2019/07/10更新8like14285view

著者:水沼 均

マンションリノベーションの間取りプランの考え方

この記事を書いた人

水沼 均さん

建築設計の学校で長年教師を務め、大勢の生徒さんと接してまいりました。年齢、経歴、そして住まいへの思いも大変多様で、他では得られない貴重な経験ができました。その経験を生かして、豊かな住まいづくりに役立つような記事をたくさん書いていきたいと思います。

マンションをリノベーションするのは、新築と同じくらいにポピュラーになりました。インターネットや雑誌などでも、膨大な量の情報に簡単にアクセスできます。しかし実際にリノベーションをしようとすると、何から着手すべきか、どうすればすてきな住まいになるかの方法は、なかなかまとまった形で見ることができません。そこで今回は、間取りの前に考えたいプランニングのコツについて解説します。

▽ 目次 (クリックでスクロールします)

部屋数が多いばかりが良さではない

マンションリノベーションを手がけるとき、まず真っ先に間取り作りから着手するのが一般的ですが、その際、とかく陥りがちなのが、部屋数を少しでも多く取ることに意識が向いてしまうことです。

リビング、ダイニングや家族の個室はもちろん、来客の際の客間や、宿泊する客のための寝室や予備室といった部屋まで、できるだけたくさんの部屋を詰め込もうと、つい考えがちです。実際、一般にはマンションの広さは3LDKや4LDKといった部屋数で示されることが多いですものね。

下の図は6LDKというたいへん部屋数の多いマンションルームの例です。部屋数は多いのですが、いかにも部屋が密集して並んでいる感じがして、かえって狭苦しく、生活感に乏しい気がします。

どう暮らしたいかをイメージする

ここで部屋数よりも大切なことがあります。それは、そもそも家族でどう暮らしたいのかをイメージして考えてみることです。

たとえば分譲マンションは不特定多数の住み手向けに売り出されているものなので、チラシなどを見ていても、特定の家族のために作られたという個性的な生活感は感じられません。ところがリノベーションをするということは、世界でたった1軒だけの、特定の一家族のための住まいを作ることに他ならないわけです。

ならば、できあがった住まいにも、その家族ならではの個性的な生活感が自ずとにじみ出るはずですよね。そしてその生活感こそが、住まいの豊かさだと思うのです。ぜひ、どんなふうに暮らしてみたいのかをイメージするところからリノベーションを始めてみましょう。

下の写真は、家族の個性的な生活感がよくあらわれた実例です。ワンルームの中に食事の場、くつろぎの場、そして子どもさんの勉強の場が柔らかく共存しています。場所によって天井高を変えたり、細部までよく検討された造作家具が場所の個性を作り出しています。
また下の例では、キッチンが部屋の中央にあることで、調理や片付けをしながらいつも家族みんなを見渡すことのできる場所になっています。既存柱も、学習机とともに立派に勉強の場として住まいに参加しています。これらも住み手の個性的な生活感のあらわれと言って良いでしょう。

家族の居場所と接し方を考えてみる

さて、どんなふうに暮らしてみたいかと言っても、少し抽象的ですよね。もっと具体的に考えてみましょう。

まず、家族の居場所、家族同士の接し方を考えるところから始めてみましょう。家族がみんなで過ごすとき、どんな場所でどのように座を囲んでいたいか。あるいは夫婦、親子、兄弟などで接するときの雰囲気をイメージしてみるのです。

例えばお母さんがキッチンで夕食の準備をしているとします。そこに子どもさんが学校から帰ってきました。そのとき、もしキッチンが独立した一室だったとしたら、もしかしたら子どもさんが帰ってきたことすらもお母さんは気がつかないかもしれません。

しかし、もしも玄関から子ども室に行く途中にオープンなキッチンがあったとしたら、どうでしょう。きっとそこに会話が生まれて、夕食前の楽しいひとときが誕生するかもしれません。どんなふうに暮らしてみたいかというのは、例えばこんなことです。

