住まいの性能 断熱編 vol.2は、住宅と健康の関係についてです。断熱不足がもたらす健康への影響は、ヒートショックなどが心配な冬だけでなく通年にわたります。
例えば、現役世代が抱えるプチ不調やストレス、QOL(生活の質)の低下など一見すると住まいと結びつかない障害も、住まいの断熱不足が原因の可能性があります。そこで今回は、これからの季節に気をつけたい体の不調と断熱の関係について考えます。
▽ 目次 (クリックでスクロールします)
夏の冷房時、開口部から熱が入る割合は73%
不快な温熱環境がもたらす健康への影響
自律神経の乱れも断熱不足から
夏のヒートショック、原因は温度差
住居で発生する熱中症の割合は全体の40%
梅雨には要注意、断熱不足はカビも誘因
テレワークとこれからの季節
夏の冷房時、開口部から熱が入る割合は73%
次第に暑くなるこれからの季節、室内環境に影響を及ぼす最大の要因が「日射熱」です。日射による熱の影響を減らすには、住まいの断熱性能を上げることが重要ですが、中でも開口部から室内に侵入する熱の割合は7割にも及ぶため、そのための対策は欠かせません。
開口部からの熱の出入りが大きいことは、多くの住宅で断熱性の低い単板ガラスが使われていることにも起因します。開口部を含めた家全体の断熱と夏の日射遮蔽対策が不十分だと、冷房での室温コントロールが効かず、不快な温熱環境が生まれてしまうのです。
不快な温熱環境がもたらす健康への影響
そもそも、体に不快な温熱環境とは、体からの熱移動が激しい状態を指します。断熱性能が低く、夏の日射対策が不十分な昔ながらの日本の住宅では 外気の気温がそのまま部屋の表面温度を左右するため、
・夏は暖められた躯体からの放射熱で暑い
・冬は冷たい躯体に体温を奪われて寒い
というように、高温から低温へと熱が移動していくことが、体が反応する不快感の正体です。
反対に、体にとって最も楽で快適な状態は、暑くも寒くもないこと。言い換えると、体からの熱移動が少ない状態であることです。断熱によって外気温の影響を減らすことで、熱移動が生じにくく心地よい温熱環境がうまれます。
自律神経の乱れも断熱不足から
では、これからの季節に特に感じやすい不調を中心に、断熱との関係を考えてみましょう。いつもなんとなく体調がすっきりしない、そんな不調の原因の多くが、断熱できずに外気温の影響をダイレクトに受けた夏の室内環境には潜んでいます。
冷え性、夏バテ、不眠、肩こりに頭痛……
猛暑の時期など、暑さに負けじとクーラーをかけた挙句、冷えすぎでだるくなってしまうなど経験がありますよね。熱帯夜になれば、日中の熱がこもった暑い寝室で寝苦しい夜を過ごす、クーラーをつけたままにしたら体が冷える、こうして体への負担が積み重なっていきます。
このように、体温が下がることによる免疫力の低下や、寒すぎや暑すぎなど、体温の調整機能に無理なストレスがかかることで自律神経が乱れ、さまざまな不調となって現れます。
参考 住宅事例)「家庭菜園を楽しむ家」(田所裕樹建築設計事務所 )
断熱とあわせ、夏場の日射遮蔽には深い軒などの対策が必要
夏のヒートショック、原因は温度差
ヒートショックは、主に冬の寒暖差が原因とされる問題ですが、寒暖差という点で、夏でも起こりうる症状です。例えば、屋根や天井の断熱不足、日射やベランダからの照り返しの対策ができていない戸建ての2階は暖気が充満しています。2階と冷房がきいた部屋など、夏の室内でも10℃程度の温度差が生じる状況では、ヒートショックへの注意が必要です。
参考 住宅事例)仕事場のある住まい|あなたの場所・自分の居場所づくり|個室と家族空間の結び目 ミニマムなワークコーナー(長谷川建築デザインオフィス|Hasegawa Design JP)
遮熱効果の高い外付けルーバーで日射をシャットアウトした注文住宅
住居で発生する熱中症の割合は全体の40%
炎天下の屋外で起こる印象がある熱中症ですが、住居内においても高い割合で発生しています。熱中症の主な原因は、高温多湿、風通しの悪い環境下などで、体温調節がきかずに体内に熱がこもってしまうことです。例えば、洗面所やトイレのように熱がこもりがちな個室など、わずかな時間でも悪条件が重なると起こり得るといいます。
猛暑の時期は、日中に壁面などに蓄えられた熱のせいで夜になっても室温が下がりません。壁が暖まったままだと、体からの放熱ができず熱を体内に溜め込んでしまいます。夜は室温が低いはずと考えがちなため、睡眠中では自覚がないまま発汗による脱水症状を起こすリスクもあります。
参考 住宅事例)「リノベーションでLCCM住宅相当に性能向上」(アルティザン建築工房 )
断熱された家では2階からのエアコンだけで家中が涼しい エアコンの風が直接体にあたらず熱帯夜も快適に眠ることができる
梅雨には要注意、断熱不足はカビも誘因
梅雨時期の相対湿度は、高い時で80%以上にまで上がります。このような高温多湿の空気を室内に持ち込むと、空気中は少しでも低温のものに触れればすぐに結露してしまうような緊張状態に!
さらに断熱不足や断熱欠損、防湿気密施工の不備などの問題が加わると、壁内に室内との温度差による内部結露を起こしてしまいます。内部結露は断熱材そのものの性能を下げるので、断熱性能がますます下がるという負のサイクルにはまってしまいます。
目に見える場所だけでなく、見えない場所もカビの温床がつくられて、喘息や鼻炎、皮膚炎などアレルギー症状を引き起こす原因となります。
参考 住宅事例:築34年「結露・カビ」の悩みを解決した「断熱リノベーション」(セキスイハイムグループの「マルリノ」)
断熱は丁寧な施工をされてこそ性能を発揮します
テレワークとこれからの季節
夏のテレワークの悩みの多くは、暑くて仕事に集中できない、または冷え過ぎてだるいなど、温熱環境に関わる問題です。長時間不快な環境にいることで、体に知らず知らずのうちに疲労負債がたまり、ますます効率が下がる悪循環に。仕事の効率も断熱性能と大きく関わっている、といっても言い過ぎではないでしょう。
冬の寒さを乗り越えたとたん、喉元過ぎたら……で断熱のことを忘れていませんでしたか。年間を通した体の不調の数々が、住まいの断熱性能と大きな関わりがありました。毎日を気持ち良く過ごすため、家族の健康のため、改めて自宅の性能に関心を持つことが必要ではないでしょうか。