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異常な地価と人工過密の東京、そのなかでも都心環状路線(山手線)の駅からわずか数分の敷地に建てられた10戸の賃貸集合住宅である。共用分をもたない長屋形式をとることで、法規制による敷地内にとるべき空地の面積を抑え、低層でありながら容積率を最大限利用している。そして低層化したことで木造を採用することができ、建築コストを抑えた。こうした事業性の面から建築ボリュームは決められたが、ディテールを簡素化することで木造的表現を極力排除しチープさを感じさせない仕上がりを目指した。
敷地の周囲は住宅密集地でありながらも、南面から西面にかけて商業施設(代々木ビレッジ)の著名作庭家の手による庭園が広がっている。めずらしい植物が茂るジャングルのようなその庭園とハイセンスな音楽や賑わいを感じながら生活できる空間にしたいと考えた。その為、庭園側には借景の為のフレームレスの大きなFIX窓と、わずかながらも賑わいを感じる為のバルコニーを設けた。開口の高さや位置はプライバシーを考慮し商業施設側からの視線を遮るようコントロールしている。各部屋の基本的な採光は近接した住宅からの視線を避けるように短冊状の壁の隙間に設けた縦スリット状の窓から確保した。これらの開口は内部空間の入隅に位置するよう配置することで室内に視覚的、空間的な広がりを感じさせる仕掛けにもなっている。
この敷地のもうひとつの特徴は袋小路の突き当りに位置していることである。
各部屋へのアプローチとなる敷地内通路は袋小路を延長するような配置とし、路地空間とともに空に広がりを与えた。そして突き当りの部屋の2,3階の窓は敷地内通路の幅いっぱい、高さもフルハイトとした。この大胆な窓の向こうには部屋を挟んで同じ幅の窓を設けている。すなわち住人がカーテンを開ければ袋小路に対しさらに空が抜ける。
かつてこの袋小路は本敷地に建っていた住宅によって堰き止められていた印象を受けた。
新たに広げられた空により、この袋小路にはこれまでと違う風や光がもたらせるはずだ。そして住人の気配によってつくられる表情のある風景が町に潤いを与えてくれるだろう。