注文住宅

対岳荘

実施エリア:

群馬県

実施時期:

2011年竣工

延床面積:

155平米

内容:

場所は高台に位置する閑静な住宅街で、計画地は東側が崖地に面しています。麓には利根川が流れ、正面には前橋市のシンボル『赤城山』を望めるロケーション。
施主は「赤城山の雄姿と前橋市の街灯りを見ながら暮らすこと」をテーマに、この土地を購入。設計者として与えられた課題は、当然、この立地条件を最大限に活かすことでした。

ロケーション

建設地は、群馬県前橋市。
場所は高台に位置する閑静な住宅街で、計画地は東側が崖地に面しています。
麓には利根川が流れ、正面には前橋市のシンボル『赤城山』を望めるロケーション。
施主は「赤城山の雄姿と前橋市の街灯りを見ながら暮らすこと」をテーマに、この土地を購入。
設計者として与えられた課題は、当然、この立地条件を最大限に活かすことでした。

前面道路側の外観の様子

この様な立地条件の場合、外部空間(前面道路・街並み)からも景色(山)を見せる設計スタンスか、それらとは一度縁を切り、内部空間に入ってから景色を見せるスタンスかの選択を迫られます。
建築を構成するには、当然、床、壁、天井があります。これらに開口部を設けて開放性を調整する訳ですが、今回の敷地の場合、住宅街に対するプライバシー確保のこともありますが、後者の方が赤城山との精神的な一体感を高める意味で適していると考えました。
赤城山に面した一面以外の五面は閉鎖的な構成とすることにより、赤城山への精神的な方向性が増しつつ、同時に身体をシッカリと受け止め、包み込む器としての包容力ある空間を目指しました。

ということで、前面道路側は窓の少ないデザインです。玄関を入ると「赤城山」が、個室に入ると「赤城山」が、階段を上がると「赤城山」が、リビングに入ると「赤城山」が、そしてお風呂に入ると「赤城山」が、という眼前に「赤城山の風景」が広がる演出です。
そんな内部空間に入った時の感動を高めるため、前面道路側の外観は、白壁と板壁とで構成し、開口部を少なくすることにより、プライバシーを確保しつつ、一歩中に入ると雄大な赤城山を望める空間構成としました。

初めてプランを提案した時、「白壁と木で包まれた箱型の外観に魅せられました」と、建主さんから嬉しいお言葉を戴きました。

少し広めに作ったエントランスホール兼ギャラリー

元々、建主さんは広い玄関を要望された訳ではありませんが、玄関を入って、赤城山が見えると気持ち良いだろうなと思いました。
そこで玄関の奥行きを長くし、正面は全面開口部、その向こうには竹縁を設け、赤城山への眺望を意識した空間構成としております。

建主さんは、プランを見て「これなら、手持ちの絵が沢山掛けられる。ギャラリーも兼ねましょう!」と。両サイドの白い壁には、お気に入りの絵が飾られています。 春夏秋冬に応じて、絵を掛け替えるそうです。

照明は天井に埋め込まれたライティングダクトにてスポットライトの位置は自由。足元には間接照明。玄関が浮いて見え、とても良い雰囲気です。
土間部分の床仕上げは、日本の伝統美、黒いぶしの『敷瓦』。

玄関の正面にはベンチを設けております。靴を脱ぎ履ぎする際に座れるよう、高齢者対応で提案しました。使われ方として、花瓶を飾ったりも出来ますし、赤城山側に向いて座り、ゆっくりと読書や月見なども出来ます。お気に入りの絵に囲まれながら。

客間として使われる和室入口の様子

床の高さは1FLより15㎝高くし、趣を変えております。正面の障子を開けると、赤城山が一望できます。右手に見える丸窓は、当初よりの施主希望。丸窓を開けると前橋市街が見渡せます。
この丸窓のある和室を建物1階南東角のベストポジションに配置しました。

障子は、壁の中に隠れる引き込み障子となっております。障子を閉めると落ち着いた感じで雰囲気良し、障子を開けて赤城山と庭を眺めるのも良し。

お客さまには、初め障子を閉めた状態で入ってもらい、入ってから障子を開けて赤城山を眺めてもらう。そして夜には庭をライトアップして、のんびりと寛いでいただく。「おもてなし」の演出です。
シチュエーションに合わせて、お楽しみいただけるよう設計しました。

和室に入って、奥からの見返しの様子

右手の収納扉もデザインしました。建主さんの好きな『青』を基調とし、シルバーとの市松模様でモダンな仕立てに。小さなドットを配した曲線は、敷地の麓に流れる利根川の流れを模しております。
右手奥の扉は、和室の入り口。同様でデザインを揃えました。

床の間は、床框、床板、床柱、落とし掛けを備えた『本床』。床框・床板は漆黒の『漆』。床柱は天然磨き丸太(杉)の無塗装。落とし掛けは見付をスッキリ見せる『刃掛け(はっかけ)』加工。床の間の背面壁は、収納扉の『青』と色合わせした特注色の珪藻土。

