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住宅やアパートが立ち並ぶ古い住宅街の一画、80坪の敷地に50代のご夫婦のための終の住処を計画した。
ご夫婦からの要望は極めて明快であった。二人だけの生活なので、家の中でのプライバシーは必要無く、ただ外部とのプライバシーはしっかりと確保して、家の中で自由な生活を楽しみたい、とのことだった。生活を便利にする機能的な要望は一切無く、むしろプリミティブな機能だけが要求された。これは純粋に空間の自由さを獲得する試みである。
部屋ごとに名前が割り当てられ、住人がそれに従って生活をする、そんな従来の住宅とは違い、住人の自由な意思によって、その場の意味が変わる、そんな空間が相応しいと思った。自由な空間と言って真っ先に思い浮かぶのは大きなホールではないだろうか?ただ、ホールは目的のある人にとっては自由だと言えるが、無目的な人にとっては途方に暮れて自由さが奪われてしまう。自由な空間とは、無目的な行動を受け容れて、自由な選択を可能にする、それは街路のような空間ではないかと考えた。街路では人々が思い思いに活動している。食事をする人、段差に座って本を読む人、木陰で休んでいる人、走り回って遊んでいる子供…。人がその時々に応じて場を選択し、そこに意味を与える。この自由さを住空間で実現できないかと考えた。そこで、街路のように連続的に変化して、行動を誘発する様々な要素が散りばめられた、多様性のある空間を目指した。季節や時間によって表情が移り変わる二つの雑木林、それを巡る8の字の回遊空間を基本構成とし、床仕上げ、床段差、天井高の変化、明暗の差などによって、連続した多様な表情をもつ空間を創り出した。機能と空間が直接的に結び付くキッチンや浴室も、連続する空間の中にさりげなく配置し、機能と場の関係性を薄め、あくまで空間の性質が場の選択の理由となる状況を創り出している。
施主が日々新たな空間と出会い、そこに空間との多様な関わりが生まれた時、真に自由な空間を獲得したと言えるのかもしれない。