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大きな家ですね~と思われる方も多いようです。私もそう感じます。平屋だからかな?庇も大きいしね。でも実は延べ床24坪のお宅。床面積をあまり広げず、外部と伸びやかに繋がる空間構成、大工さんや職人さんたち手づくりの痕跡を大切にした住まい。家族構成は、夫婦二人+子供三人。縁側が欲しい、子供は各自個室、小上がりの畳の間(2人寝れる客間)が欲しい、アップライトを置きたい、ハーフバスが良い、オールステンレスの対面式キッチンが良い、使い勝手の良い収納計画、床は厚30mmの無垢、外壁は焼杉、等々。さてさて、そんな全ての要望が叶うものか、、、私にとっても挑戦的であり、かつワクワクしながら進めてきたプロジェクトです。
当初の建主さんの要望は、農家のような佇まいと平屋。岩手県出身の奥さま、そして岩手の大学で知り合ったご夫婦です。岩手の伝統的な農家といえば『南部曲り家』ですね。曲り家のことは、もちろんご夫婦も知っていて、お話ししたところ「そんな家が建てられると良いですね~」と。曲り家とは、母屋と馬屋がL字型に一体化された形式の家屋のこと。もちろん馬屋を設けるわけではありませんが、L字型プランの伸び伸びとした平屋建てにしようと、土地探しの段階から相談を受けてのスタートでした。農家のような佇まいと言いつつも、それを模倣するわけではなく、それらに影響を受けつつ、思想を受け継ぎながら、現在的な、そしてその家族にあった住まいを目指して進めてきたプロジェクトです。
屋根を支える垂木が、外部の軒先まで延びているデザイン。内部外部とも天井は貼らずに、垂木を表しに。住まいを包み込む構造的な安心感をもたらすとともに、大工さんによる手間暇を掛けた美しさの表れ。大きな屋根が家族の夢を包み込んでいます。
道路に面した北側の外観。玄関の位置は、道路からの引きを取り、奥まったところに配置。豆砂利洗い出しのアプローチを屈曲しながら、奥へ奥へと導かれます。シンボルとなる植木は二本。一本は、奥さん好みのモミジの株立を勝手口の前に。もう一本の植木は、ご主人好みのアオハダの株立を玄関の前に。モミジの紅葉、アオハダの赤い実は、その季節になると黒い焼杉を背景に映えます。この二本の間を縫って玄関へと至る小路を演出。
玄関扉は建具屋さんの製作。黒い焼杉とのコントラストが美しい。扉を開けると、正面には掃き出し窓。土間を通り抜けて、南側のお庭に出ることができます。正面には格子戸を設けており、プライバシーをゆるやかに保ちつつ、差し込む陽射しが印象的。玄関手前の右手に見える格子は、和室地窓のプライバシーを守るため設えです。
壁紙は、柿渋和紙(墨灰)と彩色和紙(薄紅)の市松貼り。一枚一枚に個性があり、セレクトが難しい素材。基材となる和紙は手漉き。そのテクスチュアと、柿渋、膠の溶け込み加減によって見た目にバラつきがあります。それは塗った日や人によっても異なり、同じ色調に揃えたければ、同じロットを指定する必要があるのです。小さなカットサンプルを見ているのと、大判で見るのとでも、その印象は大きく異なります。それが自然素材の良さであり、楽しみ。照明スイッチは真鍮鋳物のトグルスイッチ。
室内に入ると、連続する垂木(梁)が印象的な空間。垂木のサイズは57×21mm。垂木は外部の縁側まで伸びています。垂木が現しになっているため、天井が高く、美しい架構が見え、内部と外部とが一体に感じる設えになっています。
キッチン側から室内を見返した様子。コーナー柱のない和室。小上がりの畳スペースの2面に障子を建て込んでいるのですが、その角に柱や吊束は設けていません。つまり鴨居が宙に浮いている訳ですね。空間に一体感を持たせるためには、仕切りはない方が良いのですが、来客時の寝泊まりを考えると、仕切りを設けたいと建主さんの要望。設計サイドでディテールを考えて施工サイドに指示するのですが、大工さん泣かせな仕事かな???と思いきや、難なく作ってくれました!機能的にも視覚的にも邪魔にならず、空間が広く感じられると好評です。
夕暮れ時、障子を閉めて、照明を灯した様子。障子から漏れる灯りは、大きな行燈のようでもあります。ダイニングテーブル上のペンダント照明は、アングルポイズのレトロクラシック(84年前の復刻モデル)。元々はスプリングの製造会社。その工場で働く社員のために作られたスプリング式アームランプの実用性が脚光を浴びて誕生したメーカーであり、現在も色褪せることなく世界中で愛されています。そのランプシェードをペンダントにしたもの。手づくりの痕跡を残すことを大切にした住まい。インダストリーな照明器具も、この家の雰囲気にマッチしていると思います。
キッチンは暮らしの要。使い勝手の良さは大切です。オールステンレスで、傷が目立ちにくいバイブレーション仕上げ。ペニュシュラの対面式で、サイズは2700×850mm。存在感があります。背面カウンターは造作。ゴミ箱を4つ置けるスペースを確保。正面には木製引戸の勝手口を建具屋さんの造作してもらいました。勝手口を開けると、正面には奥さま好みのモミジが植わっており、その足元にはハーブ。お料理に使うこともできますね。
浴室はハーフバスユニット。腰下がユニットバス、腰上は在来で自由に作れるという浴室。防水工事が要らないので、施工性も優れています。壁と天井には、水に強いヒバの縁甲板。香りが良く、精神安定、抗菌、防虫、消臭、脱臭効果があるのが特徴。ハーフバスユニットは出入り口を自由に作れるのも魅力。水に強いヒバの框で作った引戸。引戸なので、開け放しておいても邪魔にならず、洗面室と一体感があります。
右手に2部屋、左手に2部屋、計4つの個室が面した中廊下。廊下というと、裏方と言いますか、、、空間としての設えが疎かになりがちなところではありますが、毎日通る場所ですので、気持ち良い空間にしたいもの。高い天井が特徴的で、家全体を包み込む垂木が表しになっています。正面は掃除機などの日用品を入れておく収納。中にはコンセントも配置しています。ちなみに照明器具は、和紙調のものをセレクト。夜の灯りも雰囲気いいんですよ!
みんなが集まるリビングと個室群は、L型に配置されているので、双方向的に窓の向こうに自分の家を臨むことができます。L型の建物に囲われたお庭を共有しつつ、個室からリビング、リビングから個室、適度な距離を保ちつつも、ひとつ屋根の下に互いの存在を認識し合う程よい関係となっています。曲り家ならではのメリットですね。
畳みスペースの一角には、読書やパソコン用のデスク。足元は、腰掛けしやすいように掘り込んでいます。子供たちは、この小上がりの畳スペースがお気に入りのよう。この家で暮らしていると、ソファを欲しいとは思わないそうです。団欒はダイニングテーブルを囲み、寛ぎたい時は畳スペースでリラックスし、気分転換の時は軒の深い縁側に腰掛けられるので。奥さまはピアノを奏で、ご主人は庭いじり。子供達は、くっついたり、離れたり、家族それぞれが思い思いの時間を過ごしているようです。