床は『琉球畳』。イ草の香り(臭覚)と、その肌触り(触覚)に癒されます。
天井は、落着きと高級感漂う神代色の『網代天井』。編み方は、特注の『亀甲模様』。
壁は、空間の『しつらえ』を引き立たせる白い塗り壁『珪藻土』。
照明は、天井には設けず間接照明のみ。神々しい神代色の網代天井を活かすためです。

赤城山の景色を眺め(視覚)、利根川のせせらぎに耳を傾け(聴覚)、美味しいお茶を味わう(味覚)。まさに人間の五感を楽しませる空間です。
六畳ほどの和室(客間)ですが、高級旅館の和室を思わせる少し贅沢な造りとしました。

手前がリビング、その奥がダイニングキッチン

キッチンは家の心臓部。建主さんからの要望は、調理しながら赤城山が見えるキッチン。拘ってオリジナルの特注製作です。
『2.7mのアイランドキッチン』と『3.5mの壁付キッチン』とが2列平行に設置。天板は、真っ白な人造大理石。扉などの面材は、松の天然木浮造り仕上げ。『浮造』は、木目の凸凹を浮かび上がらせ、見た目を美しく見せる技法です。

アイランドキッチン奥の白い壁に囲われた所に冷蔵庫。壁付キッチンの手前の茶色い壁に囲われた所は、建主さん希望の卓上食洗機。ともに使い勝手の良い配置計画とともに、来訪者の目に入らないように壁の裏に隠しております。
色合せだけでなく、機能と形態が、建築と一体になるよう、キッチンの設計をしました。

置かれている家具は、建主さんと一緒にショールームを廻って選んだもの。ダイニングチェアは、ハンス.J.ヴェグナーの『Yチェア』。1949年デザインの不朽の名作です。座り心地は抜群。疲れません。

こちらのソファは30cmと低いのが特徴。通常のソファのシート高さは40cm前後。モダンな家だと後者でOKですが、和モダンだと低い方が落ち着きます。実際に座って、寝転がって、リラックス感を確認して選びました。 『ローテーブル』や『テレビボード』なども統一して。

そしてオリジナルのダイニングテーブル。サイズは1000×2700。沢山の方々とテーブルを囲んで食事することが出来ます。

LDKから赤城山側の外の景色を見た様子

開口部については、当初より建主さんの要求がありました。「大きな窓、出来れば境目なしの額縁のような。ただし風通し良く、空調に頼らない。利根川のせせらぎも聞きたい」と。

住宅用の既成サッシでは、要望に応えられないので、木製特注のオリジナルで制作しました。9尺のFIX窓と、3尺の引戸の組み合わせ。高さは2400mmです。フレームレスの大開口と、風を取り込むテラス出入口。スッキリと実現しました。

床は『メープルの無垢フローリング』。床暖房を採用しているので、通常の無垢フローリングは使えません。そこで今回は、無垢の繊維方向を交互に貼り合わせた3層フローリング。反り、膨張、伸縮などの安定性が良いので、幅154mmの幅広材として使え、高級感があります。
色は、基材を真空釜でサーモ・加熱処理することにより出した自然なダークカラーのアメ色。芯までアメ色なので、傷を付けてもアメ色です。着色料は一切使用しておりません。
仕上げは、亜麻仁油ベースの体に優しいワックスで、木の質感を大切にしております。

天井は『煤竹』。一本の長さは、約5.4m。もちろん、そんな長い竹は無いので、サヤ管状に繫いでいます。 節の所でジョイントしているので、全く繋目は分りません。
竹は自然の物なので、決して真直ぐではありません。太さもマチマチで、節もあります。天井に貼る際に、矯正しながら、ラインを出して、しっかりしたステンレスビスで丁寧に貼っていきます。職人さんが手間を掛けた美しい天井です。

床、天井の貼り方向は、通常、長手方向に貼るのですが、ここでは反対に短手方向に貼っております。これは大きな開口部に面したテラスと、さらにその向こうに存在する赤城山への視線の方向性を助長するためです。

麓に流れる利根川の流れに耳を傾け、緑の絨毯のように広がる木々の上に浮かび、ただただ、赤城山に向かって身を委ねる。そんな空間を目指しました。

深い庇のバルコニー

バルコニーは床、庇とも一間(1820mm)飛び出しております。庇の出が大きいので、夏場の日よけ対策になります。

写真左手、夏は緑の絨毯の上に浮かんでいるようで、冬は葉が落ちて、利根川の流れが望めます。正面には前橋市街が広がっており、花火大会なども楽しめます。

夕暮れ時にバルコニーから見るLDK

軒天の仕上げはLDK同様、煤竹。
枠周りはフレームレスな納まりで、空間が分断されず、一体感があり、より大きく感じます。

階段スペース

下が1階から2階へと上がる階段。上が2階から屋上へと上がる階段。屋上へと上がる階段は、蹴込板なしのストリップとしました。
写真手前はガラス張りになっており、階段を上る際にも赤城山が望めるようにしております。
また昼間は、ペントハウスからの明るい光が一階まで降り注ぐようにも考えました。

