SUVACOで成約

2021/03/25更新1like3339view

著者:原 ふりあ

専門家フィーチャー

「そこにしかない合理」の追求|建築家・須藤剛さんインタビュー

この記事を書いた人

原 ふりあさん

アトリエ系設計事務所に所属して住宅や大規模建築の設計を行うかたわら、自ら設計や執筆活動も行っています。一級建築士。

「SUVACOに掲載されている事例を取り上げ、設計した建築家にインタビューする」という企画がスタートしました。記念すべき第一回目、お話を伺ったのはTsudou Design Studioを主催する須藤剛さん。

SUVACO編集部の松本さんを含めた三人でオンライントークをさせていただきました。須藤さん設計のリノベーション事例(住宅2つ/店舗1つ)を通じて、構成や素材についての考え方、さらにはコロナ禍における建築家の役割にまで話題は及びました。

▽ 目次 (クリックでスクロールします)

壊し、足して生まれる新しい価値

──今回はいずれもリノベーションの事例ですが、まず「狛江の住宅」からお話を伺えればと思います。既存の床を撤去するという大胆な構成が印象的です。どのように着想を得たのでしょうか?

須藤 「既存の住宅は地下1階地上2階の3階建てで、築50年近くが経過していました。
地下ガレージ(※写真の下半分)の天井スラブは鉄筋コンクリート造でしたが、古い建物で配筋が足りていなかったせいか、たわみやはらみが見られました。このスラブを撤去して上階のリビングと空間をつなげると、より分断されない暮らしができるだろうと思ったんです。だから、最初から床の撤去をご提案しました」

──建主さんがアウトドア系の趣味をもっていることも関係されたのでしょうか。

須藤 「そうですね。もともと、地下ガレージを工房のような趣味スペースとして使いたいというお話がありました。ガレージの天井高さは1.6メートルしかなかったんですが、座って作業するならいいかな、と仰っていて。吹き抜けにするという提案はこちらからお出ししました。

コンクリートの床を撤去して木造の床を足すって、普通の方にはイメージしづらいと思うんです。『壊せるんですか?』ってなって(笑)でも構造的には地下と地上が一体で成立しているラーメン構造(※注)なので、スラブ(一階の床)は構造じゃなかったんですよ」

(※注 ラーメン構造:構造形式の一種。柱と梁を強く接合〈=剛接合〉し、フレームとして成立させる)
須藤 「例えるなら、線路の高架上に木造平屋が載っているような構造。はじめて見たときに『このスラブは抜いて、木造で床を足すほうが合理的だ』と想像できました。だからいったん壊し、新たにつくった1階の床は少しレベル(床の高さ)を上げることで、ガレージの天井高さを確保しました」

──壊して足すことによって、レベルがいくつも生まれているのが面白いですね。

須藤 「もろくなった部分を解体しつつ、新たに加える操作で特色を生みたい、と考えています。新しく足す床やテラスの高さは慎重にコントロールしました。リビングの窓が向く南側には農地が広がっているので、視線が遠くまで抜けるようにと考えて高さを決めています」

「しりとり」のように素材を選定

──須藤さんの建築は、素材の選び方も魅力の一つと感じています。改修における素材はどのように選定されているのでしょうか?
須藤 「建物が建てられた時代から存在する素材や、できるだけ昔からあった素材を使おうと思っています。(写真左手に見える)ラワンもそうですし、モルタルやセメント板とか。当時から使われていた素材を使うと、馴染みやすいように思います。

また、隣り合う素材を関連づけて『しりとり』のように選定するようにもします。すると、しりとりの始めと終わりが全然違う素材でも、リノベーションの履歴が残り、違和感ない空間になる」
須藤 「新旧の素材を対比させるよりは、馴染ませたいという意識があります。対比させてしまうと、その時は良くても次に改修する際にやりづらくなると思うんです。歴史が断絶してしまうような……。だからあまり対比はさせたくないんです」

はじめに考える“形式”のようなもの

──「銚子の住宅」はまた雰囲気が変わります。こちらも素材感が豊かですね。木質系の素材だけでもたくさん種類が使われていますが、違和感なくまとまっているように感じられました。
須藤 「『狛江の住宅』も同じなのですが、設計する際には建物それぞれに“形式”のようなものをまず与え、その“形式”ごとに素材を考えていく──というイメージがあります。

『銚子の住宅』でいうと、インナーテラスからリビングを介してキッチンまで、長方形状につながる空間がメインになっています。そこの天井高が場所によってだんだん変わっています。

このメインの空間については、壁は白くし、天井は構造用合板を白く塗装、建具はラワン──という“形式”をまず与えました。

次に、接続する空間を考えていきます。最初に決めた“形式”から派生して『しりとり』のように。離れのような和室には、あえてメイン空間と違うシナベニヤを使ってみたり……とかですね」
須藤 「最初の“形式”を考える元となるのは、立地や既存住宅や住み手のライフスタイルです。『銚子の住宅』は郊外で面積が広い。だから家の中で遊んで仕事もしてという、多様な使い方ができるようにしました」

──部屋の真ん中に外部的空間を設けているのも特徴的ですね。

須藤 「家で過ごす時間を『食べるだけ』や『寝るだけ』ではない、豊かなものにしたかったんです。中だけど外のような場所、離れのような和室、読書をするための少し暗いスペースなど、生活を切り替えて楽しく過ごせるような場を作りました」
須藤 「竣工したのは数年前ですが、まさに今の時代に求められている課題かなと思います。先日ここの施主さんにお伺いしたときに、『遊びがいのある家だ』と仰っていて。ボルダリングの壁を作ろうと計画されているらしいんです。こんな家にしたいという理想が実現できたと思っています」

コロナ禍で変わったこと

──コロナ禍をきっかけとして、依頼内容に変化はありましたか?

