければと思います。
SUVACOとは?
SUVACOは、自分の価値観と合うリノベーション・注文住宅の依頼先に出会えるサービスです。
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