引渡し後の建主さんからのメールを紹介します。
前略〜余談ですが、先日夜、3Fの階段灯のみ点灯した状態で、2Fから1Fに降りようとしたところ、3階から2階の階段の隙間から光が放射線状に両側の緑の壁にのびて、なかなかよい雰囲気でした。 隠された仕掛けに驚き、喜んだ次第です。

そこまで意図して設計した訳ではありませんが、好評の様です。
壁は、1階からペントハウスまでの3層分が、吹抜け状態で繋がっております。ストリップ階段にしたのは、ダイナミックに繋がる壁の連続性を表現したかったこともあります。
この大きな壁面は、山葵色の珪藻土の櫛引仕上げとし、象徴的に取り扱っております。山葵は清流にしか育たない植物。階段の上り下りが爽やかな気持ちになります。

客間の傍に設けた1階トイレ

客人が、朝起きて顔を洗ったり、お化粧をするパウダールームとしての利用も想定されるので、少しお洒落感を持たせました。

建主さんより、「いま使っている便器がグリーンなので、こちらでも便器をグリーンにして欲しい」と。私は「今時の便器は白でしょ!」と、先入観を持っていたのですが・・・。そこで便器の色と合わせて、正面の壁もグリーンにして統一感を持たせ、和モダンなトイレに仕立てました。

夜桜をイメージしたトイレ

1階がグリーンなら「2階はピンクにしましょう!」と私の方から提案しました。建主さんは???って感じで「別に良いですよ」って(苦笑)

1階同様、2階も正面の壁をピンクにして統一感を持たせました。ピンクというよりもサクラ色です。1階のコンセプトは『若葉』、2階は『夜桜』です!

洗面器は、1階は『墨染』、2階は『素白』と色を変えて、チョットしたことですが雰囲気を変えております。水栓は、上部を押すと吐水し、自動的に止水する自閉立水栓。手摺も設けて、バリアフリー対策も万全です。

浴室は疲れを癒す場所

浴室の位置は、赤城山と前橋市街とが一望できる2階南東のベストスポットに配置。大きな窓から光も沢山入るし、景色も最高です!

床は十和田石、天井はヒバ、テラス軒天は煤竹、これらの素材を引き立たせるため、壁は真っ黒いタイル貼りとしました。

浴室のみならず、浴槽も特注製作です!建主さんは『檜風呂』を希望されましたが、メンテナンスが・・・。そこで檜は、浴槽の框と外部側板に用い、浴槽内部は、浴室床材と同じ『十和田石』としました。一体感があります。十和田石は、水に濡れると青く輝き、肌触りが良く、暖かみもあります。

写真右手の檜框の少し窪んだ箇所は、水のオーバーフロー部。檜框は、入浴時に頭を置いたり、出入りする際の腰掛としての機能になります。背もたれ部分は、もたれ易いようにナナメに。浴槽への出入りは、高齢者が使うこともあるので、壁には手すりを設けてあります。奥の段差は、出入りし易くするためのステップです。

『浴槽の深さ』や『背もたれの角度』による浸かり心地は。『エプロン高さ』や『ステップの配慮』による入りやすさは。『耐久性』や『メンテナンス』、などなどを検討したオリジナルです。

自宅で愉しむ旅館のお風呂

『木と石』の自然の風合いを活かした浴槽。まさしく、自宅で愉しむ旅館のお風呂です。
朝は赤城山の雄姿を望みながら。夜は前橋市街の街灯りを望みながら。
ついつい、長湯してしまいそうです。

アプローチの夕景

本住宅は、前面道路側からのプライバシーを確保しつつ、一歩中に入ると雄大な赤城山を望める演出としています。そんな内部空間に入った時の感動を高めるためには、アプローチの計画も重要と考えます。

アプローチの飛石は360□の白御影石とし、その周りには佐久の鉄平石を敷き詰めております。アプローチは駐車場一台分5.3mの奥行きと長くはありませんが、竹柵を設けることにより、 植栽を守るのと同時に奥行き感を作り出しました。

植木は『植木のまち』安行を建主さんと一緒に巡って、自らの目で確認し、気に入った物を選んでいます。正面から見て左側にシダレザクラ1本、右側にモミジの株立ち2本を植えて、ゆくゆくはアプローチに覆いかぶさり、トンネル状になることを期待しています。

シダレザクラの足元は、御影の縁石で格子を組み、市松に那智黒とサツキ・ヒメクチナシの刈り込みを植え、モダンな前庭を演出しました。

駐車場の床は那智黒の洗い出し。ただ駐車スペース全面ではアプローチに対し、ボリューム的なミスマッチと感じたので、スケールを分節させる意味で中央にタマリュウをボーダー状に植えました。

ライトアップによる白壁に映し出されたモミジの影に心和みます。