2017/09/25更新1like7176view

著者:水沼 均

戸建てリノベーションで既存住宅の良さを活かすには

この記事を書いた人

水沼 均さん

建築設計の学校で長年教師を務め、大勢の生徒さんと接してまいりました。年齢、経歴、そして住まいへの思いも大変多様で、他では得られない貴重な経験ができました。その経験を生かして、豊かな住まいづくりに役立つような記事をたくさん書いていきたいと思います。

戸建て住宅のリノベーションのいちばんの特徴は、新築と異なり、骨組みや屋根、外壁など既存の枠組みを用いて作ることです。新しい住まいは、どこかしら古い住まいの面影を残した姿となることでしょう。ならばすべてを一新してしまうばかりではなく、いにしえの住まいの古き良き姿をたたえた住まいにしたいものです。ここでは、いろいろな工夫で思い出の住まいを継承したリノベーション例を見ていくことにいたしましょう。

▽ 目次 (クリックでスクロールします)

古い骨組みを残して見せる

戸建て住宅のリノベーションは、柱や梁、小屋組(屋根の骨組み)などを再利用して作り替えるケースが大半です。そのとき古い骨組みを全部隠してしまわずに、一部を見せることによって、いにしえの住まいの記憶を目に見える姿で今に生かすことができます。

下の例では、旧家は一部に平屋部分(「下屋(げや)」といいます)を含む2階家でしたが、下屋部分の屋根骨組みだけを残して、ここを吹き抜けへと作り替えています。結果、いにしえの下屋の面影を残しながら、縦のつながりを持った魅力ある住まいになりました。
ミハデザイン「kn1983-」
また下の例では、かつて2階床があった部分の一部を吹き抜けにして、下にアトリエを設けています。そのとき2階の床梁は撤去せずにそのまま残して、かつての2階の姿を今に残しています。

既存柱を積極的に残す

骨組みの中でも、柱は特に強い存在感を持っています。家の「支え」という感じがいちばんよく現れているからでしょうか。しかし柱は、リノベーションでは時にやっかいで邪魔な存在にもなります。間取りを変えるとどうしても半端な位置に出てきてしまうからです。

こうしたとき、あえて部屋の真ん中に柱を残すことで、強力なシンボル感を柱に与えることができます。このようにして柱を新しい生活空間の一員に加えるのも、魅力的でとても楽しいことだと思いませんか?

下の例ではLDKのど真ん中に既存柱がありますが、少しも邪魔な感じはしません。むしろ、一家のシンボルの大黒柱のようにも見えます。時としてもたれかかったり、子どもさんが柱の周りを走り回ったりする景色が目に浮かんでくるようです。
下の例でも、居間の中央に既存柱を残しています。濃い色に着色された1本の柱の存在が、この居間をいっそう落ち着いて気品のある場所にしています。

新旧の場を共存させる

新しい場所と古い場所をうまく共存させることで、住まいはリノベーションならではのドラマチックな表情を持つことができます。

下の例は、築100年以上の古民家をリノベーションしたものです。古民家の持っていたたたずまいを和室として継承し、そこを取り巻くように、真っ白でモダンな新しい場所を作り出しています。
また下のリビングダイニングでは、和室だった部屋のしつらえはそのままに、床をリノベーションして新旧一体の広々とした場を作り出しています。

レトロな味わいを今に伝える

古い住まいをリノベーションするとき、旧家が持っていた懐かしいレトロな味わいは、どこかに残したくなるものです。そんなとき、旧家のたたずまいをヒントにして、新居全体もレトロなタッチでデザインすると楽しい住まいができあがります。

下の例は築50年の住まいをリノベーションしたものです。懐かしい竿縁(さおぶち)天井や真壁(柱を壁から出っ張らせて作る方法)の塗り壁など、レトロ感満載のリノベーションになっています。強い色柄のラグマットがとても似合っていますね。
美想空間|カフェハウス「仲良し夫婦が晩酌を楽しむ、和風ヴィンテージなカフェハウス」
また下の例はやはり築50年の平屋ですが、古い建具をそのまま使い、真壁のしつらえのままに新しいリビングダイニングを作り出しています。高い天井もレトロ感満載です。

縁側の面影を残す

古い日本家屋には、居室と庭との間によく縁側がついていました。冬でも日当たりがよく、ひなたぼっこにぴったりのすてきな場所でした。戸建ての住まいのリノベーションを見ていますと、縁側の跡に当たる部分を工夫して、現代的な楽しい場所を作った例が数多く見られます。

下の例は築48年のリノベーションですが、縁側だった部分の柱や梁を強調して見せて、昔の懐かしい面影を残しています。
並木秀浩「saisou house」
また下の例は1階をピアノ教室にしたリノベーションですが、縁側だった部分を土間スペースにして、庭と教室とのつながりを一層強いものにしています。

一面に真っ白に塗って新旧を溶け込ませる

下の2つの例は、既存の骨組みや屋根裏などを新築部分といっしょに、すべて真っ白に塗ったリノベーションです。白というピュアな色によって、新旧の要素は時を超えてすっかり一体に溶け込んでいます。

意外な工夫で遊び心を演出する

リノベーションをしていると、いろいろな古い要素が避けがたく残ってしまうこともあります。そんなとき少し工夫を加えることで、古い要素は新しいキャラクターを持って新居の一員となってくれます。

下の例では、広間の中央に既存の階段室を残しています。階段室の輪郭に少し丸みを持たせ独特の表情を与えることで、すっかり新居の楽しいメンバーに生まれ変わっています!
齊藤 巧「三条市S様邸バリアフリー工事」
下の例では2階の壁を取り払って、1階と一体の広々とした吹き抜け空間を作っています。そして2階の壁を支えていた骨組みだけは残して、さまざまなパーツが交錯する複雑な世界を意図的にデザインしています。全体を真っ白に塗っているので、まるで巨大な抽象芸術のオブジェの中にいるみたいですね。

外観のリノベーションもとても大切です

ここまでインテリアを中心に触れてきましたが、外観のリノベーションもとても大切な要素です。せっかくの機会ですから、外観も美しくして住まいをリフレッシュしたいですよね。

下の2枚の写真は、同じ住まいのビフォーとアフターです。リノベーション後は、まるで新築住宅のように美しく整った新居ができあがりました。
下の写真は、別の住まいのリノベーション後の外観です。ここまで美しくリノベーションができるものなんですね!
森 敬幸「大蔵の家(リフォーム)」
どちらの例も、新居に本当に必要な要素だけを残し、元の形が持っていた単純明快な魅力を強調するようにデザインされています。これこそ戸建てリノベーション外観の極意なのではないでしょうか。
主に新旧の関係を中心に、戸建てリノベーションのあり方を見てまいりました。リノベーションは実に奥が深く、さまざまな可能性に満ちあふれていることがおわかりになったかと思います。時には1本の古い柱が、これからの一家の暮らしを描く語り部になることがあるかもしれません。ぜひ、懐かしくて新しい魅力を作り出してみてください。
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