2021/10/28更新0like8383view

著者:熊井博子

「訪ねてくる人の9割は、玄関まで」。だったら丁寧に考えたい、玄関&アプローチ

この記事を書いた人

熊井博子さん

ビルダー・建築設計事務所に営業/広報として勤務した後、住宅専門誌の編集を経て、住宅関連の執筆と一般の方の家づくりサポート等に従事。インテリアコーディネーター、照明コンサルタント。

「家を訪ねてくる人の9割は、玄関まで」。昔ある人に言われたことがあります。
考えてみると確かにそうだと思いませんか。郵便配達、宅配便やウーバーイーツ、回覧板を届けてくれるご近所さん。家の中まで入ってくるのは気心知れた限られた人ばかり。となると、多くの人が見ているのは玄関とアプローチ。ここはきちんと考えておく必要があるかもしれません!

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家主が見える!? あなどるなかれ、玄関&アプローチ

住宅街を歩いていると、「なんかいいな」と思わず歩を進めてみたくなるようなアプローチに出会うことがあります。奥にちらりと見える玄関までの道のりがなんともそそる雰囲気で、「ここにはどんな人が住んでいるんだろう」と想像が膨らむのは、誰しも経験があるのではないでしょうか。

そういう場合、「きっとオシャレな人に違いない」「ものすごくオトナなんだろうな」と、“素敵な人前提”で、見も知らない家主に憧れの念を抱くこともあるかもしれせん。あまり憧れられると家主も顔を出しにくくなるかもしれませんが、それは家主の“映し鏡”のなせる技。

実際、素敵だなと感じる玄関やアプローチのある家は、雰囲気のある素敵な人が出入りしていることが多くて、別の意味で「どういう人が住んでいるんだろう」と思わせる家には、やはりなるほどと思う人が出入りしていることが多いような気がします。

「玄関&アプローチは、家主の映し鏡」。これは建築家の恩師から繰り返し言われた言葉ではありますが、案外大げさでもなくて、よく言い得ていると感じます。映し鏡と言われると、怖気づいてしまいそうですが、案ずることなかれ。そこにはちゃんと道理があって、知ってわきまえればむしろ自信すら出てきます。

「家主の映し鏡」で「訪ねてくる9割の人が来るところ」。心して臨みましょう!

「内」と「外」のギャップをどうつなぐ?

外ではきりりとした表情で過ごした人も、家の中では肩の力を抜いて過ごすはず。よそゆきの服ではなくて、イージーウェア。髪を整える必要もないし、メイクもなし。すっかり素になって過ごしています。それが、玄関から一歩出たらそういうわけにはいかなくて、仕事に行くなら仕事の顔・学校に行くなら学校の顔をして、気持ちや意識を整え外の世界に出ていかなければなりません。

そう考えると、玄関やアプローチは単に出入り口とか通路というだけではなくて、大きなギャップのある「内」と「外」をつなぐ役目を果たしていることがわかります。言うなれば、玄関はふたつの世界の「境界」で、アプローチはふたつをつなぐ「緩衝帯」。ここがどうつながるかで、「内」と「外」を行き来する人の負荷は結構違ってくるのです。

もてなしの場、アプローチ

人の家の門をくぐったとき、他人のテリトリーに足を踏み入れたのを実感することがあります。それほど親しくない人の家なら、アウェー感に苛まれることだってあるかもしれません。

そんなとき、気持ちの支えになるのが、アプローチ。緊張しながら「内」と「外」の間を歩く人の気持ちをほぐし、ゆっくり家の雰囲気になじませてくれます。

実際、紅葉した木の葉が目に入ればちょっと和むし、きれいに掃き清められていれば家主が待っていてくれたのを感じてうれしくなります。老舗の旅館や料亭が、ゆったりとしたアプローチを構えてあえて歩く場所をつくっているのは、おもてなしの表現であると同時に客が気持ちを整える時間をつくるため。敷地の外の「現実」からきた客が、歩きながら馴染んで扉の向こうの「異世界」にすっと溶け込めるようにという店主の心配りでもあります。

アプローチは、家主の気持ちや心配りが現れるところ。
家の「内」と「外」の間を行き来する人の気持ちにも目を向けて、家主なりの「ようこそ」や「おかえりなさい」を表せたなら、誰にとっても心地いいアプローチになるはずです。

出会いの場、玄関

誰かの家のチャイムを押してドアが開くのを待つひと時は、なんとも落ち着かないものです。ドアが開いて「いらっしゃい」と笑顔に迎えられる瞬間は、どれだけ救われる思いがするかしれません。家主にとっても、待ち人を迎えるうれしいひと時です。

そんなとき、両者の気持ちを後押しするのが場の雰囲気。その空間が爽やかだったら気分も爽やかに、落ち着いた雰囲気なら落ち着いた気分で顔を合わせることになります。要は、空間次第でシーンを演出できるのです。

以前訪れた名建築家の自邸で、薄暗い通路を抜けると突然光の差し込む鮮やかな玄関が広がり、一気に気分が舞い上がる体験をしました。もしここに生前の家主がいたとしたら、顔を合わせるその瞬間はどれだけドラマチックだったかしれません。そこまで計算してシーンを演出する建築に、ただただ驚くばかりです。

ドラマチックにとは言わないまでも、家主からすれば「待ち人来る」瞬間、来訪者からすれば「会いに来た人に会う」瞬間。人と人の出会いの場面と考えたら、考え方もあり方も、ちょっと違ってくるかもしれません。

「ストーリー・イメージ」のススメ

大きなギャップを行き来する人は、目に入るものに感情を揺さぶられながら不安な気持ちを整えようとしています。そこへの配慮や心配りが家主の人となりとして表れて、他者に伝わっていくのもまた事実です。

そうしたことを踏まえて家を考えるのはとてつもなくハードルが高いと感じるかもしれませんが、すべきことは案外シンプルです。ひとの動きと気持ちの変化を丁寧に考えてみればいいのです。
ちょっとピンとこないなと思ったら、いろいろな家を訪ねて自分の気持ちの変化をつぶさに観察してみるのもひとつです。その上で、具体的なストーリーをイメージしてみてください。

知り合いが、初めて訪ねてくるとき・見送るとき。
朝、「いってきます」と出かけていく自分や子ども。
何かしらの出来事を経て「ただいま」と帰ってくる自分や家族。

するとその場の気持ちが見えてきて、どうだといいか・よくないかがわかってきます。あとは、心得のある設計者とタッグを組むだけです。

実際、設計者ははじめからそうしたことを意識して設計しています。案外、その配慮に気づけないのは施主の方。「ああしたい」「こうしたい」とせっかくの心配りを台無しにしてしまうことのないよう、こちらもしっかり心得て準備すれば、きっと素敵な玄関&アプローチができるはずです。

玄関&アプローチは、「家主の映し鏡」で「訪ねてくる人の9割がくるところ」。
ちょっと意識を高く持って、丁寧に考えてみませんか。
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熊井博子さん

ビルダー・建築設計事務所に営業/広報として勤務した後、住宅専門誌の編集を経て、住宅関連の執筆と一般の方の家づくりサポート等に従事。インテリアコーディネーター、照明コンサルタント。

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