こうしたことをできるだけたくさんイメージして、メモに書き出してみましょう。それこそ朝起きてから夜寝るまでのすべての生活行為をイメージしてみるのです。お風呂から出てどこで髪を乾かすのかとか、ダイニングチェアに座ると真正面に何が見えるかといったことまで、たくさんのことがきっと具体的に見えてくれるはずです。

例えば下の写真では、キッチンカウンターの横に子どもさんの勉強スペースを設けています。夕方時や休日の家族の過ごし方が目に見えてくるような、生活感豊かな住まいです。こうしたアイデアは、機械的に間取りを作ってしまっては決して生まれ出てこないものなのです。

大まかに部屋の並びを描いてみる

さて、生活のイメージがいろいろと沸き上がってきたら、これをもっと具体的にプランの上に反映させたいですよね。そこで、今度は大まかに部屋の並びを考えてみましょう。

部屋の大きさは気にせず、収納や建具のことなども細かいことは気にせずに、部屋をただの丸印として、大まかに並びを描いてみます。

そうしますと、考え方次第で何通りもの並び方ができることに気がつきます。マンションリノベーションは限られた枠組みの中での住まい作りになりますが、それでも実際に考えてみると、部屋の並びのバリエーションは何通りもできあがります。

こうして作った部屋の大まかな間取り図は「ブロックプラン」と呼ばれるもので、実際建築家たちが設計の初期段階でたくさん描いて検討しているものです。

下の図は、あるマンションリノベーションのブロックプランの一部です。マンションルームの中に簡単な丸印だけで主な部屋をレイアウトしています。何通りものパターンを作って検討していることがわかります。

人の動きを描き込んでみる

さてブロックプランを作ってみたら、次はそこに、家族たちの動きを線で描き込んでみましょう。これも建築家たちが「動線図」と呼んでラフな検討の際にたくさん描いているものです。

人の動きを描き込んでみますと、そこでいろいろな発見をすることができます。長い廊下ができたり、人の動きが集中する場所ができたり、意外な楽しいひそみのスポットができたり、などですね。

下の図は、上に挙げたブロックプランに主な家族動線を描き込んでみたものです。線を描き分けて動線の強さや範囲をあらわしたりしています。

合理性よりも、住まう楽しさを重視して動線図を読む

ここまで来ると、先ほど考えておいた、どう暮らしたいかのイメージ・メモが役に立ってきます。

動線図で見るとやたら動線が集中してしまっているような場所でも、考え方によっては家族が行き交う楽しい場所になることができます。長い廊下も、少しだけ幅を広げればスツールなどを置いてミニギャラリーのような楽しい場所になるかもしれません。メモにどんな生活風景を書き込んだか、そしてそれらが動線図のどのあたりで実現できそうか、ぜひ照らし合わせてみてください。

つまり、動線図は必ずしも機能性・合理性をチェックするためのものでなくても良いのです。便利かどうかももちろん大切ですが、それよりも、楽しそうな場所ができあがってくれているかが動線図チェックのいちばんのポイントになるのだと言えるでしょう。

下の写真では、LDKと水廻りをつなぐ廊下の幅を通常よりも少し広めにとっています。結果ただの通路ではなく、明るくて開放的な書斎スペースができあがりました。家族の場所、楽しい場所というものは、このように一部の寸法をちょっと変えるだけでも作り出せてしまうんですね!
また下の写真では、玄関のすぐ脇に主寝室を置いています。さらに壁一面の大きな建具まで設けています。間取り図だけで見てしまうと何だか落ち着かなさそうですが、実際にこのように見てみると、奥にいる家族とのつながり感をいつも感じながら楽しく暮らせる場所になっていることがわかります。寝室への専用動線と玄関土間を、低い下足入れで仕切っているところもすてきですね。
リノベーションといえば真っ先に間取りと考えがちですが、実は間取りの完成に至るまでに多くのステップがあることがわかりました。家族の生活風景をイメージし、部屋をラフに並べ、動線を描き込んでそこに生活風景を重ね合わせてみる。よく「プランニング」という言葉を耳にしますが、プランニングとは必ずしも間取り作りとイコールの言葉ではありません。ここで紹介したようなステップを経て最終的な間取り作りへと着地していくこと、これこそが真に豊かなプランニングの極意なのです。
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