2017/08/26更新0like25268view

著者:水沼 均

引き違いは実はとっても奥深い!便利で楽しい引き違い建具を使いこなそう

この記事を書いた人

水沼 均さん

建築設計の学校で長年教師を務め、大勢の生徒さんと接してまいりました。年齢、経歴、そして住まいへの思いも大変多様で、他では得られない貴重な経験ができました。その経験を生かして、豊かな住まいづくりに役立つような記事をたくさん書いていきたいと思います。

引き違いは、窓やテラス窓、室内の障子などに用いられるもっとも一般的な開閉方式です。あまりに一般的で普通なのでついつい見落としがちですが、実は引き違いはとても便利で理にかなっていて、そして魅力に満ちあふれた存在なのです。ここでは、そんな引き違いの便利さと魅力を改めてじっくりと考えてみましょう。

▽ 目次 (クリックでスクロールします)

引き違いは大開口部が作りやすく、開けても邪魔にならない

引き違いは2枚の建具が重なるように左右に移動して開閉する方式です。開き窓や開き扉と違って建具が手前や奥に出っ張って動くことがないため、限られた広さのスペースでも快適に用いることのできる、優れた省スペース性を持っています。

日ごろよく見かける間取り図では、引き違いは下の図のように描かれています。図でわかるように、向かって右側の建具が手前側にくるように設けるのが普通です。
大きな開口部を作るときに引き違いは特に威力を発揮します。開き窓では実現困難な大きな建具でも、引き違いなら何の問題もなくスムーズに用いることができるのです。

下の写真は居間とテラスの間にある、とても大きな引き違いテラス窓です。これだけ大きな開口部でも、引き違いであればスマートに、便利に収めることができます。
下の2枚の写真もやはり引き違いのテラス窓ですが、もしこれを開き窓で作ったら、限られた広さのテラスにはほとんど物が置けなくなってしまっていたことでしょう。

2枚だけでなく3枚、4枚の引き違いも作れる

引き違いで大きな開口部を作るとき、建具を2枚にするだけでなく、3枚あるいは4枚にすることで、開け放たれた部分をより広く作り出すことができます。

下の写真は居間の大きなテラス窓ですが、柱の左側を3枚の建具で割り付けています。こうすることで、窓を開け放ったときにとても大きな開放部分を作り出すことができるのです。
伊佐 強「豊見城の住宅1」
一方、下の写真ではテラス窓が4枚の建具で割り付けてあります。こうすると中央の2枚を左右に引き分けることで、真ん中に大きな開放部分ができあがってくれます。この開閉方式を「引き分け」と呼びます。
アトリエ T+K 一級建築士事務所「NA邸/家族がつながる光あふれる家」
下の写真も引き分けのテラス窓ですが、一般のサッシよりも高さがあるため、とてもシャープでキリッとしたイメージに仕上がっています。スキップフロアと吹き抜けのあるモダンな住まいにピッタリのデザインですね。
引き分けの建具は室内の障子窓にも用いることができます。下の写真のように、室内と外をつなぐ「間」である縁側を引き戸で自由に空間を行き来することができます。

引き違い窓のサイズはどれくらい?

では実際の引き違い窓はどれくらいのサイズなのでしょうか。既製品の引き違いアルミサッシを例にとると、最大で幅約4メートル、高さ約2.2メートルもの大きさで作ることができます。これは、8畳間の壁いっぱいに天井の下まで全部引き違いテラス窓が作れるほどのサイズなのです!

一方、最小の大きさになると、幅と高さの関係に注意する必要がでてきます。建具があまり縦長になってしまうと開閉が不安定になり実用性がなくなってしまいます。そこで、既製品では幅約80センチのときに、高さを最大約90センチに抑えています。建具1枚の寸法の縦横比がおおむね2対1以下に収まるように、既製品のラインナップは用意されていると言えます。

引き違い窓は拭きやすいので、高い所にも設けられる

2階や3階などの高い場所に窓を設けるとき、拭き掃除をどうするのかを前もって考えておく必要があります。屋外側のガラス面をどうやって拭くかは安全面にも関わる大切なことなので、慎重に検討する必要があります。

このとき引き違いは、建具をずらすことで屋内から簡単に屋外側のガラス面を拭き掃除することができます。窓が高い所にあっても、屋内側にいながら安全に掃除をすることができる便利さがあるのです。

下の2枚の写真は3階建て住宅の外観と内観です。2階と3階に窓がありますが、いずれも引き違いなので、屋内側から楽に安全に拭き掃除をすることができます。

障子やすりガラスとの組み合わせで、景色を切り取る窓に

引き違い窓と紙障子を組み合わせると、下の写真のように開け放ったときに半分は外が見え、もう半分は光だけが見えます。こうして、とても縦に細長い独特の景色を切り取って、屋内から眺めて楽しむことができます。

引き違いというと「半分しか開放できない」というマイナスのイメージをつい持たれてしまいがちですが、実際にはこのように、引き違いならではの楽しい演出を住まいにもたらしてくれるのです。
鳥潟 宏一「『上町の家』〜格子戸で囲まれた温かな住まい〜」
さらに、紙障子はより凝った演出をすることも可能です。下の写真のように紙障子の下半分を上にスライドさせられるようにしておくと、さらに小さな面積だけが開放されます。ここから庭の一部が切り取られて見え、残りの障子の部分からは明るい光が入ってくるという、非常に洗練された美しい窓を作り出すことができるのです。このような障子を「雪見障子」と呼びます。

レトロな魅力も引き違いならでは!

引き違いは日本に昔からある伝統的な開閉方式ですが、住まいだけでなく学校の教室や駅舎などにも多用されていたためか、どこかレトロな懐かしいイメージもあります。

下の写真の引き違い戸は、そんなレトロなイメージ満載のデザインに仕上がっています。特に壁から出っ張らせて設けたり、下半分はガラスでなく板戸にするなど、設計者の手腕の高さを感じさせますよね。

引き違いの注意点

引き違いの建具を設けるとき、ポイントになるのは重さと音・気密性、そして足元のレールです。

大きな開口部では建具が大きくなるほど重量も増え、開け閉めが大変になります。そこで建具を足元のレールで支えるのでなく上から吊って支えると、とたんに軽くなって動きもスムーズになります。この効果は絶大です!

【参考記事】
引き戸を工夫すれば、部屋がより広く見える【住宅デザインの細部】

さて建具を上から吊ると、足元のレールは不要になります。建具のこちらと向こうで床には何の仕切りもなくなり、行き来や掃除がとても快適になります。

次の注意点は音と気密性です。引き違いは機構上どうしても建具の周りに隙間ができてしまいやすいため、隣室の音が漏れたり冷暖房時の気密性が失われがちになります(アルミサッシは特殊な形状で工場生産されているので大丈夫です)。そこで遮音性や気密性を重視する部屋では、建具にモヘアやピンチブロックといった隙間用補助パーツを取り付けるとよいでしょう。
引き違いというと「普通の建具」というイメージがありますが、こうして見てみると決して平凡な存在ではなく、積極的な意味での「良き普通」であることがわかります。引き違いは建具を何種類も重ねやすい(障子+ガラス窓+網戸+雨戸など)ことや、好きな幅で開け放しておけることなど、ここでは触れなかった魅力もまだまだたくさん持っています。ぜひ引き違いの魅力の数々を知って、積極的に活用してみてください。

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