須藤 「うーん、あるような、ないような……。もともと僕たちは『住宅での暮らしがいかに豊かになるか』をずっと考えていたから、僕たち側は本質的にあまり変わらないです。クライアント(建主)もそういう家を求める方ばかりでしたし。

でも今後、家の豊かさについて価値観を共有しやすくなるのかな、という気はしています。部屋数とか、駅からの距離とか、そういうスペック“ではない”住宅の価値が問われるようになったという感覚があります」

松本 「先日SUVACO会員向けにアンケートを行ったんですが、『コロナ禍で変化したこと』という問いに対して、最も多かった回答が『間取りや内装にこだわりたくなった』だったんです。考え方の変化があるのかなと思いました」

須藤 「仕事や気分転換のような、かつては家の外で行っていたことも、家の中の機能として担保しておきたい──と考える方は増えていますね。そういう意味では変化がありますね」

──「狛江の住宅」も、ガレージやテラスなど敷地内に居場所が多くあるので良いですよね。

須藤 「そうですね、『外出しなくても全然大丈夫』らしいです(笑)

ある意味で今は、僕ら(のような建築家)がいる価値というか……一緒に考える存在として意味があるのかなと思います」

地域の核となるリノベーション

──住宅ではありませんが、「ニシイケバレイ」という事例を須藤さんのウェブサイトで見て素敵だなと思いました。こちらもよかったらお話を伺いたいです。

須藤 「『ニシイケバレイ』の敷地は西池袋で、クライアントがもともと住んでいた木造平屋建物の改修です。そのエリア全体が豊かになるような施設にと計画しました。敷地内では以前からワークショップなどもされていましたが、今回新たに小さなカフェをつくり、そこを僕らが設計しています」
須藤 「オーナーは植物が好きな方なので、パーゴラを足して、そこに植物が絡むことで外部空間をより楽しめるようにしました」
須藤 「この部分(写真右側の開口部)はもともと全て壁でふさがれていましたが、既存の構造体(※基礎と柱)を残し、その外側に建具をつけています。既存を残しながらも建物を外に開きたいと考えました」

──「狛江の住宅」は水平面の層を感じましたが、「ニシイケバレイ」は平面的に層があるようですね。

須藤 「そうですね。外部があって、このダイニングテーブルが置かれた土間があって、和室があって、さらに向こう側に縁側があって、外部がある──というように、同心円状に広がる空間にしたいなと」
須藤 「もともと住宅のキッチンだったこの土間は、床を解体し、外部と同じ床レベルにしました。室内だけど縁側があります。この縁側の脚は先程のパーゴラと同じ太さで、同じ色に塗装しています。外部にある置型のベンチも同じ脚です」
須藤 「実は隣のマンションの室内も改修しているんです。その隣も飲食店に……という感じでエリア全体を段階的に計画中です。ビル街の谷地(=バレイ)の地面を活発化させ、暮らしを豊かにする場所として展開したいと考えています」

「そこにしかない合理」

最後に、私から須藤さんに「須藤さんの豊かな感覚について、インスピレーションの元となる芸術・アートや都市などがもしあれば教えてください」とご質問しました。その時は「具体的なものはなく、クライアントや敷地の個性を引き出そうとしています」とご回答をいただいたのですが、後からメールで丁寧な追加回答を送ってくださいました。

須藤さんは「アートとは離れますが、世界中、ずっと前からある小屋や民家、民芸などに惹かれます。それはグローバル化する前の時代にそこにある技術と資源や材料で作られたもので、そこにしかない合理があるからかもしれません」と。

“そこにしかない合理”とは?

例えば、アフリカではその土地で採れるバナナの木の葉っぱを屋根に使う。地中海エリアでは土中の石灰分が多いから建物が白い。というように、「その場所らしさやその使いかたが形になることで、そこにしかない美しいものがあらわれる」状態──須藤さんはその状態に感銘を受けるのだそうです。

だから自らの設計においても、住む人、既存建物、敷地の周辺環境などからしりとりのように構成や色彩や素材を決めていき、「そこにしかない家づくり」がしたい。そうすることで活き活きとした家ができるのではないかと、日々奮闘しています──と、須藤さんは書かれていました。

インタビューの最後に須藤さんは「僕の建築は一言でキャッチコピーのように言い表しづらいんですよね」と苦笑されていました。

でも、須藤さんが考える「そこにしかない合理」に基づく「そこにしかない家(建築)づくり」は必然的に毎回違うものなので、決して一言で言い表せない。まさにその“言い表せなさ”こそが、須藤さんの建築に独自性を与えるものではないかと感じました。
対応業務 注文住宅、リノベーション (戸建、マンション)
所在地 東京都新宿区
主な対応エリア 埼玉県 / 千葉県 / 東京都 / 神奈川県
目安の金額

30坪 新築一戸建て2,700〜6,000万円

60平米 フルリノベ1,200〜2,400万円

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